
「画期的なビジネスモデルを思いついたので特許をとりたい」「AIを使った新しいサービスは特許になるのだろうか」「そもそも法律が言う『発明』の定義がよくわからない」そんな場面に遭遇することはないでしょうか。
せっかく素晴らしいアイデアを生み出しても、それが特許法上の「発明」に該当しなければ、特許として認められることはありません。また、逆に「どうせ特許にはならないだろう」と勝手に思い込んで出願を諦めてしまい、競合他社に先を越されて市場の優位性を失ってしまうということもあるかもしれません。
今回は、そのような開発者や知的財産担当者の方に向けて、特許の前提条件である発明の要件と、その大切なとなる「自然法則の利用」の要素について、具体例を交えて解説します。初めての方にもわかりやすくご紹介しますので、ぜひ一度ご覧ください。
「文系」には縁遠い?

特許というと、なんだか難しい技術や専門知識が必要で、いわゆる「理系」の人でないと関われない、「文系」には関係のないもの、というイメージを持っていないでしょうか。
実際に、『「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの(特許法2条1項)』とされているように、自然法則を利用したものでなければならないとされています。
しかし、実際に特許登録を受けている発明の中には、必ずしもそのような発明のイメージとは異なるものがあります。例えば、「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」課題を解決するためのシステムが発明に該当するとした裁判例があります(知財高裁H30.10.7)。
当然発明と認められるためには画期的であることは論を待たないところですが、よくいう「発明」イメージとは少し異なるのではないでしょうか。
発明の要件

発明にあたるための要件について、特許法2条1項は、発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であると規定しています。
この規定より、一般的に発明の要件として
そのアイディアが
①自然法則を利用していること
②技術的思想であること
③創作性があること
④高度なものであること
が必要と理解されています。
自然法則の利用

例えば、上にご紹介した裁判例は、「ステーキの提供方法」と「計量機等」を発明したという事例についてのものでした。
細かい事情を説明すると、この事件の原告が営むステーキ店では、席ごとに振られた番号の書かれた札とは別に、各顧客が注文するステーキにも記号が付されていました。
各顧客の注文を受けた店員の入力を経由して、ステーキ肉の計量を計量機で行うと、席番号・ステーキの量がセットで印字されたシールが発券されるのです。
注文を受けた店員は、
【テーブル】**番
【焼き方】 **
***(円) **g
といったように席番号とステーキの重量、個々のステーキに付された記号がまとめられた紙を印刷し、これにより提供するステーキの取り違えを防止していたのです。
※上記例は、判決における事実認定・特許公報をもとにしたイメージです。
自然法則を利用しているか否か
ステーキの提供方法については、これだけを見るとあくまでサービスの提供方法を指定したものに過ぎず、自然法則を利用していないのではないかという疑問が生じるかもしれません。
例えば、特許庁は、「発明」に該当しないものの類型について審査基準として公表しています。
※https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0100.pdf
(i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)
(ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
(iii) 数学上の公式
(iv) 人間の精神活動
(v) 上記(i)から(iv)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)
本件ステーキ提供方法だけでは、上の例のように、ビジネスを行う方法自体であるとみられてしまう可能性があります。
判旨
しかし、裁判所は、自然法則を利用しており発明にあたると判断しました。
「(今回問題になっている発明は)ステーキ店において注文を受けて配膳するまでの人の手順(本件ステーキ提供方法)を要素として含むものの、これにとどまるものではなく、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品または機器(装置)からなる本件計量機等に係る構成を採用し、他のお客様の肉との混同が生じることを防止する札、計量機等にかかる構成を採用」したものであるとしたうえで、
「札、計量機及びシール(印し)という特定の物品または機器(本件計量機等)を、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当する」としました。
大まかに言えば
・ステーキの提供方法という人の作業手順に札やシール、機器(本件計量機等)の物的構成をセットにしたことで、顧客の肉の取り違えという問題を解決するシステムを作り上げた
・利用されている物品(機械)・設備が自然法則により作動し、これが課題解決のための技術的手段になっていれば、自然法則を利用しているといえる
という判断をしたものと考えられます。
ビジネスに関する仕組みを保護する考え方

上記裁判例のように、ビジネスに関する仕組みが発明にあたるか否かについては議論があります。
人の精神活動が介在する仕組みについて、これを発明に含めて特許により保護してしまうと、人の活動の自由が大きく制約されてしまうからです。
例えば、フィギュアスケートにおけるトリプルアクセルや野球におけるスライダーの投げ方、暑い日に体力を使わない一日の過ごし方に後輩や部下との上手い付き合い方まで、人の精神活動一つ一つに特許法による保護(=他者への制約)を認めてしまうと問題があるのは明らかでしょう。
近時の裁判例には、もっぱら人の精神活動に向けられた仕組みについて自然法則を利用していないと判断するものや、人の精神活動が介在する仕組みでも自然法則を利用した手段が課題解決における主要な手段となっているならば自然法則を利用していると判断する(発明であると認める)ものがあります。
限定的な考え方
一方、「自然法則の利用」が要件とされるのは、自然法則の発見や、自然法則や工夫によって難しい課題を解決するには、多大なコスト(研究開発費や長い実験期間など)がかかるからです。特許法は、このコストに見合う対価として発明を保護したいという狙いがあります。
しかし、単に人間のアイデアだけで実現できる仕組みの中には、特許法で保護するほどのコスト(目に見える金銭や時間・労力など)がかからないものもあります。これは、商才のある人が簡単にサービスを思いついてしまうことがあるためです。また、前述したように、人間の精神活動に直接向けられた技術を、特定の特許権者が独占すべきではないという考えもあります。そのため、物理的な設備など、自然法則を利用する技術的な手段が用いられていたとしても、特許法が意図していない単なるアイデアを保護してしまう可能性があるのです。
もっとも、今回のステーキ提供に関する仕組みのように、その構想に多くの労力が費やされた可能性もあります。また、営業を続けるうちに、他の競合他社に簡単に真似されてしまう恐れもあります。そうだとすれば、このような優れた仕組みの考案を保護しないことは、その努力に見合う対価として不十分であるようにも思えます。
まとめ

以上のように、特許発明として認められるためには、
①自然法則を利用していること
②技術的思想であること
③創作性があること
④高度なものであること
といった要件が必要でした。
そして、発見された自然法則を利用するものや最新の科学技術の応用方法以外にも、ビジネス上の仕組みのようなものも特許登録が認められているものがあります。
ビジネスのための仕組みなどは自然法則を利用していないのではないかという観点から、発明にあたらないとされる場合と逆に発明にあたるとされる場合があることがわかりました。
裁判例の傾向としては、もっぱら人の精神活動に向けられたものであるか、課題の解決の技術的手段として自然法則が利用されているかという観点から判断されています。
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