
インターネット通販(EC)やSNSマーケティングが全盛の現代において、商品を購入する前に「他の人がどう評価しているか」を確認することは、消費者の当たり前の行動となりました。特に、肌に直接触れる化粧品や、口から摂取する健康食品・サプリメントにおいては、第三者の口コミやレビュー、そして「体験談(お客様の声)」が、購買決定(コンバージョン)を左右する極めて強力なコンテンツとなっています。
そのため、多くの企業やマーケティング担当者、WEB担当者は、一人でも多くの見込み客に商品の魅力を伝えるべく、実際に商品を使用して満足してくださったお客様の声を、販売ページやランディングページ(LP)、公式SNSなどで大々的に紹介しています。
しかし、この「体験談」の掲載にあたって、現場で非常に多く見受けられる危険な誤解があります。それは、「ウソをついているわけではなく、実際にお客様から頂いた真実の感想なのだから、そのままホームページに載せても何ら問題ないだろう」「お客様が勝手に言っていることだから、企業側が効果を保証したことにはならないはずだ」という認識です。
結論から申し上げますと、この認識は法的に誤りです。ここに、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、通称「薬機法」の巨大な落とし穴が潜んでいます。本稿では、健康食品や化粧品を取り扱う事業者の皆様に向けて、なぜ「事実に基づく個人の感想」であってもそのまま掲載してはいけないのか、体験談に潜む薬機法上のリスクのメカニズムを解きほぐし、安全かつ効果的に体験談を活用するための実務的な運用方法について、詳細にご案内いたします。
体験談も「広告」になる~薬機法における広告の定義と三要件~

体験談のリスクを理解するための第一歩は、薬機法が「広告」というものをどのように定義しているのかを知ることにあります。「これはうちの会社が宣伝文句として書いたものではなく、お客様から寄せられた手紙(体験談)をそのまま紹介しているだけなので、広告ではなく単なる情報提供です」という主張は、行政の監視の目に対しては一切通用しません。
薬機法上の「広告」に該当するかどうかは、厚生労働省の通知等に基づき、以下の「広告三要件」をすべて満たすかどうかによって客観的に判断されます。
①顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること(顧客誘引性)
②特定の医薬品等の商品名が明らかにされていること(特定性)
③一般人が認知できる状態であること(一般認知性)
企業が、自社商品のランディングページ(LP)やECサイトの販売ページ、あるいは公式SNSアカウントにおいて「お客様の声」というコーナーを設け、体験談を掲載する行為をこれに当てはめてみましょう。
まず、販売ページに体験談を載せる目的は、それを見た別のユーザーに「この商品は良さそうだ」と思わせ、商品を購入してもらうことに他なりません。
したがって「顧客誘引性」は明確に存在します。
次に、その販売ページでは当然のことながら自社の商品名が記載され、買い物カゴのボタンが設置されていますから「特定性」も満たします。
そして、インターネット上に公開され、誰でも自由にアクセスして閲覧できる状態にあるため「一般認知性」も満たします。
つまり、企業が販売促進の文脈で利用する体験談や口コミは、それがどれほど純粋なお客様の言葉であったとしても、薬機法上は企業が行う「広告(顧客を誘引する手段)」の一部として完全に組み込まれ、厳格な広告規制の対象となるのです。
「治った」「シミが消えた」はNG:真実でも違法となる理由

体験談が企業の「広告」とみなされる以上、その表現内容は薬機法の規制(第66条:虚偽・誇大広告の禁止、第68条:未承認医薬品等の広告の禁止など)の厳しい制約を受けます。ここで現場の担当者が最も陥りやすい罠が、「ウソを書いたら虚偽広告になるのはわかるが、本当に『治った』と言っているお客様の感想を載せるのもダメなのか?」という疑問です。答えは、「たとえ真実であっても、法律上許された範囲を超えた効能効果を謳えばアウト」となります。
なぜなら、薬機法は「製品のカテゴリー(医薬品、医薬部外品、化粧品、食品など)」によって、標榜できる効能効果の範囲を厳格に定めているからです。
【化粧品における体験談のリスク】
化粧品は、薬機法において「人体に対する作用が緩和なもの」と定義されています。そのため、化粧品の広告で謳える効果は、「肌にうるおいを与える」「皮膚の乾燥を防ぐ」といった、表面的な美容の範囲(薬機法に基づく56項目の効能効果)に厳格に限定されています。
もし、お客様から「この美容液を使ったら、長年の深いシミが完全に消えました!」「ニキビ跡のクレーターが治って平らになりました!」「肌の細胞が再生して若返りました!」という喜びの体験談が届いたとします。
これらは、そのお客様にとっては真実の体験かもしれません。しかし、企業がこれを広告として掲載すると、どうなるでしょうか。「シミが消える(漂白される)」「細胞が再生する」「ニキビが治る」といった効果は、身体の構造や機能に影響を及ぼす「医薬品」や、特定の効果が認められた「医薬部外品」にしか許されない表現です。
化粧品の広告としてこれらを掲載することは、無承認の医薬品を広告したとして、薬機法第68条違反(未承認医薬品等の広告の禁止)という重大な違法行為となります。
【健康食品における体験談のリスク】
健康食品やサプリメントにおいては、さらにリスクが高まります。なぜなら、健康食品は薬機法上のカテゴリーではなく、あくまで一般の「食品」に過ぎないからです。食品である以上、身体の構造・機能への影響や、病気の予防・治療に関する効能効果を謳うことは一切禁じられています。
お客様から「このサプリを飲み始めてから、高血圧が改善して正常値に戻りました!」「長年苦しんでいた関節痛がすっかり治り、走れるようになりました!」「便秘が解消して毎日スッキリです」といった体験談が寄せられた場合、これをホームページに掲載することは致命的です。「血圧が下がる」「痛みが治る」「便秘が解消する」といった病名や症状の改善を暗示する体験談を掲載した瞬間に、その健康食品は「未承認の医薬品」とみなされ、即座に薬機法違反として摘発の対象となります。
「あくまでお客様個人の感想であり、当社が効果を保証しているわけではありません」というスタンスであっても、企業の販売サイトに掲載されている以上、企業がその効果を標榜しているものと判断されるのです。
魔法の言葉ではない「個人の感想です」~打消し表示の無効性と景表法~

