
海外製の最新美容機器や健康家電を個人輸入し、自社のECサイトやエステサロンで販売・使用する事業者が急増しています。自宅で手軽にプロ並みのケアができるとうたう家庭用美顔器や、在宅疲れを癒すマッサージガンなどは、消費者から非常に高いニーズを集めています。
しかし、こうしたビジネスには、事業の根幹を揺るがしかねない法的リスクが潜んでいます。それが、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、通称「薬機法」に基づく「医療機器」該当性の問題です。
多くの事業者は「自分たちが扱うのは単なる家電であり、医療機関で使う大掛かりな機器ではない」という認識のもとで販売・広告を行っています。しかし、薬機法上の「医療機器」の概念は、私たちが日常的に想像するよりもはるかに広く、かつ厳格です。良かれと思って記載した宣伝文句や、海外カタログをそのまま翻訳したスペック説明が原因で、ある日突然「無承認医療機器」として行政指導や警察の摘発を受けるケースが後を絶ちません。
本稿では、EC事業者やエステサロン経営者の皆様に向けて、どのような製品が「医療機器」とみなされてしまうのか、その決定的な境界線と、実務で陥りやすい違法ケース、そして最悪の事態を避けるためのコンプライアンス戦略について、具体的に解説いたします。
美容家電・健康器具と「医療機器」の境界線

薬機法における「医療機器」の定義
まず、薬機法が「医療機器」をどう定義しているかを正確に押さえる必要があります。薬機法第2条第4項は、医療機器を「①疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている機械器具等」「②身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等」であって政令で定めるもの、と定義しています。
ここで重要なのは、医療機器に該当するか否かが、製品の形状や構造、あるいは「家電」という名称ではなく、「何のために使用されるものか」という使用目的に大きく左右される点です。見た目が一般的なマッサージ器や美顔器と同じでも、「病気を治す」「身体の構造を変化させる」ことを目的に製造・販売されていると判断されれば、立派な医療機器として扱われます。医療機器に該当すれば、厚生労働大臣の承認・認証を受けない限り、国内での製造・輸入・販売はもちろん、広告すること自体も厳しく禁じられます。
「使用目的」と「効能効果」で決まる該当性
では、使用目的はどのように判断されるのでしょうか。行政の運用上、ある機器が医療機器に当たるかは、製品自体の客観的な性能だけでなく、販売に際して事業者がどのような「効能効果」を標榜(宣伝・広告)しているかを含めて、総合的に判断されます。
「肌を清潔に保つ」「筋肉の疲れをとる」といった一般的な美容・リラクゼーションの範囲であれば、通常の家電や雑貨として扱われます。しかし、LPやパッケージ、取扱説明書、SNS投稿で「ニキビを治療する」「シミ・肝斑を消す」「細胞を活性化して若返らせる」といった、疾病の治療や身体の構造・機能への影響を明示的・暗示的にうたった瞬間、その製品は「医療機器としての使用目的を有するもの」と判断されます。
注意すべきは、海外では医療機器として扱われていない製品でも、日本の薬機法に基づく承認等がなければ、国内では「未承認医療機器」となる点です。これを販売目的で輸入し、在庫として保管したうえで消費者に売る行為は無許可営業に当たり、刑事罰の対象となる重大なリスクをはらみます。
違法となりやすいケースとNG表現
美顔器・脱毛器に潜む「不可逆的変化」の罠

美容サロンやECで頻繁に扱われる美顔器・脱毛器は、医療機器該当性のリスクが最も高い領域の一つです。効果を過大にアピールするあまり、医療の領域に踏み込んでしまうケースが少なくありません。
人体への不可逆的な変化をうたうことの法的リスク
避けるべきは、「人体への不可逆的な(元に戻らない)構造的変化」をうたう表現です。これは医師法上の「医療行為」の領域であり、用いる機器は必然的に医療機器となります。典型例がレーザー脱毛・光脱毛です。毛根の細胞を熱や光で破壊し、半永久的に発毛させないようにする行為は明確な医療行為であり、「毛根を破壊する」「永久脱毛」「二度と生えてこない」といった表現を用いれば、その機器は「組織を破壊する医療機器」とみなされます。未承認なら薬機法違反であり、さらにエステスタッフが施術を行えば、医師法違反(無資格医行為)として摘発される恐れもあります。
美顔器でも、「真皮層のコラーゲンを再生する」「細胞レベルから活性化させる」「たるみを根本から治療する」といった表現は極めて危険で、化粧品・美容雑貨の枠を完全に逸脱します。許容されるのは「角質層までの浸透をサポートする」「肌の表面を整える」「物理的なマッサージによる一時的な引き締め」など、作用が緩和で構造的変化を伴わない範囲に限られます。
マッサージ器・EMSの「治療」「疲労回復」標榜
近年大流行のマッサージガンやEMS機器、低周波治療器のような形状の健康器具でも、違反事例が多発しています。
「管理医療機器」等の認証の有無が分かれ道
「肩こりの治療」「筋肉痛の緩和」「疲労回復」「血行を促進して冷え性を治す」といった「治療・緩和・回復」の効能は、いずれも医療機器にのみ認められた表現です。これらをうたって販売するには、その製品が「家庭用マッサージ器」「家庭用低周波治療器」として第三者登録認証機関の認証を受けた「管理医療機器(クラスⅡ)」等である必要があります。
認証を取得していないにもかかわらず、「頑固な肩こりを一発解消」「血流を改善し疲労を完全リカバリー」などと記載すれば、未承認医療機器の広告・販売に該当します。医療機器の販売には届出や許可、営業所管理者の設置といった要件も課されており、無認証品を医療機器のように装う行為は流通規制の潜脱として重く扱われます。「海外パッケージにMuscle Recoveryと書いてあるから翻訳しただけ」という言い訳は通用しません。
行政指導・刑事罰を避けるための実務対応

