近年、SNS(X、Instagramなど)やGoogleマップの口コミ、業界専門のレビューサイト、掲示板において、競合他社が匿名アカウントを悪用し、他社を貶める虚偽情報を投稿・拡散するトラブルが急増しています。

「あの会社の商品は欠陥だらけで健康被害が出ている」・「経営が行き詰まっており、近く倒産するらしい」・「労働環境が劣悪で、違法なサービス提供を行っている」

こうした投稿は、一度拡散されると企業のブランドイメージを急速に失墜させ、売上激減や採用難、取引停止といった深刻な実害をもたらします。

一般的なインターネット上の誹謗中傷においては、民法上の名誉毀損やプライバシー侵害を理由とする対応が一般的です。

しかし、投稿者が「競合他社(ライバル企業)」である場合、不正競争防止法(以下「不競法」)上の「信用毀損行為(第2条1項21号)」として追及することで、民法単独の対応よりも強力かつ実効的な救済を得ることが可能です。

本コラムでは、弁護士の視点から、競合他社による悪評散布に対して不競法を適用する意義と、「発信者情報開示請求」「損害賠償請求」「訂正広告掲載」に至る具体的な手続きを解説します。

不正競争防止法第2条1項21号「信用毀損行為」の要件

不競法第2条1項21号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を不正競争行為と定義し、これを禁止しています。

この要件を満たすか否かの判断基準は以下の5点です。

① 競争関係が存在すること

被害企業と加害企業の間に「市場における競争関係」が必要です。

同一地域・同一業界で需要者を争っている場合は勿論、将来的に同一市場へ参入する見込みがある場合や、実質的に代替関係にある商品を扱っている場合も「競争関係」に含まれます。

② 「他人」が特定されていること

投稿内に具体的な社名や商品名が直接書かれていなくても、前後の脈絡や文脈から「どの企業のことを指しているのか」を取引先や消費者が特定できるのであれば、「他人」への告知・流布にあたります。

③ 「営業上の信用」を害する恐れがあること

商品の品質、サービスの安全性、企業の財務状況、役員・従業員の遵法意識など、企業の社会的評価や経済的信用を低下させる内容であることが求められます。

④ 「虚偽の事実」であること

証拠によって客観的に真偽を確かめることができる「事実」であり、かつそれが客観的事実に反している必要があります。

単なる個人的な感想や抽象的な批判(「デザインが好みではない」等)ではなく、「害虫が混入していた」「無資格で施術している」といった客観的に偽りと証明できる内容がこれに該当します。

⑤ 告知又は流布したこと

「告知」とは特定の人に伝えることであり、「流布」とは不特定多数に広めることです。

SNSへの投稿やレビューサイトへの口コミ掲載は、不特定多数が閲覧可能な状態を作るため「流布」に該当します。

なお、故意に悪質な営業誹謗行為を行った場合には、不競法上の民事責任にとどまらず、刑法の信用毀損罪(刑法233条)や偽計業務妨害罪として刑事罰の対象にもなり得ます。

手続き1:相手方を特定する「発信者情報開示請求」

競合他社がSNSや口コミサイトに悪評を書き込む際、多くは匿名のアカウントや捨てもと(捨てアカウント)を使用します。

そのため、最初に着手すべきは「誰が書き込んだのか」を突き止める発信者情報開示請求です。

2022年10月に施行された改正プロバイダ責任制限法により、手続きはより迅速化・円滑化されました。

まずは、書き込みがなされたサイト(Google、X、掲示板等)の運営者(コンテンツプロバイダ)に対し、該当投稿を行った端末の「IPアドレス」および「タイムスタンプ」の開示を求めます。

裁判外での任意開示に応じるケースは少ないため、裁判所に「発信者情報開示命令(非訟手続)」または仮処分を申し立てます。この際、不競法第2条1項21号の信用毀損行為に該当し、権利侵害が明白であることを証拠とともに主張・立証します。

アクセスプロバイダ(通信事業者)側のアクセスログは、通常3ヶ月〜6ヶ月程度で消去されてしまいます。そのため、IPアドレスが判明したら速やかに経由プロバイダに対し、ログの消去禁止を求める仮処分や申し入れを行います。

