
労働者派遣契約を締結する場合、派遣先と派遣労働者の関係については、ほとんど問題になる条文はないのですが、派遣先と派遣元の関係ついては、ときどき派遣先に不利な条文を見かけます。そのような条文を指摘するとともに、派遣先の立場から、労働者派遣契約を結ぶについて注意したい点を述べてみました。
1 はじめに

会社を経営している場合、いろいろな事情から、正社員、パートタイマームではなく、派遣労働者を受け入れようとする場合があります。
派遣労働者を受け入れようとする会社(派遣先)が、労働者を派遣する会社(派遣元)と労働者派遣契約を締結する場合、厚生労働省の指導などがあるため、派遣先と派遣労働者の関係については、ほとんど問題になる条文はないのですが、派遣先と派遣元の関係ついては、ときどき派遣先に不利な条文を見かけます。
今回は、派遣先の立場から、労働者派遣契約を結ぶについて注意したい点を述べてみたいと思います。
2 注意した方がよい条文

⑴ 契約書の改定
「派遣料は甲乙協議のうえ改訂することができる」となっていると、協議さえすれば、派遣元が一方的に料金を値上げすることができると解釈できる余地があります。「甲乙協議のうえ合意により改定することができる」とすると紛れがありません。
⑵ 派遣労働者の業務遂行が不能となったとき
「派遣元の責に帰さない事由によって派遣労働者の業務遂行が不能となったときは、派遣元は派遣先に派遣料金の請求ができるものとする」という条文を見かけることがあります。
ただ、そうすると天災地変、交通機関のストライキなどにより、派遣労働者が労働できなくなった場合でも、派遣先は派遣元に派遣料の支払いをしなければならなくなります。つまり、派遣労働者が働いていないのにかかわらず、派遣先は派遣料の支払いをしなければならないことになります。
派遣先とすれば、派遣労働者が働いていないときは派遣料は支払いたくないのですから、ここはむしろ「派遣先の責に帰すべき事由によって」とした方がよいと思います。
⑶ 残余期間の派遣料
「派遣先が自己の都合により派遣契約の中途解約を行う場合は、残余期間の派遣料全額を派遣元に支払う」という条文があることがあります。ただ、残余期間内に、派遣元が派遣労働者に新たな就業先を紹介できる可能性もありますし、それができない場合でも、派遣元は、派遣労働者の給料の60%相当を休業手当として払えばよいのですから、派遣先が残余期間の派遣料全額を支払うというのは厳しすぎると思います。
ここは、中途解約の申し出が、解除時から30日を切る場合は、派遣労働者の30日分の賃金に相当する額を支払うとか、少なくても、派遣元が派遣労働者に支払う休業手当に必要な費用を負担する、とした方がよいと思います。
⑷ 損害賠償の範囲

「派遣元が派遣先に損害を与えたときは、その損害(間接損害、逸失損害を除く)を支払う」としている条文があります。「間接損害」という概念は法律にないのでその内容が不明確ですし、「逸失利益」という概念は法律にあるので内容は明確ですが(債務不履行がなければ得られたであろう利益)、この条文にあるように書くと、逸失利益を派遣元に請求できなくなってしまいます。したがって、「間接的損害、逸失利益を除く」という文言は削除した方がよいと思います。
⑸ 故意または重大な過失
「派遣労働者が、故意または重大な過失により派遣先に損害を与えた場合、派遣元は派遣先に対し、損害賠償の義務を負う」という条文があります。しかし、重大な過失とは故意に準じるような過失でほとんど問題になることはなく、多くの場合に問題になるのは、単なる「過失」です。「重大な過失」と書くと、派遣元に責任追及できる場面が極めて限られてくるので、ここは「重大な過失により」ではなく「過失により」とした方がよいことになります。
⑹ 損害賠償の範囲
「派遣元が派遣先に支払う損害賠償の合計額は、派遣料相当額を上限とする。」という条文があります。しかし、これですと、派遣先が大きな損害を被っても、派遣元に請求できるのは派遣料金だけになってしまいます。このような文章は削除した方がよいと思います。
⑺ 契約解除にともなう損害賠償請求
派遣先に契約上の債務不履行解除があり、派遣元が労働者派遣契約を解除した場合、派遣先は「残余期間中の派遣料金を派遣元に支払う」という条文があることがあります。しかし、派遣先の責任による解除とはいえ、派遣料金全額を支払うというのは、派遣元にとって厳しいように思います。
3 最後に

ほかにも、労働者派遣契約によっては、派遣先に不利な条文がいろいろあります。派遣先と派遣元の関係は、(厚生労働省などがいろいろ指導する)派遣先と派遣労働者の関係と違って、民法の契約自由の原則が支配する世界です。
契約書をよく読んで、いざというときにも自分の会社を守ることができる契約書を作成しておくことが大切です。
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