公正取引員会の公開する「令和3年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」を題材に,下請法の運用状況や,下請法違反とされた事例、その傾向を解説するとともに,下請法違反があった場合の罰則などについて解説します。

この記事では、公正取引員会が公開している「令和3年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」を題材に,公正取引委員会による下請法の運用状況や,下請法違反とされた事例、その傾向を解説するとともに,下請法違反があった場合にはどうなるのかについて解説します。
※以下,件数などについては,上記報告書から引用します。

公正取引委員会による定期調査

皆さまのお手元にも,公正取引委員会や中小企業庁から,「下請事業者との取引に関する調査」または「親事業者との取引に関する調査」といったアンケートのような手紙が送られて来たことはありませんか?
公正取引委員会(および中小企業庁)は,毎年,親事業者及び下請事業者に対して,下請法違反事実が無いかどうかなどの定期調査をしています。
令和3年度の定期調査では,8369件もの下請法違反被疑事件(実際に違反だとされたものだけでなく,違反している疑いがあるものも含まれています。)が見つかったとのことです。
この数字は,令和元年度(8360件)や令和2年度(8291件)と比べても減っておらず,より一層の下請法の遵守について求められているところです。

なお,この定期調査は,下請取引を公正ならしめるために親事業者や下請事業者への調査権限を認めた下請法第9条1項の規定に基づいて実施されています。
したがって,親事業者または下請事業者に当たる場合には,下請法上の報告義務(すなわち,この定期調査への協力義務)があるということになります。報告を行わない,または虚偽の報告をした場合には、下請法第11条、第12条によって、50万円以下の罰金が科せられる可能性がありますので,誠実に対応したほうが良いと言えるでしょう。

下請法違反の内容について

上記の下請法違反被疑事件のうち,実際に下請法違反が認められ,指導または勧告(後述します)が行われた件数は,7926件だったそうです。
これをさらに違反の類型別に分けると,およそ44%が手続的な違反(下請法3条の書面交付義務に関する違反や,5条の書類保存義務に関する違反),56%が実体法的な違反(下請法が禁止する各行為をした違反)とのことでした。

手続的な違反で多いのは,下請法3条の書面交付義務に関する違反であり,これが8~9割ほどを占めています。
一方,実体法的な違反で多いのは,
・1位 下請代金の支払遅延(第4条1項2号)
・2位 下請代金の減額(第4条1項3号)
・3位 買いたたき(第4条1項5号)
となっており,これら3つの類型の違反数で8~9割ほどとなっています。
中でも支払遅延が半数以上を占めており,いかに下請代金が下請法通りに適正に支払われていないかが分かります。

具体的な違反事例

ここで,実体法的な違反件数が多かった上記3つの類型について,具体的な違反例を確認してみましょう。

⑴ 下請代金の支払遅延

① ある親事業者は,「毎月末日納品締切,翌々月5日支払」又は「毎月末日納品締切、翌々月8日支払」の支払制度を採っていた。
「令和3年度における中部地区の下請法の運用状況等について」6頁1①より
→例えば,1月1日に納品された商品については,この親事業者の場合,3月5日(又は8日)に下請代金を支払うことになります。そうすると,60日を経過して下請代金を支払っていることになり,下請法違反となります。

② ある親事業者は,下請事業者から受け取った製品について,下請事業者の責めに帰すべき理由がない不合格品が発生した場合に,自社で行うその不良箇所の修正完了日を支払期日の起算日としていた。
「令和3年度における東北地区の下請法の運用状況等について」6頁1①より
→受け取った製品について不良箇所があった場合でも,それが下請事業者の責めに帰すべきものではない場合には,給付の時点(製品を受け取った時点)から60日以内に下請代金を支払う必要があります。

③ ある親事業者は,下請事業者から遅れて請求書が提出されたことを理由に,下請事業者から製品を受け取った日から60日を経過して下請代金を支払った。
「令和3年度における中国地区の下請法の運用状況等について」6頁1②より
→下請代金の支払期日の起算点は給付があった時点(納品があった時点)になります。したがって,請求書が遅れて届いたとしても,製品を受け取った日から60日を経過して下請代金を支払った場合には下請法違反となります。

 ある親事業者は,下請代金の支払期日が金融機関の休業日(土日祝日など)だったため,金融機関の翌営業日(休み明けの平日など)に下請代金を支払った。
「令和3年度における中国地区の下請法の運用状況等について」6頁1③より
→このような場合に,支払期日を金融機関の翌営業日(休み明けの平日など)に順延するには,下請事業者との間で,あらかじめ,下請代金の支払期日が金融機関の休業日に当たった場合に,支払期日を金融機関の翌営業日にすることについて書面で合意する必要があります。事前に書面で合意していない場合には,支払期日を順延することはできませんから,金融機関が休みに入る前に下請代金を支払う必要があります。

⑵ 下請代金の減額

① ある親事業者は,下請代金を振り込んで支払う際,下請代金の金額から振込手数料を差し引いて支払った。
「令和3年度における中部地区の下請法の運用状況等について」6頁2①より
→下請代金支払いの際の振込手数料の負担は,原則として支払う側が負うべきものです。ただし,事前に,下請事業者との間で,振込手数料を下請事業者が負担する旨書面で合意をした場合には,下請事業者側に負担させる(下請代金の金額から差し引く)ことができます。
なお,そのような事前の合意をしていた場合でも,振込手数料の実費を超えて,一律の手数料を下請代金の金額から差し引くことは,下請代金の減額に当たるとされています(「令和3年度における中国地区の下請法の運用状況等について」6頁2③より)。

