1 事業承継の準備
事業承継を決めるにあたっては、自社の経営状態の見直しを行い、事業の成長性に関する自社の強みと弱みについて現状の把握を行ないます。
  また、後継者を決定する必要がありますが、そのためには、経営者としての適性を見極めたり、能力の育成をする必要があります。後継者の育成が必要になる場合、事業承継の準備には 5 年~10 年程度を要することから、70 歳前後に引退をお考えの場合は、60 歳頃には事業承継に向けた準備に着手する必要があると思います。

2 代表保証が事業承継を妨げる
事業承継において、金融機関から、会社の負債について後継者による保証を求められることがあり、事業承継を妨げる一つの原因となっています。
 この代表保証の問題は、金融機関向けのルールである「経営者保証に関するガイドライン」を活用して解決できる場合があります。

このガイドラインでは、
(1)法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
(2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
(3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
 などが金融機関に求められています。

このガイドラインは金融機関を法的に拘束するものではありませんが、金融機関がこのガイドラインを尊重し、遵守すべきことを求めています。

3 後継者に十分な株式や持分を承継する
 会社の株式もしくは持分については、後継者による保有比率が少なかったり、反対勢力が一定割合を保有していると、後継者が経営上の決定権を十分に行使できなくなります。そのため、現経営者の株式を遺言で後継者に承継し、現経営者以外の株主からは株式を買い取る等の方法により、株式の保有割合の調整を行なう必要があります。

4 後継者に株式だけでなく事業用資産も承継する
 事務所やその敷地などの事業用資産が現経営者の名義になっている場合、現経営者が死亡して経営に関与していない相続人の手に渡るようなときに事業用資産が使用できなくなります。そのため、個別の資産については、事業承継の際に、現経営者から譲渡を受ける必要があります。

5 現経営者からの借入金
 会社の決算書に、現経営者からの多額の借入金の記載がある場合、相続が発生したときに相続人から借入金の返済を求められ、資金繰りに窮することもあり得ます。
    そのため、まず、借入金の実態があるかどうかを調査し、実態がなければ税理士と相談して帳簿から削除すべきでしょう。
他方、借入金の実態がある場合には、会社に体力があるときには、現経営者への返済を進めるべきでしょう。会社に体力がなく、欠損が損じている場合には、現経営者が負債の免除を行なうことも検討すべきでしょう。この場合、免除の結果、税金が課される場合もありますので、税理士と相談をする必要があると思います。

6 経営承継円滑化法の活用
 事業承継においては、次の3つが支障になる場合がありますが、経営承継円滑化法の活用によって、これらを解決できる場合があります。
① 遺留分
 現経営者が後継者に対し、自社株式を生前に贈与する場合、相続人の相続分のうちの一定割合(遺留分といいます)を侵害する場合には、後継者は相続人から、譲受財産の返還や対価の支払いを請求される場合があります(遺留分減殺請求といいます)。この請求に応じることが後継者にとって過大な経済的負担になる場合には、事業承継を進めることが困難になります。
 しかし、一定の要件を満たす場合は、経営承継円滑化法を活用することで、遺留分を計算する財産から株式を除外したり、贈与された自社株式の価格を合意時の価格に固定できます。

② 後継者の資金調達
事業承継においては、相続により後継者以外の相続人に株式や事業用財産が分散する場合があります。生前贈与や遺言をしていなかったときは、後継者が相続人に分散した株式や事業用資産を買い取る必要があります。
また、相続や生前贈与などの対策をしていた場合も、後継者には取得した株式や事業用資産などについて多額の納税義務が課される場合があります。
  さらに、現経営者の死亡もしくは退任後、売上げの減少が見込まれるというような場合に、運転資金を後継者が用意できないことも事業承継の妨げになります。
こうした資金調達の問題への対策として、経営承継円滑化法により、一定の要件を満たす場合に、都道府県知事の認定を受けて、信用保証協会の保証枠の拡大(信用保険の拡大)と後継者個人への融資が受けられる場合があります。

③ 後継者への課税
自社株式の価格が大きければ、これを生前贈与や相続によって後継者に承継する場合、後継者への課税額が大きくなりますので、事業承継の妨げになります。
  この点、一定の要件を満たせば、経営承継円滑化法を利用することで、後継者が相続税や贈与税の納税を猶予される場合があります。