会社(法人)の代表者(社長)は、経営する会社(法人)の法的整理として、破産を選択することを決断します。
誠実な会社経営者である社長は、これまでの取引債権者に対する責任を痛感するとともに、解雇をせざるを得なくなった会社従業員の今後、失業保険、再就職が気がかりです。
法人破産を選択することは、全従業員の解雇が原則ですが、そのために会社(法人)の代表者として、なすべきことがまだ多くあります。
多くの経営者・代表者の方から、法人破産のご相談を受け、その際に、会社を解雇することになる従業員に対する対応について、事前に質問を受けたり、また、依頼を受け、従業員を解雇後に、その都度対応してきた内容などをもとにご説明します。
ご参考にしてください。

1 破産申立てをする法人の従業員関係

(1)弁護士と相談のうえ、会社の破産を決断

資金繰りに窮した会社(法人)代表者の相談を受け、業績回復の見込みの有無、資金繰り回復の見込みはない、また、諸事情により、事業の継続は困難となるなどの理由により、会社法人の代表者は、経営する会社法人の破産申立による法的整理を決断されます。
当該会社法人について、管轄裁判所への破産申立の依頼を受けます。

(2)法人代表者からの、雇用関係に関する正確な情報提供

法人の破産手続きにより、最終的には従業員全員の解雇(雇用関係の終了)を招来します。
これに際し、会社法人の経営者である社長とともに依頼を受けた法律事務所・弁護士は、破産申立てをする、会社の従業員に対してはその保護を図る必要があります。
当該会社法人の破産申立による、従業員に対する、無用の混乱を防ぐためには、会社代表者や人事・総務担当者からの正確な情報提供を踏まえての、弁護士による当該会社法人の事案の見極めが肝要となります。

(3)全従業員の解雇のタイミング、労働債権の支払い余力の有無、程度

弁護士は、会社代表者からの打ち合わせを行い、下記の従業員関係の対応を考えます。

① 解雇のタイミング

いつ・どの段階で従業員を解雇するのか。

② 労働債権への支払い余力

労働債権である、給料、退職金、解雇予告手当などを支払うことができるのか。全額対応が可能か、不可能な場合にはどうするのか。

2 破産法における、従業員保護の規定

(1)現行法における保護の規定

労働債権は、一般の破産債権に優先する、優先的破産債権と規定されています(破産法98条1項、民法306条2号、308条)。
破産手続き開始決定後の、破産管財人による労働債権の弁済許可の制度(破産法101条1項)が設けられています。
労働債権の優先的破産債権部分については、原則として、債権届け出・債券調査・確定の手続きを経たうえで、破産債権の順位に従って配当を受けるのが原則ですが、元従業員の生活の維持のために、早期に弁済をする必要がある場合に、配当手続きによらずに、裁判所の許可を得て、優先的破産債権である給与・退職金の弁済を受けうるものとしたものです。
また、破産債権である未払い給与や退職金請求権を有する従業員に対しては、破産管財人に対し、従業員が破産手続きに参加するために必要な情報を提供するという努力義務を課しています(破産法86条)。

(2)できる限り申立て前に対応できていることが理想

従業員保護のためには、会社法人の破産申立て後でなければ対応できないこと以外は、申立て前に十分な対応が可能であることが理想です。
会社経営者の方におかれては、会社法人の破産のためには、申立代理人の費用、破産手続きの費用(破産管財人の報酬の担保としての予納金も含めて)、資金がなければ、破産手続きを取って、破産することすらできないという状態にまで至らず、さらには、従業員の労働債権に対する対応にも余力を残した状況で、弁護士にご相談、ご依頼をいただけるのが理想です。

3 申立代理人事務所の役割

(1)申立代理人事務所の体制

申立代理人は、破産法に限られない関係法令の横断的な理解のもと、従業員の保護に配慮した破産申立てを目指さねばなりません。
そのためには、代理人弁護士をアシスト・サポートして協同する当事務所の法務スタッフの理解協力も不可欠です。
弁護士は、事務所のスタッフとの協同により、ご依頼いただきました会社法人の破産申立て準備を遂行します。

(2)会社代表者と弁護士との打ち合わせ

会社法人については破産申立についての会社代表者との面滅な打ち合わせが欠かせません。
ご理解、ご協力をお願いします。

4 会社従業員に対する対応する上での事前準備

(1) 会社代表者にご準備いただくもの

まずは、担当弁護士は、会社代表者から、会社法人の雇用関係の情報収集を行うことになります。
相談時(継続相談時)に、次のような書類をご準備いただけると助かります。
① 就業規則
② 給与規程
③ 退職金規程
④ 賃金台帳
⑤ タイムカード
⑥ 業務日報・業務日誌
⑦ 従業員名簿(住所、生年月日、連絡先、雇用年月日、勤務年数、振込口座情報)
特に、従業員の情報は、未払い賃金、未払い退職金の計算、源泉徴収している所得税、特別徴収している地方税などの税金関係、健康保険などの変更手続きに必須といえます。
さらには、未払賃金立替制度利用の手続きのためにも極めて有用です。
また、外国人従業員を雇用されている企業が増えてきましたが、解雇通知書の翻訳文作成のために、国籍(母国語)がわかることが望ましいです。