② ある親事業者は,「請負作業調整費」と称して,下請代金の金額に一定の割合をかけた金額を,下請代金から減額していた。
「令和3年度における東北地区の下請法の運用状況等について」6頁2③より
→「歩引き」「リベート」「物流費」「協力費」「手数料」など,様々な名目で下請代金を減額している例がありますが,これらによる減額について,公正取引委員会は原則として下請法違反となる可能性が高いと考えているようです。
例えば,ボリュームディスカウントのような合理的理由に基づく割戻金などで,事前に合意し適切に書面にも残すなどをしない限りは,なかなか適法とはされていない印象です。

③ ある親事業者は,下請事業者に委託した作業のうち一部が不要になったことを理由として,当該作業が完了していたにもかかわらず,当該作業についての代金を下請代金の金額から減額した。
「令和3年度における中国地区の下請法の運用状況等について」6頁2①より
→この事案で作業が不要になったというのは,親事業者の都合でしかなく,「下請事業者の責に帰すべき理由」がありません。当該作業が完了していた以上,親事業者は当該作業の下請代金も支払う必要があります。

⑶ 買いたたき

① ある親事業者は,下請事業者と十分に協議することなく,自社の基準で決定した(通常より著しく低い)単価によって,一方的に下請代金の金額を定めていた。
「令和3年度における中部地区の下請法の運用状況等について」6頁3より
→発注をする際に,その下請代金について自社内の基準を参考に交渉すること自体は妨げられませんが,その(自社内の)通常より著しく低い単価を,下請事業者と十分に協議することなく一方的に押し付けて,下請代金の金額を定めることは下請法違反となります。

② ある親事業者は,継続的に取引をしている下請事業者との取引において,新型コロナウイルス感染症の影響によりその発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず,単価を見直すことなく,従来の量産時の発注数を前提とした安い単価のままで,一方的に下請代金の金額を定めていた。
「令和3年度における東北地区の下請法の運用状況等について」6頁3より
→大量生産をする場合と少量の生産をする場合とでは,生産にかかるコストが異なることが一般的ですから,自ずと適正な下請代金の金額も異なってくることが考えられます。したがって,発注数が従来と大きく異なる場合には,単価が適切かどうか,親事業者・下請事業者間で十分に協議することが重要となります。

下請法に違反するとどうなるのか?

まず,下請法上,親事業者には,書面の交付義務(下請法第3条)と書類の保存義務(第5条)が課せられていますが,これらの義務に違反した場合には,50万円以下の罰金が科せられる可能性があります(下請法第10条1号,2号)。

次に,下請法上,親事業者には,次の11の禁止行為が定められています。
① 受領拒否
② 下請代金の支払遅延
③ 下請代金の減額
④ 不当な返品
⑤ 買いたたき
⑥ 物品の購入やサービス利用の強制
⑦ 報復措置
⑧ 有償で支給された原材料などの対価の早期決済
⑨ 割引困難な手形の交付
⑩ 不当な経済上の利益の提供要請
⑪ 不当な給付内容の変更、不当なやり直し

これらの禁止行為を行った場合には,公正取引委員会から違反行為の改善を求める指導を受けることがあります。
さらに,指導ではなく,下請法第7条に基づく「勧告」が行われる場合もあります。
勧告が行われた場合には,勧告を受けた事業者名と事案の概要等が公開されることになりますので(例えば令和3年度について下記。),事業活動に与える影響は無視できないのではないでしょうか。

そして,これらの行為について報告を求められたにもかかわらず報告をしなかったり,虚偽の報告をしたり,立ち入り検査を拒んだりした場合には,50万円以下の罰金が科される可能性があります(下請法第11条、第12条)。
加えて,勧告に従わないときには、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が行われる可能性があります。

この他にも,指導や勧告を介して,下請事業者に対して,下請事業者が被った不利益の原状回復(減額された下請代金の返還や,下請代金の引き上げなど)をすることが求められますし,場合によっては民事上の損害賠償義務を負うことも考えられます。

令和3年度の場合,7922件の指導が行われ,4件の勧告がなされたとのことです。
なお,令和3年度の勧告事件については,4件いずれもが「下請代金の減額」についての違反でした。これらは公正取引委員会のHPに公開されていますし,「下請代金の減額」についての詳しい解説についてはコラム「下請代金の減額の禁止 弁護士が分かりやすく解説」をご覧ください。

まとめ

この記事では,公正取引員会の公開する「令和3年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」を題材に,下請法違反とされた事例などの解説を行ってきました。
なかでも違反件数の多い「下請代金の支払遅延」や「下請代金の減額」は,各地で同じような違反行為が見られる類型であり,下請法の一層の周知と理解が必要な状況です。この記事をご覧の親事業者・下請事業者の皆さまも,下請取引が適切に行われるよう,今一度自社の取引状況を見直してみてください。
もし,下請法やその他自社の契約関係・法的問題についてご不安がある場合には,ぜひ弊所の顧問契約サービスをご検討ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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