紛争の内容
自動車売買代金を一部しか支払わない顧客について、契約書に基づいて解除を行い、預かり済みの売買代金から契約書に定める損害金を差し引いた残額を返還する和解を行いました。しかし、顧客が、解除は無効であり、無効な解除を前提とした和解もまた無効であると主張して、売買代金の返還と損害賠償の請求を行いました。請求額は約700万円でした。

交渉・調停・訴訟等の経過
代金不払いを理由とする解除が有効であるかを判断するための争点として、自動車代金の支払いを納車よりも先に行う契約であり、納車をしていなくても契約を解除することができるかという争点がありました。当該顧客は、当初、自己の所有する自動車を下取に入れる約束をし、残代金を現金で支払う約束をし、その後に自動車の登録を行う約束をしており、会社側はその旨を電子スケジュール帳に記録していました。また、当該顧客は残代金を期限通りに支払わず、その後、車の下取を行わないで代金を全額現金で支払うように変更を求め、いついつまでに代金の全額を現金で支払うという約束をしていました。そして、自動車の納車の時期は全く決めていませんでした。

本事例の結末
以上のような事実関係の下では、自動車代金の支払いを納車よりも先に行う契約であったと裁判所が判断し、解除は有効であり、その後の和解も有効であるため、顧客による売買代金の返還請求、及び、損害賠償請求を認めないという判決が下されました。

本事例に学ぶこと
顧客が売買契約に定める義務を履行しない場合、契約を解除して、預かり済みの代金から顧客に対して請求できる損害賠償金を差し引いて、代金の残額を返還するというような精算が必要になります。このような清算の内容について、顧客が不満を述べることがあり、本件はそのような事例でした。こうした事例では、適切な損害賠償金を計算して、預かり済みの代金からそれを差し引く清算を提案して、顧客の納得を得て、その清算を行った後はお互いに不満を言わないという内容の和解をしておくことが望ましいです。このような和解ができますと、今回の訴訟のように顧客の請求を拒むことができますので、不満を述べそうな顧客がいる場合は適切な清算を行って和解をしておくことが重要です。

弁護士 村本 拓哉