インターネット、特にSNSや書き込みサイトにおいては、誰でも匿名で意見や主張を発信できることから、行き過ぎた主張などにより他者を簡単に攻撃(誹謗中傷)することができるようになりました。
そのため現在、そのようにインターネット上のSNSや書き込みサイトを利用し第三者(企業)のプライバシーや名誉が侵害される案件が増えてきています。
そのようなインターネットによる誹謗中傷が行われてしまった場合、企業としてどのような対策・対応をとることができるか、解説していきたいと思います。

ネット上の誹謗中傷

ネット上の誹謗中傷とは、インターネット上において、根拠のない悪口を言いふらして、他人(企業)を傷つけることをいいます。
誹謗中傷という言葉自体は法律上の用語ではありません。一般的に用いられる言葉です。
悪口、嫌がらせ、なりすまし、権利侵害、犯罪行為など、さまざまなケースが誹謗中傷には含まれます。一般的には、人や企業に対して不快な思いや恐怖心をもたらすものはすべて誹謗中傷と捉えられているでしょう。

代表的なものとしては、TwitterやFacebook、Googleマップのレビューにおいて、会社を攻撃する目的で発信されたコメントや、爆サイや5ちゃんねる、食べログなどにおいて書き込まれた会社の悪評があります。

もしインターネット上で誹謗中傷をされたら

誹謗中傷などの書き込みを発見した場合、まず初めに行うことは何だと思いますか?
正解は、証拠の確保です。

・書き込みの存在及びその内容
・書き込みがあったウェブサイトのURL
・日付
→これらが分かる状況で写真や動画、データ、印刷物等で保存しておくことが必要です。

どのような書き込みや投稿が誹謗中傷にあたるか

名誉毀損

これが一番代表的なものです。ポイントは以下のとおりです。

A 被害者が特定できること
B 社会的評価を低下させる事実の適示があること
C 以下の正当化事由(違法性阻却事由)がないこと

①公共の利害に関する事実
②もっぱら公益を図る目的でなされたこと
③重要な部分の内容が真実であること
④論評としての域を逸脱したものでないこと

プライバシー侵害

電話番号や住所、マイナンバーや既往歴、犯罪歴などの個人情報を無断で公開することが典型例です。

侮辱行為

「バカ」「アホ」などの表現です。

その他の人格権侵害

以下のようなものが考えられます。

・脅迫行為
・肖像権侵害
・氏名権侵害
・電話番号等の公開による迷惑行為
・知的財産権侵害
・営業権侵害など

対処方法

対処方法としては以下の方法が考えられます。

【法的対応以外のもの】

①積極的にプレスリリース等の情報発信を行う

報道機関に向け、情報の提供・告知・発表を行うことです。インターネット上の誹謗中傷が行われたことを広く知らしめることにより、さらなる誹謗中傷等を抑止する効果が考えられます。

②技術的な手段によって当該情報を見えにくくする(いわゆる逆SEO対策)

集客などの効果を狙って検索エンジンの検索結果で特定のウェブサイト(例えば自社のサイト)を上位に表示させるように工夫することを「SEO対策」といいます。「逆SEO対策」は、まさにその逆で、特定のサイトを検索エンジンの検索結果上の上位に表示させないようにする手段です。

ネガティブな情報が記載されているサイトがあったとしても、検索エンジンで上位に表示されなければ多くの人の目には触れない状態になりますので、インターネット上でネガティブ情報が発信された際の対処としては一定の効果があります。逆SEO対策を専門的に取り扱う企業も存在しているようです。

インターネット上のトラブルに関しては、そもそも法的対応が不可能なケースや法的対応のみでは根本的な解決とならないケースもあります。
トラブル発生時に、まず法律上可能な対処方法を把握した上で、法律上の対処だけで十分か、それとも他の方法も行う必要があるのかを判断いただくことになります。
それでは法的対応について順にみていきます。

【法的対応】

法的対応としては、以下の方法が考えられます。

①当該情報を削除する
②当該情報の発信者を調べる
③発信者等に対して損害賠償請求を行う
④刑事告訴・被害届の提出

1 当該情報を削除する

まず、当該誹謗中傷自体を削除することが考えられます。
そのためには誰に対して削除請求するか、削除請求を行う相手方を選択することになります。

発信者自身

まずは、ブログ執筆者などの発信者自身を相手に削除請求を行うことが考えられます。
もっとも、ブログなどであれば発信者自身が内容を削除することができるのですが、電子掲示板や口コミサイトなどの多数のユーザーによって情報が発信されるウェブサイトの場合、多くのケースでは単に投稿を行っただけのユーザーは記事の削除や修正はできません。

