セクシャルハラスメントの問題で、加害者としてあるいは会社が使用者として訴えられた場合、どのように対応すべきでしょうか。この記事では、セクハラの訴えに関する対処法について、弁護士が法律上の責任を整理し、具体的な裁判例なども踏まえつつポイントを押さえて解説します。

セクハラの加害者として訴えられたら?会社としての使用者責任って?訴訟のリスク・対処についての解説

1989年(平成元年)、日本でセクハラが問題になった最初の訴訟が福岡地方裁判所に提起されました。それ以降、問題解決のためにセクハラの被害を受けたと主張する方が、行為者に対して不法行為責任や会社の使用者責任を問うための訴訟が日々提起されているのです。社会的な機運の高まりにより、法整備や指針などが国から出されてはいるものの、訴訟事件は決してゼロにはなりません。
今回の記事は、セクハラの加害者として訴えられてしまったら、被告側となる側(行為者・会社)はどうすればよいのかということを、セクハラの該当性やこれまでの裁判例なども踏まえ、解説します。

そもそもセクハラに当たる言動ってどんなもの?(1/7)

法律上の定義

セクハラの法律上の定義は、男女雇用機会均等法11条1項で定められています。すなわち、
「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」
として、会社に対しセクハラ行為に対する措置義務を定めています。
この法律上の文言からも明らかなように被害者は男性か女性かを問わず、上司と部下といった上下関係も問いません。

会社(事業主)は、①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるセクハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応が求められており、措置を履行していない会社には、国(労働局)から是正指導を受けることもありますし、更に指導・勧告に従わなければ企業名を公表されてしまうこともありえます。

また、被害者とされる方との関係では、直接的な責任を問う方法として訴訟を起こされてしまうということもあります。

セクハラに該当するかどうかの判断

セクハラが問題になるのは「職場」での言動となりますが、これは「労働者が業務を遂行する場所」ということであって、会社の(建物の)中だけでなく、業務を遂行する場所であれば、これに該当しうることになります。

例えば、
取引先に移動中の車の中、
出張先のホテル、宴会の席(職務との関連性・参加の任意性の薄いもの)
なども職場であって、セクハラ行為が発生しうるということです。

具体なセクハラ行為としては、2つの類型があるとされ、
①対価型セクハラ
・上司が部下をデートに誘ったが無視されたため、その部下のボーナス査定をゼロとした
・社長が契約社員に性的関係を求めたが拒まれたため、次回の契約を打ち切りにした
②環境型セクハラ
・性的な冗談を言う
・性的事実に関する質問をする
・食事やデートに誘う
・身体に不必要に接触する
・性的な話をして盛り上がる
・「女は結婚してすぐ辞める」
・「男なんだから、結果を出せ」
・女性だからとお茶汲みをさせたり、飲み会でお酌を強要する
といったものが典型的なものとしてあります。

セクハラ行為があったとされたときの初動(2/7)

どのような立場で訴えられるか

セクハラがあったとして訴えられた場合、その立場としては「セクハラ行為をした主体」つまり、「セクハラ加害者」として被告になる場合と、そのセクハラ行為を発生させてしまった会社としての責任(セクハラ加害者が社員という場合、その社員の違法行為が「事業の執行について」行われたという場合の使用者責任、会社がセクハラ行為に対し適切な対応をとらなかったという不法行為責任、職場の安全配慮義務を履行しなかったという債務不履行責任)を問われている「会社」として被告になる場合とがあります。

セクハラ加害者として訴えられたときの対応

最初に、「セクハラ加害者」として被告になってしまった場合、原告であるセクハラの被害者とされる者は、被告に対し「性的自己決定権などの人格権」や、「働きやすい職場環境の中で働く利益」を侵害されたとして不法行為責任を追及することが考えられます。

また、実際の裁判例としてはあまり多くはありませんが、セクハラによって自らの名誉を毀損されたとして、「名誉棄損」による責任を追及することも考えられます。当然のことながら、このような主張を受けた事実の有無や、その責任の範囲などについて、争っていくことが考えられます。

会社がセクハラ行為についての使用者責任・債務不履行責任を問われているときの対応

セクハラの被害者や加害者を雇用する企業は、労働契約上の付随義務または不法行為法上の注意義務として、労働者に対し「働きやすい良好な職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)」を負っているとされています。そこで、セクハラが発生した場合には、この義務に違反したものとして、債務不履行ないし不法行為を理由に責任追及される可能性があります。

また、加害者のセクハラ行為は、「事業の執行につき」つまり、業務に付随して行われることもありえます。そのような場合には、使用者たる事業主には、使用者責任という民法上認められた特別な責任が追及されることもあります。

そこで、会社としては、被告として訴訟に臨むにあたっては、セクハラ加害者とされる者と同様、セクハラ行為の有無自体を争うこともあれば、セクハラが発生しないように配慮したことなどを主張していくことが考えられます。

