
インターネットがビジネスの不可欠なインフラとなった現代において、「ドメイン名」は単なるネットワーク上の住所を超え、企業のブランド価値や信頼性を象徴する重要な知的財産(デジタル・アセット)となっています。
しかし、他者の商標や企業名と同一または類似するドメイン名を、悪意を持って先取りし、高額で転売したり、顧客を誘引したりする行為、いわゆる「サイバースクワッティング(Cyber Squatting)」は後を絶ちません。
本ページでは、こうした行為を規制する不正競争防止法第2条第1項第19号を中心に、その法的構成、要件、救済手段、および実務上の留意点について弁護士が解説しています。
制度創設の背景と法の目的

ドメイン名は、原則として「早い者勝ち(First-come, first-served)」のルールで登録されます。
この仕組みを悪用し、著名なブランド名を先に登録して権利者に高額で買い取らせようとする行為が1990年代後半から世界的に問題となりました。
日本では、当初は不正競争防止法の「周知表示混同惹起行為(1号)」や「著名表示冒用行為(2号)」で対応が試みられました。
しかし、これらの条項は「混同の恐れ」や「著名性」を要件とするため、単にドメインを保持しているだけで使用していない状態(不使用)に対しては適用が困難なケースがありました。
そこで、2001年の法改正により、ドメイン名の不正な取得・保有・使用を独立した不正競争行為として定義したのが、現在の第2条第1項第19号です。
不正競争防止法第2条第1項第19号について解説

本号に基づき不正競争行為と認定されるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
1 図利加害目的(主観的要件)
「不正の利益を得る目的」または「他人に損害を加える目的」があることを指します。
これが第19号の最も重要なポイントであり、正当な理由でドメインを取得した登録者を保護するためのフィルターとして機能します。
不正の利益を得る目的(図利目的)とは、高額な価格で買い取らせる目的、他人の顧客を自分のサイトに誘引する目的、アフィリエイト収入を得る目的などが該当します。
損害を加える目的(加害目的)とは、ライバル企業の営業を妨害する目的、企業の評判を貶める目的(誹謗中傷サイトなど)が該当します。
2 特定商品等表示との同一・類似(客観的要件)
対象となるドメイン名が、他人の氏名、商号、商標、標章その他の商品・役務を表示するもの(特定商品等表示)と同一、または類似している必要があります。
ここでは、1号や2号とは異なり、その表示が「周知(有名)」であることまでは厳格に求められません。
3 行為態様
「ドメイン名を取得し、若しくは保有し、又はこれを使用する行為」が処罰対象です。
注目すべきは、単に取得するだけでなく、「保有」し続けるだけでも(サイトを公開していなくても)対象になり得る点です。
救済手段:侵害に対して何ができるか?

不正競争行為と認定された場合、権利者は以下の請求が可能です。
1 差止請求(第3条)
不正なドメイン名の使用停止、およびドメイン名の登録抹消を求めることができます。
ここで注意が必要なのは、不正競争防止法に基づく裁判判決だけでは、直接的に「ドメイン名の移転」を命じることはできないという点です。
裁判所が命じるのはあくまで「登録の抹消(または使用禁止)」です。
移転を確実に行いたい場合は、後述するDRP(紛争解決方針)の手続きを検討する必要があります。
2 損害賠償請求(第4条)
不正取得によって営業上の利益を侵害された場合、損害賠償を請求できます。
ただし、ドメイン名の占拠事案では具体的な損害額の立証が困難なケースが多く、実務上は差止請求がメインとなります。
3 信用回復措置(第14条)
謝罪広告の掲載などを求めることができますが、ドメイン名紛争では稀なケースです。
ドメイン名紛争解決方針(DRP)との使い分け

法的な訴訟以外に、ドメイン名を取り戻すための迅速な手段としてDRP(Domain Name Dispute Resolution Policy)という手段が存在します。日本の「.jp」ドメインについては「JP-DRP」が適用されます。
〇DRPのメリット
移転(Transfer)が可能→裁判と異なり、パネル(裁定者)の判断でドメイン名の登録を自分に移転させることができます。
迅速性・低コスト→訴訟に比べて数ヶ月程度で結論が出て、費用も比較的低額です。
実務的には、まず弁護士名義の警告書を送付し、応じない場合にDRPを申し立てる、という流れが一般的です。
実務上の留意点と防衛策

企業がドメイン名トラブルに巻き込まれないため、あるいは起きてしまったときに対処するための方法について解説いたします。
1 防衛的登録(ディフェンシブ・レジストレーション)
主要なブランド名については、商標登録だけでなく、主要なgTLD(.com, .net, .info等)やccTLD(.jp, .co.jp等)をあらかじめ押さえておくことが、最もコストパフォーマンスの良い防衛策です。
2 「不正の目的」の証拠収集
相手方が高額での買い取りを持ちかけてきたメール、自社の顧客を誤解させるようなコンテンツのスクリーンショットなどは、19号を適用する際の決定的な証拠となります。安易に交渉に応じる前に、これらの証拠を保全することが肝要です。
3 ドメイン名と商標の一致
ドメイン名は商標法で直接保護されるわけではありませんが、商標登録があることで、不正競争防止法上の「特定商品等表示」としての立証が容易になります。
新しいサービスを開始する際は、商標とドメインの確保をセットで検討すべきです。
まとめ

ドメイン名の不正取得は、単なるITトラブルではなく、企業の根幹を揺るがす「営業上の信用」に対する侵害行為です。
不正競争防止法第2条第1項第19号は、インターネットの「早い者勝ち」というルールの裏側に潜む悪意を排除し、公正な競争環境を維持するためのセーフティネットとして機能しています。
もし、自社のブランドが第三者にドメイン名として占拠されていることが判明した場合、感情的に反応して高額な買い取りに応じるのではなく、法的な構成(図利加害目的の有無)を冷静に分析し、DRPや法的措置を戦略的に選択することが、知財マネジメントとして極めて重要です。
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