体験談を掲載する際、ほとんどの企業が「※個人の感想であり、効果・効能を保証するものではありません」といった注記(いわゆる打消し表示)を小さな文字で添えています。多くの担当者は、この一文を入れさえすれば、少し過激な体験談を載せても法的に免責されるという「魔法の言葉」のように信じ込んでいます。しかし、消費者庁や厚生労働省の運用において、このような形式的な打消し表示の効果は、現在ではほぼ完全に否定されています。
消費者は、大きく目立つように書かれた「シミが消えた!」「1ヶ月でマイナス5キロ!」という魅力的な体験談のキャッチコピーに強く惹きつけられます。その脇に小さな文字で「個人の感想です」と書かれていたとしても、全体から受ける「この商品を使えば自分も同じような効果が得られるだろう」という強力な印象が打ち消されるわけではない、と行政や裁判所は判断します。むしろ、「シミが消えた」という医薬品的なNG表現がある時点で、打消し表示の有無にかかわらず薬機法違反が成立します。打消し表示は、薬機法違反の免罪符には一切なり得ないということを、現場の担当者は強く肝に銘じる必要があります。
また、体験談の掲載には「景品表示法(景表法)」のリスクも深く関わってきます。景表法では、消費者を誤認させる不当表示(優良誤認)を禁じています。例えば、自社に都合の良い「効果があった」という体験談だけを意図的に抽出し、大半の「効果がなかった」という声を隠して「99%の人が効果を実感!」といった見せ方をする場合、その体験談が客観的な事実に基づき、統計学的に妥当な方法で抽出されたものでない限り、優良誤認表示として景表法違反に問われます。さらに、企業が報酬を支払って架空の体験談を捏造すること(やらせレビュー)や、関係者であることを隠して好意的な口コミを投稿させること(ステルスマーケティング)も、現在では厳しく規制されており、発覚すれば企業の社会的信用は一瞬にして地に堕ちます。
外部への委託と監視の目:アフィリエイター・インフルエンサーの口コミ

自社のホームページに掲載する体験談については、社内のチェック体制を強化することでコントロールが可能かもしれません。しかし、現代のマーケティングにおいて見落とされがちなのが、外部のアフィリエイターや美容系インフルエンサーによる「口コミ・体験談」の投稿です。
企業がASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)を通じて成果報酬型で広告を依頼している場合や、インフルエンサーに商品を無償提供(ギフティング)してSNSでのレビュー投稿を依頼している場合、彼らが発信する「個人の体験談」は、法律上、広告主である企業の広告とみなされる可能性が非常に高くなります。アフィリエイターが自身のブログで「この化粧品を使ったら1週間でシワが消滅しました!」という薬機法違反の体験記事を書き、そこに購入用のリンクを貼っていた場合、「勝手にアフィリエイターが書いたことだから自社には責任がない」という主張は通りません。
薬機法第66条や第68条の広告規制は「何人も(なんぴとも)…広告してはならない」と規定されているため、アフィリエイター自身が処罰の対象となるのはもちろんのこと、その広告活動を依頼し、結果として利益を得ている販売元の企業も、違法な広告を放置したとして行政指導や課徴金の対象となるリスクを抱えることになります。
令和3年(2021年)の薬機法改正で導入された「課徴金制度」により、虚偽・誇大広告等の違反行為に対しては、対象期間中の売上額の4.5%という高額なペナルティが課されるようになりました。行政はAIを活用したネットパトロールシステムを導入し、SNS上の不適切な体験談や動画広告を24時間体制で監視しています。また、競合他社や一般消費者からの通報も激増しています。「他社もやっているから」「少し表現を強めないと売れないから」という現場の安易な判断が、企業の屋台骨を揺るがす数千万円単位の課徴金リスクに直結する時代であることを、経営層も含めて深く認識しなければなりません。
安全な体験談の活用法~コンプライアンスとマーケティングの両立~

