この記事では、公正取引委員会による最近の下請法違反勧告事例として、王子ネピア株式会社事例、株式会社ノジマ事例、株式会社キャメル珈琲事例、岡野バルブ製造株式会社を検討し、実際の下請法の違反事例について学びます。

 下請法は、親事業者に対して11種類の行為を禁止しています。

 この記事では、公正取引委員会による最近の勧告事例を通して、実際の下請法違反にはどのようなものがあるか、検討したいと思います。

1 王子ネピア株式会社の勧告事例(令和6年2月)

⑴ 一度発注した数量よりも少ない数量の納品しか受け付けないと伝達し、発注の一部を取り消した

 王子ネピア株式会社(以下「王子ネピア」とします。)は、ティッシュやトイレットペーパーで有名な製紙会社です。

王子ネピアは、令和2年12月頃、下請事業者に対して、令和3年度(令和3年4月~令和4年3月)の1年間を納品期間として、自社が販売するマスクの製造を委託しました。発注数は、過去の年間平均納品数量に相当する数量とされました。

 その上で、具体的な月ごとの納品数は、納品する月の約半月前に、下請事業者の生産状況を確認しながら王子ネピア側が決定して伝達し、下請事業者はこれを承諾して納品していました。

 発注後、下請事業者は、発注書面に基づき、過去の年間平均納品数量に相当する数量を製造するための必要資材や従業員の確保のために努力し、令和3年12月下旬には、発注書面記載の数量にほぼ相当する数量のマスクの納品が可能である状態になりました。

 しかしながら、この連絡を受けた王子ネピアは、令和3年度におけるマスクの納品数の合計が発注書面記載の数量の7割程度となる納品数量しか伝達せず、さらに、伝達した納品数量を超えてマスクを製造したとしても受領する意向は無いと伝え、実質的に令和3年度におけるマスクの発注の一部を取り消しました。

 この発注の一部取り消しにより、下請事業者には、既に手配していた資材の仕入れ代金・運送料・保管料・廃棄費用や、確保した人件費として、2622万7735円を超える負担が生じたとのことです。

⑵ 不当な給付内容の変更の禁止(第4条2項4号)

 下請法は、契約時(発注時)に決められた給付内容を、下請事業者の責に帰すべき理由が無いのに、その給付前に変更することを禁止しています。

「給付内容」というと分かりづらいですが、本件のように発注数(納品数)を減少させたり、設計や仕様を変えたり、納期を変えずに追加の作業を行わせたりすることが該当します。

給付内容が変えられてしまうと、下請事業者としては、用意しなくて良かった原材料や人員が生じたり、追加された作業のために新たに原材料や人員を確保しなくてはならなくなったりして、その分の費用負担が生じるということになります。下請法は、この負担を問題と捉えているのです。

ちなみに、下請代金の金額を減らすことは、下請代金の減額の禁止(第4条1項3号)として、別個に禁止されています。

本件について、令和2年頃といえば、新型コロナウイルス感染症に対する警戒が強まり、世間でマスクの品薄が叫ばれていた時期でした。

王子ネピア側がなぜ実際の納品数量を減らしたのかは、公正取引委員会が公開した資料からは分かりませんが、各社がマスクの製造に乗り出し供給が増えてしまったことなどが背景事情にあるのかもしれません。

例え需給バランスの変化や販売不振が事情としてあったとしても、下請事業者はもともとの契約に基づいて、原材料等を調達したり人員を確保したりしていますから、発注数(納品数)を減らしてしまえば、その分、下請事業者に損害が出ることになります。

本件でも、王子ネピアは、公正取引委員会による調査を受けて、下請事業者に対して、下請事業者が負担した上記費用相当額を支払ったということです。

参考:公正取引委員会HP「(令和6年2月15日)王子ネピア株式会社に対する勧告について」

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/feb/240215_Ojinepia.html

2 株式会社ノジマの勧告事例(令和5年6月)