(2)弁護士からの聴取事項

相談を担当する弁護士は、会社代表者から次の事情を聴きとります。
① 従業員数。正社員は何名か、パートタイマーは何名か。アルバイトは何名か。
② 1か月の給与の支給総額はどれくらいか。
③ 給料の締め日とその支給日はそれぞれいつか。
④ 給料支払いに未了はあるか。未配と遅配のそれぞれの有無。
⑤ 退職金支給規程の有無。退職金支給の慣行の有無。その際の基準。
これらの話を伺いながら、担当弁護士は会社の雇用関係の全体像の把握に努めることになります。

(3)会社内の協力者の有無

破産申立のためには、会社内での協力者がいると大変助かります。
これまでも、経理の担当者、社長不在時の番頭格の方に協力してもらったことがあります。
法人の経理状況を把握しており、かつ、信頼のおける方の協力が不可欠といえます。
法人の事業を継続している場合に、当該法人が破産申し立て準備をしていることを、金融機関や取引先、そして、従業員に知られて、無用な混乱を生じさせないようにするためです。
そして、これにより、破産管財人に、スムーズな引継ぎが可能となるとも言えます。

5 破産申立てを決断した会社における、従業員の処遇の問題

会社法人の経営者は、法人の破産申立を決断されます。事業の停止時期とともに、雇用している従業員をどのように処遇するかを決めることになります。
その際に協議・検討いただく事項は次のようなものです。
① 経営する企業の事業をいつ停止するか。
② 破産申立のためには、特定従業員の協力が必要か否か。
③ 破産申し立て後の管財人の業務に協力する内容が出てくるか否か。
④ これらを総合して、いつ、どの段階で、どの従業員を解雇するのか。それとも残すのか。

(1)即時解雇(原則)

法人は事業を停止する以上、全従業員を雇い続けることはできません。そして、従業員との雇用関係を終了させて、雇用関係による拘束を解き、従業員の労働提供の義務から解放しなければなりません。
すると、事業の停止日に全員を解雇するのが原則となります。

(2)法人の支払い能力(資力)をもとにした検討

① 法人に資力がある場合

解雇予告手当(労働基準法20条1項本文)を支払って、従業員を即時解雇します。
解雇予告手当を支払ってもなお余剰がある場合には、給与、退職金の順に支払うことになります。
破産申立て前に、労働債権の弁済をすることは許容されておりますので、所得税の源泉聴取、住民税の特別徴収、社会保険料の控除は通常と同じく行わなければなりません。

② 法人に資力がない場合

法人に解雇予告手当を支払う資力がない場合には、従業員を即時解雇して、未払いの解雇予告手当は、破産手続きにおける優先的破産債権として、破産手続きにおいて支払いを受けてもらうことになります。

(3)解雇予告手当の扱いについて

独立行政法人労働者健康安全機構が実施する未払賃金立替払制度においては、解雇予告手当は立替払いの対象となっていません。
会社に、支払う資力がいくらかでもある場合には、これを給与の支払いに回さず、即時解雇する際の、解雇予告手当として支払うとともに、未払いの給与については破産債権者の労働債権として、記載計上し、未払賃金立替制度の利用により、立替払いを受けることを選択すべきことが、労働者の保護になります。
解雇予告手当は、優先的破産債権として取り扱われているのが一般ですので、租税債権などの財団債権に先立って支払うことに疑義があるとされますが、従業員保護の観点、解雇の有効性を明確にするという観点からも、解雇予告手当の支払いを優先させることは許容されています。

6 労働者を解雇する際に留意しなければならい事項

(1)従業員への説明をだれがするか。

会社代表者は依頼した弁護士と十分な打ち合わせをした上で、従業員に対し、破産申立に至る経緯や今後の手続きなどを説明することになります。
まず、代表者に従業員にあいさつしてもらい、弁護士を紹介してもらって、実際の説明は、弁護士が行うことが多いです。
ただ、第三者ともいえる弁護士を同席させることが無用な混乱を生じさせる恐れがある場合には、事前に、従業員への対応や説明すべき内容を打ち合わせて、代表者に臨んでもらうこともあるでしょう。

(2)従業員への説明で注意すべきこと。

従業員からの、破産申立てに関連する情報漏洩の防止のための、説明の際の、SNSなどの使用禁止とします。
残念ながら、情報漏洩は不可避と覚悟しておかねばなりません。
それに備え、関係先からの問い合わせの対応(想定問題・回答の共通認識化)も検討します。

