コロナ渦による雇用調整助成金の不正受給が問題になっています。不正受給をし、その後、会社経営が行き詰まって会社破産をする場合、法的にどのような問題が発生するのでしょうか。分かりやすく述べてみました。

1 コロナ渦による雇用調整助成金

コロナ渦で経営不振に陥った会社に対して、国は様々な助成金を用意していますが、その中の一つに雇用調整助成金があります。

雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた会社が、従業員を一時的に休業させ、雇用の維持を図った場合に、会社が従業員に支払った休業手当(賃金の60%以上)の一部を国が助成する制度です。

コロナ渦によって売上が落ち、従業員を一時的に休業させた場合も、令和2年4月1日から令和4年11月30日までの間、新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置として、雇用調整助成金が交付され、この特例措置は、令和5年3月31日まで延長されています。

2 雇用調整助成金の不正受給

先日の新聞に出ていましたが、雇用調整助成金約400万円を騙し取ったとして、警視庁は、手続の代行をした社会保険労務士と会社社長を詐欺の疑いで逮捕しました。実際には従業員が休業しておらず、もちろん休業手当を支払った事実もないのに関わらず、従業員が休業したとする虚偽の書類を国に提出し、雇用調整助成金を不正に受給していたものです。

休業していない従業員を休業したとする場合だけでなく、休業日数を水増ししたり、実際には自宅で仕事をしているにもかかわらず、休業したとして雇用調整助成金を受給することも、詐欺などの不正行為になります。休業をする場合は、自宅で仕事をさせることはできず、自宅で仕事をさせた場合は雇用調整助成金の対象にはなりませんので、注意が必要です。

3 法人破産申立の事実上の障害

⑴ コロナ関連倒産の増加

こちらも先日の新聞記事ですが、東京商工リサーチセンターによると、コロナ渦によって経営破綻した「コロナ関連倒産」が、2022年には前年に比べて36.7%増えたとのことです。コロナ前の業績が回復できていない状態で、倒産を抑制してきた公的な支援策が終わりを迎えつつあり、対策を打つことができない企業が倒産しているとのことでした。公的な支援策はいつまでも続かないのですから、支援がある間に、コスト削減、事業の再構築をするべきなのですが、それも簡単にはいかないということでしょう。

ところで、雇用調整助成金を不正受給した場合、会社破産の申立をするとどうなるでしょうか。

⑵ 会社経営者などの説明責任

破産の申立をすると、裁判所が破産管財人を選任し、破産管財人は破産した会社の経営者、取締役、経理担当者、その他の者から聞き取りを行います。これらの者が、破産管財人に対して説明を拒んだり、虚偽の説明をしたりすれば、懲役や罰金の刑に処せられることがありますので、雇用調整助成金を不正に受給している場合、その旨を正直に話さなければなりません。

この場合、破産管財人が刑事告訴をすることもあり得ますし、また、都道府県労働局などから調査が来たときには、破産管財人は、知っていることをそのまま回答することになり、これがもとになって刑事告訴されることもあります。

⑶ 破産手続きのメリット

ところで、会社が破産手続を取った場合、裁判所の監督のもと、破産管財人が財産、債務の調査を行い、財産を金銭に変えて債権者に対する配当を行います。すべて公平に行われますので、会社経営者が債権者から不信感を持たれることがありません。

また、それまで資金繰りに追われ、債権者の追及を受けていた会社経営者は、この苦しみから解放されることになります。

さらに、会社経営者は、破産することによって、免責と言って債務を免れることができますので、経済的に再出発することが可能です。

⑷ 破産手続の事実上の障害

破産手続には、このようなメリットがあり、私としては、資金繰りに窮した会社経営者は、早く破産申立てをして精神的に楽になるのが一番よいと思っていますが、上記のとおり、破産申立をしたために、告訴される可能性が高くなることもあり、雇用調整助成金の不正受給があると、破産申立の事実上の障害になることがあります。

また、会社の社長も破産をする場合(会社の社長は、会社の銀行に対する借入れ債務を連帯保証していることが多いので、会社とともに破産をすることが一般的です)、社長は、悪意によって国に損害を与えたとして、国に対する損害賠償請責任を負う可能性があります。

この損害賠償責任は免責されず、免責後も、社長個人が国に対し、会社が受け取った雇用調整助成金を返還しなければならないということにもなりかねません。これも破産申立の事実上の障害になります。

4 最後に

上記のような点からすると、会社破産という観点からいっても、雇用調整助成金の不正受給などは行わないのが一番です。

ただ、不正受給をしてしまったという場合も、破産申立をすれば、必ず刑事告訴されるということではありませんから、弁護士などの専門家にご相談されることがよいのではないかと思います。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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