⑴ 家電の製造委託先に対して、「協力金」「リベート」「手数料」などの名目で下請代金の額を減じていた

株式会社ノジマ(以下「ノジマ」とします。)は、関東甲信越を中心として家電販売店を展開する企業です。

ノジマは、自社の店舗で販売するためのオリジナル家電を下請事業者に製造委託していました。

しかしながら、令和元年7月から令和4年10月までの間、「拡売費」「物流協力金」「セールリベート」「キャッシュリベート」「オープンセール助成」「発注手数料」といった名目で、これらの金額を下請代金の額から差し引いて、下請代金を減額していました。

減額された下請代金の金額の総額は7310万9046円になるとのことです。

⑵ 下請代金の減額の禁止(第4条1項3号)

 下請法は、下請事業者の責に帰する理由がないのに、契約時(発注時)に決められた下請代金を減額することを禁止しています。

 ここでいう「下請代金の減額」は、単純に下請代金そのものを減額することだけではなく、何らかの名目で実質的に下請代金を目減りさせることでも、下請代金の減額に該当するとされています。

 減額に使われる名目は多岐に渡り、よく見かけるものとしては、本件でも用いられたような「○○リベート」「○○協力金」「○○手数料」といったものや、「歩引き」「○○割戻金」「○○値引き」などが挙げられます。

 こういった減額は、業界の慣行として広く・長期間行われていることも多々ありますが、下請法違反になる可能性がありますので注意が必要です。

 また、こういった減額については、あらかじめ合意があったとしても(例えば契約書等の書面で合意していたとしても)、下請事業者の責めに帰すべき理由が無いのであれば、下請法違反になるとされています。

 なお、本件のノジマは、令和5年3月1日までに、上記の減額分について下請事業者に支払ったということです。

 ちなみに、下請代金の支払いに際して、下請事業者の銀行口座に振込むための振込手数料を、下請代金の額から差し引くということがありますが、これについては、契約前(発注前)に、振込手数料を下請事業者が負担する旨の書面での合意が必要となります。

 書面での合意が無い場合には、振込手数料を差引くことも、下請代金の減額とされて下請法違反になる可能性がありますので注意が必要です。

参考:公正取引委員会HP「(令和5年6月29日)株式会社ノジマに対する勧告について」

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/jun/230629_Nojima.html

3 株式会社キャメル珈琲の勧告事例(令和5年3月)

⑴ 給付の受領後、品質検査をせずに返品した

 株式会社キャメル珈琲は、「カルディコーヒーファーム」で有名なコーヒー豆や輸入食品の仕入れ・製造・販売等を行う会社です(以下、株式会社キャメル珈琲を「カルディ」といいます。)。

 今回の勧告では、下請事業者から「センターフィー」を徴収したことが下請代金の減額の禁止に当たるということも指摘・勧告されていますが、以下では返品の禁止に関わる部分を取り扱います。

 カルディは、下請事業者に対して、お客様に販売する食品等の製造を委託していました。

 しかしながら、令和3年5月から令和4年7月まで、カルディは、下請事業者から商品を受領した後、その商品について品質検査を行っていないにもかかわらず、当該商品には瑕疵があることを理由に下請事業者に返品をしていました。

 この返品した商品の下請代金総額は、下請事業者49名、合計305万3210円になるということです。

 また、一部の下請事業者に対しては、この返品にかかる送料を負担させていたようです。

⑵ 返品の禁止(第4条1項4号)

 下請法は、下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、下請事業者の給付を受領した後に、その給付されたものを返品すること(給付に係るものを引き取らせること)を禁止しています。

 この返品禁止の規定は、親事業者側から一方的な取引のキャンセルがあった場合のほか、本件でも問題となっている検査との関係で違反となりやすいものです。

 上記の通り、返品は「下請事業者の責に帰すべき理由」があれば許されるということになります。

 そして、「下請事業者の責に帰すべき理由」の最も多い例というのが、給付内容に瑕疵があることになります。

 給付内容(納入された商品)に瑕疵があるかどうかを検査する場合には、その検査で瑕疵が見つかれば、返品することが認められます(ただしこの場合も、不良品または不合格ロットのみの返品で、速やかに返品することが求められます。)。