(3)従業員解雇時の諸手続き

次のような手続きが必要となってきます。
時系列でご説明します。

① 解雇通知書の交付

「法人の事業停止日=解雇日」と記載した解雇通知書を作成、交付します。
外国人従業員に対しては、母国語での翻訳文を添えたものを作成準備します。
そのために、従業員名簿などが手掛かりとなり、通訳人を手配することになります。
解雇通知書には、解雇日と解雇理由(法人の破産申立)が記載されており、それを受領した旨の署名・押印をいただきます。

② 離職証明書などの提出(従業員の早期の失業保険受給のため)

次に、従業員の雇用保険(失業保険)の受給のため行う手続きがあります。
従業員が、雇用保険(失業保険)受給のためには、離職票のハローワークへの提出が必要です。
そのためには、離職票の交付を得る必要があり、そのためになすべきことが定められています。
まず、事業者は、ハローワーク(公共職業安定所)への、雇用保険の資格喪失手続き履践する義務があります。これは、退職日から10日以内です。
よって、事業者は、雇用保険被保険者離職証明書、雇用保険費保険者資格喪失届を作成して、ハローワークに提出します。
これにより、離職票が(事業者に)交付されることになります。
交付を受けた離職票を事業者は従業員に交付します。
これにより、従業員は、解雇理由を「会社都合」として、早期かつ有利に受給することが可能となり、生活が保障されることになります。
事業者は、雇用保険適用事業所廃止届をハローワークに提出します。

③ 資格喪失届の提出(雇用関係の終了による社会保険関係の変更手続きのため)

従業員は、解雇により、社会保険・厚生年金保険の被保険者資格を失います。
よって、従業員には、国民健康保険・国民年金に切り替えてもらわねばなりません。
会社は、従業員から、被扶養者(家族分)も含めて、健康保険証を回収することになります。
事業者は、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届、健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届を、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードして、必要事項を記入し、年金事務所に提出します。
従業員が、社会保険の任意継続を希望した場合には、当該従業員が任意継続被保険者取得申請を行うことになります。
年金は、再就職が決まっていれば、当該法人の厚生年金保険に加入します。
決まっていない場合には、市町村役場で国民年金に加入します。
これらを初めて経験する従業員も多いことから、事前に文書で説明することにより、問い合わせを減らすことが可能となります。

④ 源泉徴収票の交付(従業員の所得税関係)

従業員が確定申告する場合や再就職先での年末調整のために必要となります。
事業者は、源泉徴収票を作成し、解雇と同時か、解雇後速やかに従業員に交付できるように準備します。
顧問税理士や社会保険労務士への依頼をする場合、その費用負担にも備えます。

⑤ 住民税の異動届の提出(従業員の住民税関係)

従業員の住民税は、特別徴収により、給与から天引きし、事業者から従業員の住所地の市町村役場に納税しています。
事業者が破産することから、特別徴収がかなわなくなります。
そこで、特別徴収から、従業員が直接市町村に納付する普通徴収に切り替える必要があります。
そのために、事業者は、各市町村役場に備えつけられている給与者異動届出書を入手し、異動届を提出します。

⑥ 退職所得の申告(従業員の退職金関係)

退職所得控除のために、退所者から退職所得の受給に関する申告書を受領しておきます。

⑦ その他の手続き

従業員に貸与した、携帯電話、ETCカード、ガソリンカード、タクシーチケット、クレジットカード、鍵、警備会社のセキュリティカードなどを回収します。
破産財団の保全のためです。
事業所内にある、従業員の私物も引き上げてもらいます。
社宅の利用者には、速やかに明渡をしてもらい、鍵の返還を受けます。
退職金について、中小企業退職金共済に加入している場合には、その請求手続きを行います。
従業員のマイナンバー情報については、別個管理とし、必要な措置を取ったうえで、破産管財人に引き継ぎます。

7 まとめ

会社(法人)の自己破産申立ての準備の中で、最初期に行うものの一つのが、解雇する従業員に関する対応です。
即時解雇を選択すると、当然ながら、上記の諸手続きが必要となってきます。
会社代表者が、すべての労務関係を把握し、また、その実際の対応をなさって来た方ばかりではありません。
しかしながら、上記の流れを念頭に置き、それを愚直に実践することが求められます。
これにより、会社を廃業することにより、大きな影響を受ける従業員のために、上記手続きを円滑に取れば、従業員たちへの生活の最低限の保障、その再出発を促すことになります。
これらに問題については、会社経営者である代表者の方に対して、法人の破産申立や管財事件における管財人職務の経験豊富な弁護士の所属する当事務所では、適切なアドバイス、対応が可能です。是非ともご相談・ご依頼ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉
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