入手したIPアドレスを元に、投稿者が利用した通信事業者(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク等)を特定し、契約者の「氏名・名称」「住所」「電話番号」「メールアドレス」の開示を申し立てます。

開示命令手続の中で、相手方の情報が開示されれば、悪質レビューを投稿した犯人が「ライバル会社の役員」「競合企業の従業員」「業務委託先マーケティング会社」であるといった実態が明白になります。

手続き2:不正競争防止法第5条を活用した「損害賠償請求」

投稿者が競合他社であると特定できた場合、不競法第4条に基づき、被った損害の賠償を請求します。

民法上の不法行為(民法709条)で損害賠償を請求する場合、「悪評投稿と売上減少の間に因果関係があること」や「具体的な損害額」を被害者側で厳密に立証しなければならず、ハードルが非常に高いのが実情です。

しかし、不正競争防止法を適用することで、第5条の「損害額の推定規定」を活用できる点が最大の強みです。

不競法第5条の規定推定される損害額の計算方法
第5条1項競合他社が不法行為によって販売した数量 × 被害者側の単位あたり利益額
第5条2項競合他社(侵害者)が信用毀損行為によって得た利益の額
第5条3項当該営業上の信用やブランド利用にかかるライセンス料相当額(使用料相当額)

実務上、競合他社が自社を貶めることで自社の客を奪い、利益を得ていた場合、競合他社が得た不当な利益額(第5条2項)や、それによって減少した自社の利益を損害額として主張・推定させることが可能です。

さらに、これらの財産的損害に加えて、企業のブランド価値低下に対する「無形損害(企業慰謝料)」や、対応に要した「弁護士費用の一部」も請求範囲に含まれます。

手続き3:破壊されたブランドを復元する「訂正広告掲載」(第14条)

悪質口コミや虚偽情報の拡散によって一度傷ついた企業の社会的信用は、金銭の支払い(損害賠償)だけでは十分にか回復しません。そこで不競法第14条は、被害者の請求により、裁判所が金銭賠償とは別に「営業上の信用を回復するのに必要な措置」を命じることができると定めています。

その代表例が「訂正広告掲載(謝罪広告掲載)」です。

過去の裁判例や実務において、裁判所は以下のような態様での訂正・謝罪広告の掲載を命じることがあります。

・全国紙・業界専門誌への訂正広告の掲載(新聞紙面に一定の大きさで判決内容や事実関係の訂正を掲載)
・加害企業(競合社)の自社Webサイトトップページへの謝罪文・訂正文の一定期間掲載
・悪評が投稿された同一のSNSアカウントやレビューサイト上での釈明・訂正の投稿

訂正広告は相手方の表現の自由や名誉感情にも関わるため、裁判所は「信用毀損の程度」「虚偽情報の拡散範囲」「悪質性の高さ」などを総合的に考慮して判断します。

競合他社が組織的かつ継続的にネット上で虚偽情報を拡散し、業界内や需要者の間で広く誤解が定着してしまったようなケースでは、信用回復措置として訂正広告の掲載が認められる可能性が極めて高くなります。

まとめ

競合他社によるSNSやレビューサイトでの不当な悪評散布は、正当な市場競争の枠組みを著しく逸脱した卑劣な不法行為です。これを放置することは、自社のブランド価値や売上を損なうだけでなく、誤った情報によって真の優良な商品・サービスを選べなくなる消費者にとっても大きな損失となります。

不正競争防止法第2条1項21号を正しく適用し、発信者情報開示請求によって加害者を特定したうえで、損害賠償請求と訂正広告の掲載を徹底して追及することが、企業の社会的信用を守り、再発を防止するための最善の策です。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
  ※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。

この記事を書いた弁護士:弁護士 安田伸一朗

不正競争防止法

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所、埼玉弁護士会所属。令和4年の登録以来、営業秘密の漏洩や商品形態の模倣、混同惹起行為など、不正競争防止法が関わる複雑な紛争解決に注力。