 検査を行っても直ちに発見することのできない瑕疵があった場合には、受領後6か月以内という時間制限はあるものの、返品が可能とされています。

 一方、給付を受け取る親事業者が、検査を自社で行わない場合もあると思います。

 このうち、受け入れのための検査を下請事業者に文書で委任した上で、直ちに発見できない瑕疵があったり、下請事業者の検査に明らかなミスがある場合には、返品が認められます。

 しかしながら、本件のように、自社でも検査を行わず、下請事業者にも文書で委任していないという場合には、受け入れ側の親事業者が検査する権利を放棄しているとして、例え実際に給付内容(商品)に瑕疵があったとしても、返品はできないということになっています。

 本件では、カルディは、給付内容(商品)に瑕疵があるとして返品をしていますが、この給付に関して検査は省略されていますので、例え実際に瑕疵がある商品が納入されていたとしても、返品は下請法違反となってしまうのです。

参考:公正取引委員会HP「(令和5年3月17日)株式会社キャメル珈琲に対する勧告について」

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230317_CAMELcoffee.html

4 岡野バルブ製造株式会社の勧告事例(令和5年3月)

⑴ 下請事業者に木型・金型の無償保管をさせていた

 岡野バルブ製造株式会社(以下「岡野バルブ製造」とします。)は、福岡県北九州市にある発電用バルブの製造・保守などを手掛ける会社です。

 岡野バルブ製造は、下請事業者に対して、自社が販売する発電用バルブの部品の製造委託をしていました。下請事業者には、自社が所有する木型・金型を貸与して、製造をしてもらっていたようです。

このうち、合計330個の木型・金型については、これを用いて製造する部品の発注が長期間ありませんでした。

このような状況でありながら、遅くとも令和3年8月1日から、令和4年12月6日までの間、岡野バルブ製造は、下請事業者に対し、引き続き無償で木型・金型を保管させていたということです。

⑵ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条2項3号)

 下請法は、下請事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、下請事業者の利益を不当に害することを禁止しています。

 この規定で違反となりやすい例としては、下請事業者から協賛金などの名目で金銭を徴収したとか、スタッフ(従業員)を派遣させて接客や作業に当たらせた等といった事例が挙げられます。

 そして、特に製造業の間では、本件で問題となった「木型・金型の保管」についても、本規定違反になることが多々あります。

 部品等の商品の製造のために、親事業者が所有する木型・金型を下請事業者に預けるということは必要なことですが、商品の製造が終わってしまった後(特に大量生産を終えた後)には、長期間発注が行われず、木型・金型も使われないという事態が生じ得ます。

 このような場合に、使わない木型・金型を保管しておくというのは、下請事業者にとって保管料やメンテナンス費用等、様々な負担が生じることです。

 こういった負担が生じるにも関わらず、下請事業者に対して無償で保管やメンテナンスをさせることは、下請事業者の利益を不当に害することになりますので、本規定違反になります。

 また、不要となった木型・金型を廃棄させる(廃棄のための費用を負担させる)ことも、同様に下請事業者の利益を不当に害することになります。

 発注予定が立たない木型・金型の取扱いについては十分に注意が必要です。

参考:公正取引委員会HP「(令和5年3月16日)岡野バルブ製造株式会社に対する勧告について」

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230316_kyusyushitauke.html

まとめ

 以上、最近の下請法違反事例を見てきました。

 業界では慣習・慣行として行われているようなことも、下請法の観点からは違法となってしまうことが多々あります。

 下請法違反として勧告を受けると、このように公正取引委員会から、企業名と違反内容が公開されます。

これらの事例から学び、親事業者・下請事業者共に、下請法遵守の意識を高め、適正公平な取引を続けるよう心掛けるようにしましょう。


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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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