セクハラ行為が認められるか否か3/7

セクハラ行為に身に覚えがないとき

セクハラの有無については、事実調査を実施されることが通常でしょう。会社から身に覚えのないセクハラの調査を受けた場合には、その旨を会社にきちんと説明すべきですし、会社もその反論について真摯に向き合う必要があります。

もし、セクハラ行為について事情の説明を受け、身に覚えがないという主張について一定の合理性がありそうだという場合であるにもかかわらず、会社として当該加害者とされた者に対し何らかの処分がされた場合には、逆にその加害者とされた者から損害賠償請求等が求められる可能性もあります。

また、セクハラ行為がないにもかかわらず、セクハラの報告が会社やその他窓口にされるなどした場合には、そのような虚偽の報告が、加害者とされた者に対する名誉権の侵害となることもあるでしょう。そうなれば、逆にセクハラ報告者に不法行為責任が問われ、慰謝料や謝罪文の作成・交付を認められてしまうこともあります。

公然と事実を摘示して、相手の名誉を貶めた場合には、刑法上の名誉棄損罪となりえます。事実を摘示しなくとも、公然と相手方を侮辱すれば侮辱罪が成立することもあります。

会社から身に覚えのないセクハラの指摘により懲戒処分を受けた場合には、その懲戒処分の有効性について争うことも考えられます。

会社側も、懲戒権が認められるためには、就業規則(これは「就業規則」と銘打つものだけではなく、雇用契約書や労働条件通知書等の書面も含まれると考えられています)に懲戒についての規定(懲戒の種類や事由が定められている必要がありますので、規定にない内容の懲戒処分や懲戒事由の処分はできません。また、就業規則は「周知」されている必要がありますので、この点も注意が必要です。

そこで、処分を受ける側も、このような懲戒規定があるのかを確認することが重要です。必要に応じて、弁護士に法律相談をすることも検討してみてください。

セクハラ行為の事実はあると判断されるとき

セクハラ行為の事実があると判断されるときは、当該行為について謝罪し、慰謝料その他の賠償責任を問われることがあることを加害者側としては覚悟せねばなりません。

会社側としては、セクハラ被害者の相談や苦情に対応し、具体的な問題解決ができるよう対処せねばなりません。また、前述の懲戒規定があり、かつその規定に該当する内容の行為が認められるのであれば、その措置も検討する必要があります。

懲戒処分の内容については、実際にあったと認められるセクハラ行為の内容に応じて、戒告、譴責(けんせき)、始末書の提出、減給、降格、停職、解雇等が考えられますが、問題となったセクハラ行為と処分の内容のバランスを欠いていないかということにも配慮せねばなりません。

実際に認定できたセクハラ行為に比して、処分内容が重すぎるという場合には、当該セクハラ加害者から不服の申立がされ、場合によっては訴訟などでも争われて、処分が無効あるいは取消となることもあります。
懲戒免職としたけれども、それが無効とされた場合には、免職とされた後の給与などを支払う必要があります。
また、懲戒免職になっても、当然に退職金の全額不支給ができるわけではありませんから注意してください。

セクハラがあったとされる場合に会社が負うべき責任4/7

セクハラの被害者としては、セクハラ加害者・企業に対し、上記の責任として、損害賠償請求をすることも可能です。通院・休業等せざるを得なくなったという損害だけでなく、精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の支払義務が認められるケースもあります。

セクハラ訴訟での問題点 5/7

(1)「意に反している」かどうか
セクハラ訴訟において、加害者とされる側・会社側の反論として、当該言動が「(被害者とされる者の)意に反していなかった」と主張されることがあります。

言った相手から「明白な拒否の姿勢が示されていない」とか、「言動も許されていると誤信していた」などという反論がこのような主張に当たるわけですが、このような反論は適切といえるでしょうか。
残念ながら、「相手の意に反していなかったか否か」ということは、そもそもセクハラ行為の成立を明確に否定できる基準とはなりません。
なぜならば、セクハラが生じうる関係性というのは、必ずしも対等な両当事者間で生じるわけではなく、支配従属関係が存する下での性的言動が問題になるからです。つまり、被害者にとっては、そのセクハラ行為に対しては拒否したりすることは難しく、むしろ今後の自分の立場が悪くならないように迎合的な態度をとらざるを得ないこともあるでしょう。

したがって、「(被害者とされる者の)意に反していなかった」という主張は、必ずしもセクハラ該当性を否定できる反論とはいいきれない点は、注意する必要があります。

(2)「セクハラ懲戒の具体的方針の認識機会があったか」「事前警告や注意等受けていたか」について
セクハラ加害者に対し、会社が懲戒処分・降格処分などをした会社側の対応に対し、逆にセクハラ加害者から会社に「処分が重すぎる」などとしてその処分の有効性を争われてしまうことがあります。そしてその中で、「自分は会社から注意などを受けていなかった」などと反論されることがありえます。

もちろん、会社としてはセクハラ加害者に対しセクハラ行為が認められる場合には就業規則等に定められた適切な手続を経て処分をせねばなりませんが、それらがなされていたという前提で、なお加害者側の認識を重要視することが必要でしょうか。
まず、この点はセクハラ行為により懲戒を受けた加害者の立場なども非常に重要になってきます。