そのようなウェブサイトの場合、削除する権限はウェブサイトの管理者やウェブサイトが設置されているサーバーの管理者が有していますので、発信者に削除請求を行ったところで、これを実行するすべがなく実効性がありません。

また、後に述べますように、相手を特定できるか、特定するとしても結構な手間がかかるという問題もさることながら、仮に特定できたとしても、相手がすんなりと削除に応じる可能性は一般的には低く、これにより相手がさらに逆上してより紛争化する危険性があるので、あまりお勧めできないというのも率直なところです。

発信者以外で情報の削除が可能な地位にある者

口コミサイトの運営者や掲示板管理者等のウェブサイト管理者、ウェブサイトのデータが保存されているサーバーを提供しているサーバー管理者も、情報の削除が可能です。

具体的な削除請求の方法

1 ウェブフォーム・メールでの請求
ポリシー違反等を理由に、当該サイト上からサイト運営者等に報告する方法です。
効果については、フォームからの請求について全く応じてもらえないこともありますが、そこから請求した方が早く対応されることもあります。

2 サイト運営者に郵送にて削除要請し交渉する方法
郵送先が判明していることが必要です。
GoogleやFacebookなどは本社のあるアメリカに英文で送付する必要があります。
一方、いくつか送付先が不明なサイトもあります。

3 削除を求める仮処分を裁判所に求める方法
裁判所が削除を認めてくれれば、サイト運営者は基本的にはこれに応じて削除を行ってきます。
もっとも、裁判所に削除を認めてもらうためには、こちらで当該書き込みにより名誉毀損等の損害を受けていること、書き込みの内容が虚偽であることを証明していかなければなりません。
十分な証明ができなければ削除は認められません。
そのため、それなりにハードルは高いです。

2 当該情報の発信者を調べる

発信者に削除を求めたり、損害賠償請求などをしたりするためには、そもそも発信者が誰か特定しなければなりません。そこで、発信者情報開示請求権がプロバイダ責任制限法により認められています。
元々この開示請求は、発信者(投稿者)の特定のために2回の裁判手続が必要で、特定した後の損害賠償請求などの裁判手続も含めると、被害者が、加害者に損害賠償請求するためには、合計で3度の裁判手続が必要とされていました。そのため、非常に手間と時間を要する手続きとなっていました。

しかし、近年改正がされ、令和4年10月から、発信者情報の開示手続を、簡易かつ迅速に行うことができるように、発信者情報の開示請求を1つの手続で行うことを可能とする、新たな裁判手続(非訟手続)が創設・施行されました。
流れとしては、以下のような形になりました。

1:裁判所に、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う

2:提供命令の申立てを行い、コンテンツプロバイダが有するアクセスプロバイダの名称の提供を求める

3:2で得たアクセスプロバイダの情報を基に、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う(これをコンテンツプロバイダへも通知する)

4:開示命令の申立てが認められると、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダから情報(IPアドレス、発信者の氏名・住所など)が開示される

その他同時に
1・3の開示命令の申立てにともない、消去禁止命令の申立ても行う
(これによって、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダに対して発信者情報を消去することを禁止する命令を出してもらうことが可能になりました)

3 発信者等に対して損害賠償請求を行う

上記方法により得た加害者の情報をもとに、いよいよ直接損害賠償請求(慰謝料請求)を行っていくことになります。
具体的な方法としては、加害者に通知書を送って損害賠償請求を行う、それでも支払い等がされなければ訴訟を提起するという方法が考えられます。
(もちろん、いきなり訴訟提起でも問題はありません)

ただし、慰謝料を求める場合、相手方に資力が無いと、結果空振りに終わるというリスクもあります。また、慰謝料の請求が認められるとしても、最終的な解決に至るまでの期間が、1年~長期に及ぶケースがあります。自分自身の時間や金銭面の負担を考慮して慎重に検討する必要はあります。

4 刑事告訴・被害届の提出

3の民事的な損害賠償請求のほか、刑事告訴という方法により、刑事罰を求めることも可能です。
誹謗中傷が個人の感想や評価にとどまらず、誰かの身に危害を与えるような内容であったり、名誉毀損になったりする場合には、刑事告訴に踏み切ることも重要です。告訴を受けた警察は、捜査を行うことになります。