では、体験談や口コミは一切ホームページに載せてはいけないのでしょうか。決してそうではありません。薬機法のルールを正しく理解し、基準を明確に守れば、体験談は依然として強力なマーケティングツールとして安全に活用することができます。
安全な体験談の活用の絶対的な大原則は、「効能・効果(身体への変化、症状の改善)への言及を徹底的に排除する」ことです。化粧品や健康食品の魅力を伝える要素は、決して「シミが消えること」や「病気が治ること」だけではありません。消費者は、日々の使い勝手や、心地よさ、企業への信頼感なども含めて商品を評価しています。したがって、以下のような「使用感」「利便性」「感覚」「サービス」に関する感想を中心に選別し、掲載することが安全な運用方法となります。
安全に活用できる体験談・口コミの表現例(化粧品・健康食品共通)
使用感やテクスチャーに関する感想
・「肌にすーっと伸びて、ベタつかず、とても使いやすいテクスチャーです。」
・「サプリの粒が小さくて、喉に引っかからずに毎日飲みやすいのが嬉しいです。」
・「泡立ちが豊かで、洗い上がりがとてもスッキリします。」
香りや感覚、リフレッシュ感に関する感想
・「ラベンダーの香りがとても良くて、毎晩のお手入れの時間がリラックスタイムになりました。」
・「スッとした爽快感があり、朝使うと気分がシャキッとします。」
デザインやパッケージに関する感想
・「ボトルデザインが高級感があって可愛く、洗面台に置いているだけでテンションが上がります。」
・「パウチが持ち運びに便利なサイズで、旅行先にも欠かさず持っていけます。」
継続のしやすさやライフスタイルへの定着
・「面倒くさがりな私でも、これなら簡単なので毎日無理なく続けられています。」
・「美味しい味なので、おやつの代わりに楽しんで飲んでいます。」
・「家族みんなで気に入って使っています。」
企業姿勢やサービスに対する感想
・「定期便の変更手続きの際、カスタマーサポートの方がとても丁寧に対応してくれて感動しました。」
・「注文してからすぐに届き、梱包も丁寧で安心できました。」
これらはすべて、商品の「身体への効能効果」を一切主張していません。しかし、これから商品を購入しようと検討しているユーザーに対して、「使い続けられそうだ」「安心できる会社だ」「気分が良くなりそうだ」というポジティブなイメージを十分に与えることができます。法的なリスクをゼロに抑えつつ、コンバージョンを後押しする有効な情報として機能するのです。
社内チェック体制の構築と自動公開システムの危険性

安全な運用を実現するためには、社内のチェック体制の構築が不可欠です。ECサイトなどで、ユーザーが投稿したレビューや体験談が、システムを通じて「自動的・無審査でそのまま販売ページに公開される」仕組みを導入している企業がありますが、これは薬機法上、極めて危険な状態です。ユーザーが悪気なく「飲んだらガンが消えました!」というレビューを投稿し、それが自動で販売ページに表示されてしまえば、その瞬間に企業は未承認医薬品の違法広告を行っている状態になってしまいます。
したがって、ユーザーから寄せられた体験談やアンケート結果は、必ず一度社内の管理システム(非公開状態)に留めおき、薬機法の知識を持った担当者、あるいは法務部門が目視でチェックする「検閲フロー」を設ける必要があります。そして、前述したような「NG表現(効能効果の標榜)」が含まれている体験談は、残念ながら不採用とするか、あるいは利用規約等に基づき、投稿者の趣旨を損なわない範囲で効能効果に触れない部分のみを抜粋・編集して掲載するといった運用ルールを徹底しなければなりません。「体験談を加工するとリアル感が失われる」と懸念するマーケティング担当者もいますが、リアル感を追求するあまり法律のレッドラインを踏み越えてしまえば、ビジネスそのものが停止させられるリスクがあることを忘れてはなりません。
まとめ

「実際のお客様の声だから、そのまま載せても問題ない」という認識は、化粧品や健康食品の広告運用において最も多く、そして最も危険な誤解です。体験談は、企業が販売促進の目的で掲載する以上、薬機法上の「広告」として厳格な規制の対象となります。真実であるかどうかは関係ありません。化粧品や一般食品として許されたルールの枠組み(効能効果の範囲)を超えて、病気の治療や身体機能の変化を暗示する体験談を掲載することは、明確な違法行為となります。
企業がブランドを守り、長期的にビジネスを成長させていくためには、目先のインパクトに頼るのではなく、商品の使用感、利便性、世界観、そしてサービス品質に対する「お客様の真の満足の声」を丁寧に拾い上げ、安全な形で発信し続けることが重要です。現場のマーケティング担当者、WEB担当者、そして経営層が薬機法のリスクを正しく理解し、自律的なチェック体制を構築することが、安全で持続可能なEC事業の絶対条件となります。
もし現在のWEBサイトやSNSの運用に少しでも不安を感じられるのであれば、手遅れになる前に、広告法務に精通した弁護士による詳細なリーガルチェックを受けることを強くお勧めいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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