つまり、この加害者が管理職の立場にあったということであれば、会社のセクハラ防止に対する方針や取り組みを当然に知っていて然るべき立場といえます。

さらに、当該問題の言動が長期にわたり継続されていたとすれば、それだけ加害者自身に自己の加害者性を当然認識すべき状況にあったといえます。

セクハラ行為が密室で行われ、被害申告も会社側になかなかなされないということは決して珍しいことではありません。そのため、セクハラが会社側に発覚してから会社の処分がなされるまでに、直ちに警告や注意等を行える機会がないという場合もあるでしょう。

最高裁の判例においても、上記のような要素を基に、必ずしも懲戒の認識機会や事前警告や注意等がなくても、それを「加害者がわに有利に斟酌しうる事情ではない」としているものがあります。

あくまでも会社側は、その段階でなすべき対応をしていればよい、ということです。
会社側は、被害者への対応(今後の流れの説明、事実の調査、事後的なケア等)を迅速にすべきと同時に、加害者への対応(事実の調査、セクハラが認められた場合の処分、ハラスメントを再発防止するための研修)も迅速にされなければなりません。

また、従業員一般に対し、セクハラになりうる行為の一覧やハラスメント行為を行った場合の処分を明示しておいて注意を促したり、被害を受けたり被害を見聞きした際の対策や対処法、注意すべきポイント等を周知するなどということも予防のためには必要でしょう。

セクハラ行為が問題になった裁判例等 6/7

(1)民事裁判の場合
また、「意に反していなかった」ということのほかに、加害者側から「良かれと思って述べたこと、やったことだ」という反論がなされ、会社側もこれを前提に責任を否定しようとすることもありえるかもしれません。
しかし、セクハラ該当性で重要なのは、パワハラとは異なり、言動を「受けた側」の感じ方です。

最高裁での判例では、たとえば以下のような言動も、「セクハラ行為に該当する」としています。
・「いくつになったん」「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」
・「30歳は、22,3歳の子から見たら、おばさんやで。」「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」
・「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」

このような発言は、発言者からすれば、その人の将来などを気にかけて言ったつもりなのかもしれません。また、発言者の性的な欲求を充たしたりするための発言でもないでしょう。
しかし、最高裁は、当該発言について「女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる」として、セクハラ行為であると認定しました。

(2)刑事裁判の場合
セクハラ行為が犯罪として刑法に触れる場合の各犯罪の例について簡単に説明します。
典型的に考えられる犯罪としては、公然わいせつ罪、強制性交等罪、強制わいせつ罪、強要罪、名誉棄損罪、侮辱罪 といったものがありますが、ストーカー行為等の規制等に関する法律に違反し、つきまとい等として問題になることもあります。

また、軽犯罪法ののぞき見や迷惑防止条例といった都道府県ごとの条例によって刑事罰が科されることもあります。

セクハラ事例において認められている慰謝料額について 7/7

(1)セクハラ加害者に認められている慰謝料額について
セクハラが裁判などで争点とされるようになった平成2年ころから、裁判で認められた慰謝料は概ね30万円程度から300万円程度の範囲に多く分布しているとされていますが、ひどいセクハラ被害の場合は500万円を超えるケースも見られます。

むろん、セクハラがあったからといって、精神的苦痛がなかったとされる場合には慰謝料支払義務を否定される場合もありますが、上記のとおり慰謝料だけではなく休業損害なども請求された場合にはさらに高額な賠償責任を負うかもしれないということであって、企業にもこのような責任が問われかねないということは理解しなければなりません。

(2)使用者側に認められている慰謝料額について
使用者側が支払うべき慰謝料の金額としては、ケース別に①セクハラ加害者の行為を「事業の執行につき」行われたものという使用者責任が問われた場合と、②会社が職場におけるセクハラに対して適切な措置を事前ないしは事後にとらなかったという安全配慮義務違反という債務不履行責任または不法行為責任として問われた場合があります。

①のケースですと、(1)セクハラ加害者に認められているものと同程度、慰謝料の認定がされている場合が多いようです。

これに対して、②のケースですと、使用者たる会社自身が、固有の慰謝料として50万円程度の支払い義務があると認定されているケースが見られるようです。

(3)慰謝料が認められない場合
セクハラ行為が証拠などの不足などにより認められない場合には、もちろん慰謝料の支払義務もないということになりますが、セクハラ行為自体は認められるものの、慰謝料の支払義務が認められなかったというケースもあります。

具体的には、「精神的損害を被ったとまではいえない」とされている場合や、行為の合意までは認められないものの、被害者の軽率さや無防備さを慰謝料の減額要素として考慮されている裁判例も散見されます。

また、職場でなされたセクハラ行為であっても、たとえば職場の更衣室で着替えている様子をのぞき見・盗撮したというケースで、会社に対する使用者責任は「事業の執行につき行われたものではない」として否定されたものがあります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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