刑事事件の被疑者とされた者は、最終的には検察官の判断になりますが、何らかの刑事処分を受ける可能性があります。例えば、脅迫罪で立件された場合、起訴され裁判で有罪になると「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」の範囲で刑罰を受けることになります。
ネット上の誹謗中傷の再発防止という観点から、積極的に刑事事件化することもあり得ると思います。

自分に向けられた誹謗中傷が、警察に相談してよいものか迷ったときには、一度弁護士に相談して意見を聞くのもよいでしょう。もちろん、直接警察に相談し、立件可能かを相談することもできます。

よくあるご質問

よくご相談を受ける質問を以下にまとめてみましたので、ご覧ください。

Q どのような書き込みが削除の対象となりますか?
A 権利(プライバシー、名誉、著作権など)侵害がされている場合に削除が可能となります。権利侵害の有無については個別具体的に検討する必要があります。

Q 誹謗中傷が事実でも解決できますか?
A 誹謗中傷の内容が事実でも、基本的には名誉毀損するケースの方が多いです。
事実だと名誉毀損にならないケースは、情報の公開に公益性が認められる場合です。例えば、政治家が汚職事件を起こしたという事実は、公益性が高いですから、名誉毀損には該当しないと判断されます。

Q 数年前の投稿でも依頼できますか?
A 削除依頼であれば対応は可能ですが、加害者の特定・慰謝料請求は厳しいと思います。
なぜかというと、加害者の特定に必要になるIPアドレス情報は、サイト側に3ヶ月ほどしか保管されていないためです。

Q 書き込み削除までにはどの程度の時間がかかりますか?
A 早い場合:1~2週間、一般的:1~2カ月、遅い場合:6ヶ月程度

Q 自分で書き込みを削除することはできますか?
A 削除依頼等はご自身で行うことも可能です。
ただ、誤った方法をとった場合、被害が拡大しないとも限りませんので、一度弁護士に相談することを検討されてもよいと思います。

ネット上の誹謗中傷における弁護士の活動

弁護士の活動の流れ

ネット上の誹謗中傷について、弁護士が介入した場合は、以下の活動を行っていくことになります。

1 依頼者からの聴き取り

まずは、依頼者から被害(誹謗中傷)の内容等について、詳細な聴き取りを行います。
あわせて、当該誹謗中傷の記載されているサイトなどに関する客観的資料(URLや誹謗中傷の内容を印刷したものなど)についても確認をさせていただきます。

2 削除請求

依頼者から聴き取り及び依頼者のご希望も踏まえ、法的に主張可能な方法を選択ないし構成していきます。
その上で、代理人弁護士として、通常はまずは当該誹謗中傷内容の削除を請求していくことになります。

3 発信者情報開示請求

相手方に対して、損害賠償請求や刑事告訴を行う場合は、発信者を特定するため、発信者情報開示請求を行っていくことになります。
弁護士が代理人となって、それらの手続を行います。

弁護士介入のメリット

実効性のある対応が可能となる

適切に解決するためには、法的な主張を構成した上で進めていかなければなりません。
例えば、削除請求を行う場合も、単に誹謗中傷を理由に削除を求めるのではなく、当該サイトポリシーや利用規約を十分に確認・検討し、当該誹謗中傷がそれらのサイトポリシーや利用規約のどの条項に抵触し、削除が必要となるのか等について、論理的・説得的に構成して主張していくことになります。
実際の案件でも、当事者が直接削除請求をしても削除対応してくれなかったという事案で、その後弁護士が代理人として介入して改めて弁護士名で削除請求を行ったところ、すぐに削除に応じてもらえたという事案もありました。

このように削除請求ひとつをとってみても、有利に進めていくためには、そのような対応に精通している弁護士を介入させることも重要です。

調停や訴訟の手続もすべて一任できる

削除請求も発信者情報開示請求もその後の訴訟や刑事告訴については、もちろん弁護士に依頼することなく、自分で進めていくことも可能です。
しかし、実際のところ、例えば訴訟では、訴状の作成や証拠の提出など厳格なルールに従って行っていく必要がありますし、発信者情報開示請求も専門的知識が要求され、ご自身一人で対応していくことは相当に困難です。
何より、そのような開示請求や裁判に逐一対応しなければならず、また時間を割かれるという点でも負担が大きいです。

一方、弁護士に依頼すれば、専門的な作業や複雑な作業はすべて一任できますので、ご自身で時間や労力の負担をすることなく、安心して調停や訴訟を進めることができます。

ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅
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