
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
ブランド価値を維持するために「安売り」を制限したいと考えたことはありますか。メーカーの営業現場では切実な願いですが、一歩間違えれば独占禁止法が禁じる「再販売価格維持」として厳しい制裁の対象となり得ます。特にエージェント(代理店)モデルを採用している企業では、自社の一部という感覚から価格指定を行いがちですが、法的には「独立した事業者」間の取引とみなされる落とし穴があります。本コラムでは、実務上の「セーフ」と「アウト」の境界線を弁護士の視点で解説します。
価格指定の独禁法上の問題点

「せっかくのブランド商品が、ECサイトで叩き売られている。なんとか価格を戻させたい」 、「流通全体の利益を確保しなければ、販売店が疲弊してプロモーションに力を入れてもらえなくなる」。
メーカーやサプライヤーの営業現場からは、このような切実な声が日々聞こえてきます。ブランドイメージを保護し、健全な流通網を維持しようとする熱意自体は、ビジネス戦略として否定されるものではありません。しかし、この熱意が「価格の指定」という形をとった瞬間、公正取引委員会(公取委)の厳しい監視対象となります。
独占禁止法は、事業者が自らの判断で価格を決める「価格競争」を市場の根幹と考えています。そのため、売り手が買い手(販売店)の販売価格を拘束することは、原則として不公正な取引方法(独占禁止法第19条)に該当し、固く禁じられます。
「再販売価格維持」の基礎知識

独占禁止法第19条は、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」と定めています。これに基づき、公取委が指定する「一般指定」の第12項において、いわゆる「再販売価格の拘束」が禁止されています。
具体的には、独禁法第2条第9項第4号において、以下のように定義されています。
自己の供給する商品を購入する相手方に対し、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束を条件として、当該商品を供給すること。
・相手方に対し、その販売する当該商品の販売価格を決定し、これを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を阻害すること。
ここでいう「拘束」とは、契約書に明記されている場合に限りません。実務上は、文書による合意がなくても、相手方の自由な意思を妨げる「実質的な強制力」があれば、すべてアウトとみなされる可能性があります。
どこまでが「セーフ」で、どこからが「アウト」か?

単に「希望小売価格」や「参考価格」をカタログに印刷し、提示すること自体は、原則として問題ないと考えられます。また、市場の価格動向を情報提供として伝えることも、それ自体に強制力が伴わなければ、セーフといえます。すなわち、あくまで販売店が「自分の判断で」価格を決めている状態を維持する必要があるということになります。
グレーからアウトへの転換点
問題は、価格提示に下記のような制裁が加わったときと考えられます。
- 経済的な不利益の示唆: 「指示通りの価格で売らないなら、リベート(割戻金)をカットする」、「次回の出荷割当を減らす」といった示唆。
- 心理的な圧力と監視: 営業担当者が頻繁に店頭やECサイトの価格を巡回チェックし、安売りしている店に対して修正を執拗に迫る行為。
公取委は、販売店側が「メーカーの意向に沿わないと、今後の取引で不利益を被る」と恐れて価格を維持している実態があれば、それを「拘束」と認定する可能性があります。
違反した場合の代償:社会的信用と法的手続

再販売価格維持の疑いで公取委の調査が入った場合、下記のとおり、企業が負うダメージは甚大です。
- 排除措置命令と実名公表: 違反と認定されれば、不当な行為を即座にやめるよう命じられ、その事実は公取委のサイトで公開されます。「価格を吊り上げ、消費者の利益を損なった企業」というレッテルは、ブランド価値を毀損してしまう恐れもあります。
- 課徴金のリスク: かつて再販売価格維持は課徴金の対象外でしたが、現在は一定の条件下で課徴金が課されるケースも想定されます。
- 民事訴訟: 独禁法25条は「無過失賠償責任」を規定しており、違反した事業者は、故意や過失がなかったと証明しても、被害者(不当に高い価格で買わされた消費者や排除された販売店)からの損害賠償を免れることはできません。
まとめ

ブランド価値を守りたいという経営者の想いを実現するためには、「価格を縛る」という安易な手法ではなく、法的にクリーンな戦略が必要です。
例えば、価格ではなく、アフターサービスや店舗装飾、専門知識の提供によって、安売りしなくても売れる環境を支援したり、在庫リスクを販売店ではなく、メーカーが負う適正な受託販売モデルを取ること等が重要となります。また、営業マニュアルや販売店とのメールに、不当な拘束と取られる文言がないかを事前にスクリーニングすることも大切といえます。
このように、独占禁止法は専門的な法分野だといえますので、お悩みの際には、同法に精通した弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。
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