当社は、同業者であるA社に対して、売掛金債権を有していますが、A社が破産してしまいました。A社には、当社にとっても有用な運搬車両を所有しており、A社の破産管財人弁護士から、当該車両の売買が打診されたことから、当社は購入を検討しています。当社としては、購入にあたり、元々有していた売掛金債権と代金支払債務を相殺し、売掛金債権を全額回収したいのですが、そのような債権回収は認められないのでしょうか。
A社が破産手続をとる直前に、A社から当該車両を買い受けた場合には、どうでしょうか

A社の破産手続開始決定後に車両を購入し、代金支払債務を負担している点が問題となります。このように、破産者が、破産手続開始決定後に負担した債務については相殺が禁止されているため(71条1項1号)、A社に対する売掛債権と車両の代金支払債務を相殺することはできません。

一方、A社が破産手続開始の申立を行う前に車両を購入した場合には、車両の購入時期と購入者(破産債権者)の主観的要件に応じて、相殺の可否が異なってきます。
まず、A社が支払停止となった後に車両を購入したときは、購入者がA社の支払停止を知っていた場合に、相殺が禁止されることになります。

次に、A社が支払不能となった後に車両を購入したときは、購入者が、①A社の支払不能を知っており、かつ②専ら相殺に供する目的を有していた場合に、相殺が禁止されることになります。
これらに該当しない場合には、A社に対する売掛債権と車両の代金支払債務を相殺することができます。