
近年、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)の役割が劇的に変化しているようにうかがえます。
かつては「特許や商標が取れなかったときの補完的手段」と見なされがちだった不競法ですが、現在は、デジタル資産、ビッグデータ、そして国境を越えた技術流出に対抗するための「主役」へと躍り出ました。
特に2024年4月に施行された改正法は、実務運用が定着してきた2026年現在、企業の知財戦略に決定的な影響を与えています。
本コラムは、最新の裁判例が示す法的境界線と、改正法がもたらした実務上の劇的な変化を、4つの重要視点から徹底解説します。
デジタル空間の「形態模倣」に対する規制について

2024年改正の最大のトピックの一つは、2条1項3号(形態模倣行為)の対象に「電気通信回線を通じた提供」が明示されたことです。
これにより、物理的な「モノ」を持たないデジタルコンテンツのデッドコピーに対し、法律の網が完全にかかりました。
デジタル空間、特にメタバース上のアバター衣装や建築物の模倣については、2025年から2026年にかけて重要な下級審裁判例が積み上がっています。
裁判所は、形態の「実質的同一性」の判断において、「需要者が観察した際の全体的印象」が重視されてきました。
デジタル事案でもこの枠組みは維持されていますが、特筆すべきは「データ構造の類似性」が間接事実として重視される傾向にある点です。
例えば、NFTアイテムの模倣事案では、外見の酷似だけでなく、ポリゴンメッシュの構成やテクスチャのパッチワーク手法が「自力開発では到達し得ないほど一致しているか」が、専門家委員の意見を交えて厳格に審査されるようになっています。
デジタル商品の保護期間は、日本国内での提供開始から「3年間」です。
デジタル空間の流行サイクルは非常に早いですが、この3年という短期間を前提に、リリース時の証拠(タイムスタンプ、公開URL、プレスリリース)を確実に保存する「守りのルーチン」が、差止請求の成否を分けます。
「限定提供データ」の拡充

2024年改正で、注目される一つに「限定提供データ(2条1項7号等)」の定義変更があります。
これまで、この規定で保護されるためには、データが「秘密として管理されていないこと」が要件でしたが、改正により「秘密管理されているデータ」も限定提供データの対象に含まれることになりました。
以前は、企業がID・パスワードで管理しているデータは、厳格な「営業秘密(2条1項4号等)」として保護されるか、あるいは全く保護されないかの二択でした。
しかし、営業秘密として認められるには「非公知性(世の中に知られていないこと)」という高いハードルがあります。
法改正により、他社と共有しているビッグデータ(走行データ、在庫管理データ、POSデータなど)が、たとえ業界内である程度知られた情報を含んでいたとしても、「特定の相手にのみ提供するデータ」であれば、不正な取得や使用に対して不競法による保護が受けられるようになりました。
2025年の裁判例では、複数の製造業者が共有していたサプライチェーンの稼働状況データについて、アクセス権限を悪用して取得した行為に対し、営業秘密としての要件(非公知性)を厳格に問うことなく、限定提供データの侵害として差止めを認めたものがあります。
これは、DXを推進する企業にとって、データ共有のリスクを法的にコントロールできる強力な武器となりました。
営業秘密の国際流出と「日本の裁判所」の管轄権

日本企業の技術が海外競合他社に流出する事案は、もはや日常的なリスクです。
2024年改正以前は、海外で行われた不正行為に対して日本の裁判所で訴訟を提起できるか(国際裁判管轄)が、解釈上不明確な部分がありました。
改正法では、日本国内で事業を営む者の営業秘密が、日本国外で不正に取得・使用・開示された場合でも、日本の裁判所に訴えを提起できることが明文化されました。
さらに、2026年現在の実務では、元従業員が海外の競合他社に転職し、そこで日本の元勤務先の技術を使用している疑いがある場合、「日本国内にその製品が輸入される可能性」があれば、日本の裁判所での管轄を認める運用が定着しています。
また、5条の2(使用の推定規定)の拡充も注目すべき点です。
最新の判例では、AIによるコード生成やシミュレーションを用いた「独自開発」の抗弁がなされるケースが増えていますが、裁判所は開発プロセス(設計図、実験ノート、修正履歴)の客観的な提出を厳しく求める傾向にあります。
損害賠償額の算定合理化に関する法改正

不競法は長年、「勝っても賠償額が少ない」と言われてきました。
これを打破したのが、5条1項および1項2号の改正です。
以前は、権利者の「販売能力」を超える部分の侵害品の販売については、損害賠償が認められないことがありました。
しかし改正により、自社の販売能力を超える部分についても、侵害者に「ライセンス料相当額」を請求できることが明確になりました。
さらに、このライセンス料相当額の算定にあたっては、裁判所が「侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額」を考慮できるようになり(5条3項)、事実上、通常のライセンス相場よりも高い金額が認定される傾向にあります。
プラットフォーム事業者と「周知・著名表示」の保護

不競法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)および2号(著名表示冒用行為)に関しても、デジタルプラットフォーム上の責任が厳しく問われるようになっています。
2024年後半から2025年にかけての裁判例では、ECサイトやSNS上の広告において、他社の有名なブランド名や商品名をハッシュタグやキーワードとして不適切に使用する行為に対し、「混同の恐れ」を広く認める判断が示されました。
特に、メタバース内でのブランドロゴの無断使用について、プラットフォーム事業者が権利者からの削除要請(ノーティス)を放置した場合、プラットフォーム自体の責任が問われる可能性(幇助責任)を示唆する判示も現れており、運営側のコンプライアンス体制もアップデートを迫られています。
おわりに

最新の判例と改正法を概観して言えるのは、「裁判所は、正当な努力の結果としての成果(データ、形態、秘密)を、より手厚く、より広範囲に守る方向に舵を切っている」ということです。
しかし、法的な保護を受けるためには、企業側にも相応の「備え」が求められます。
・新商品のリリース日とオリジナリティを証明する資料を3年間保管する。
・アクセス権限を適切に設定し、ログを記録する。「秘密」か「共有データ」かの格付けを明確にする。
・万が一の際に「ライセンス料」の根拠となるような、他社との過去の取引実績や業界相場を整理しておく。
これからの時代、不競法を単なる紛争解決の道具としてではなく、自社の市場優位性を確立するための「戦略的インフラ」として捉え直すことが、企業の持続的な成長には不可欠です。
まとめ

貴社の大切な「技術」「データ」「デザイン」が、現在の法制度下で十分に守られているか、最新の判例基準に基づいたリーガルチェックを行うことをお勧めします。
特に2024年以降の契約書(秘密保持契約やデータ共同利用契約)の見直しは、喫緊の課題です。
お悩みがありましたら、まずは弁護士にご相談ください。
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