仕入れ・開発段階での「非該当設計」と事前確認
こうしたリスクを避けるには、製品を市場に出す前の「仕入れ・開発」段階から、確固たるコンプライアンス体制を敷くことが不可欠です。まず検討すべきは「非該当設計」、すなわち製品が医療機器に該当しないことを前提としてビジネスモデルを組み立てることです。
医療機器としての承認・認証を取得する道もありますが、多大な時間とコストがかかり、一般のEC事業者やサロンには現実的でない場合が多いでしょう。そこで、機能自体を「疾病の診断・治療」や「身体構造の改変」に踏み込まない範囲に意図的に限定します。マッサージ器なら「治療用」ではなく「リラクゼーション用」、光美容器なら「毛根を破壊する出力」ではなく「肌表面のケア」を主目的とするよう、メーカーと仕様を厳密にすり合わせます。仕様や宣伝方針が固まった段階で、都道府県の薬務課など規制当局や、薬機法に精通した専門家へ事前確認(相談)を行うことも、極めて有効な防衛策となります。
広告は「美容・リラクゼーション」の範囲で
製品が非該当の仕様でも、販売時の広告表現がアウトであれば、すべてが台無しになります。薬機法第68条は、未承認医療機器等の広告を「何人も」してはならないと定めており、輸入元・販売元だけでなく、広告を制作した代理店、アフィリエイター、インフルエンサー、レビュー記事を載せたメディアまでもが規制の対象となります。
また、令和3年の薬機法改正で導入された課徴金制度も見逃せません。虚偽・誇大広告や未承認医療機器の広告に対しては、対象期間中の売上額の4.5%という高額な課徴金が課され、企業の利益を丸ごと吹き飛ばすほどの破壊力を持ちます。
そこで現場で実践すべきは、魅力を保ちつつ法的な一線を越えない「言い換え」の技術です。たとえば、「肩こりが治る」→「筋肉の疲れをとる・リフレッシュする」、「細胞を再生してシミを消す」→「肌にハリを与える・キメを整える」、「永久脱毛・毛根を破壊」→「ムダ毛のお手入れを楽にする・肌をなめらかに保つ」といった具合です。身体の内部(細胞・筋肉・骨格)への作用から、肌の表面や使用者の気分(リラックス・リフレッシュ)へと表現の軸をずらすことが、摘発を回避する最大のコツです。
なお、インフルエンサーやアフィリエイターなどの外部委託先に対しても、NGワードと使用可能な表現のガイドラインを提示し、定期的にモニタリングする責任が企業にはあります。「インフルエンサーが勝手に書いた」という言い訳は、広告主としての責任を免れさせるものではありません。
まとめ

ECで人気の美容家電や、サロンに導入される海外製の最新機器は、消費者の美と健康への欲求を満たす大きなビジネスチャンスです。しかし、「医療機器」という薬機法上の規制ラインを理解せずに突き進めば、ある日突然の行政指導や刑事告発、そして多額の課徴金によって、企業そのものが破滅に追い込まれる危険を常にはらんでいます。
美容家電・健康器具と医療機器を分ける決定的な要素は、製品の「使用目的」と、それを消費者に伝える「効能効果の標榜(広告表現)」に他なりません。「人体への不可逆的な変化」や「疾患の治療・改善」をうたうことは、たとえ海外で事実とされていても、日本の法制度下では極めて危険な行為です。仕入れ・開発段階からの「非該当設計」、広告表現の徹底した「言い換え」、そして外部委託先を含む厳格な社内チェック体制の構築こそが、事業を持続的に成長させる鍵となります。法律はビジネスの足かせではありません。ルールを正しく理解し、透明性の高い適法な情報発信を徹底する企業こそが、長期的なブランド価値と消費者の真の信頼を獲得できるのです。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭
薬機法
中央大学法科大学院・埼玉工業大学での講師活動、法テラス民事法律扶助審査委員・埼玉県意見表明等支援員としての公的活動を通じ、幅広い法的知見を持って依頼人の権利と事業を守る。公益社団法人埼玉県暴力追放・薬物乱用防止センター主催の不当要求防止責任者講習でも講師を務め、民事介入暴力対策委員会・子どもの権利委員会所属。









