質問
社員に異動辞令を渡そうとしたところ、受取りを拒否されました。
1 人事異動が無効になることがあるのでしょうか。
2 新たな異動先で無断欠勤した場合、懲戒解雇の対象となるでしょうか。

回答
1 人事異動を拒否された場合は、次のようにすべきとされています。
 ア 人事異動を拒否する事情を聴取し、人事異動拒否にもっともな理由があるのかどうかを確認する。
 イ 人事異動拒否にもっともな理由がないとの判断に至った場合は、人事異動命令に応じるよう説得する。
 ウ 人事異動が権利濫用にならないかと検討する。

そして、下記の①②③のどれかがある場合は、権利濫用として人事異動命令が無効になるとされています。
 ① 業務上の必要性が存しない、
※ 但し、この業務の必要性は、「余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである」(最高裁判決)とされています。
 ② 不当な動機・目的をもってなされた、
 ③ 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである、

上記の事情がない場合は、異動命令が権利濫用になることはありません。

2 次に、無断欠勤をした場合に、懲戒解雇をすることができるかどうかですが、就業規則に無断欠勤による懲戒解雇の規定があれば、原則として懲戒解雇をすることができます。
ただし、無断欠勤を理由とする懲戒解雇については、下記のとおり、有効とした判例も無効とした判例もありますので、ていねいにやっていくなら、何回か出勤の督促をし(手紙で証拠に残るような形で催促をする)、それでも出勤しない場合に解雇するという方がよいのではないかと思います。

開隆堂出版事件 東京地裁 平成12.10.27
事前の届をせず、欠勤の理由や期間、居所を具体的に明確にしないままの2週間にわたる欠勤は、正当な理由のある欠勤であるとは認められないとして、就業規則の懲戒解雇規程に基づく懲戒解雇を有効と判断した。
 
中央実業チェーン事件 大阪地裁 昭和59.1.31
会社からの再三にわたる出勤の督促を受けながら1ヶ月以上も納得し得る欠勤理由を示さずに欠勤したケースで、解雇は有効だと判断された。

栴檀学園事件 仙台地裁 平成2.9.21
正当な理由のない1ヶ月の無断欠勤を理由とする懲戒解雇について、業務に大きな支障がなかったこと、それまで使用者が特に注意をしなかったことから、解雇無効と判断した。

ローヤルカラー事件 東京地裁 昭和49.3.28
出勤状態は悪いが、従業員中最悪ではないこと、それによって業務に顕著な遅滞や支障があったとは認められないことから、解雇は無効とされた。