
令和5年に改正された景品表示法が令和6年10月1日に施行され、まもなく2年が経過します。この改正では、事業者が自ら是正に踏み出せば措置命令を受けずに済む「確約手続」が新設された一方で、不当表示そのものに罰金を科す「直罰規定」も導入されました。
このコラムでは、この二つの制度について、施行後の運用状況を踏まえながら、事業者が備えておくべき点を解説します。
1 はじめに

景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)は、一般消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選択できる環境を守るための法律です。従来、不当表示に対する行政上の措置は、措置命令と課徴金納付命令が中心でした。
もっとも、措置命令は事業者名とともに公表されるため、企業にとってはレピュテーション上の打撃が大きく、他方で消費者庁の側も、調査の開始から命令に至るまでに長い時間を要するという課題を抱えていました。令和5年改正は、この双方の課題に応えるものとして、確約手続と、直罰規定・課徴金の割増とを同時に導入した点に特徴があります。
2 確約手続 ― 措置命令を回避するという選択肢

(1)制度の概要
確約手続とは、景表法違反の疑いのある表示について、事業者が自ら是正措置計画(確約計画)を作成して消費者庁に申請し、その認定を受けることにより、措置命令や課徴金納付命令を受けることなく事件を終了させる制度です。
流れとしては、消費者庁から確約手続通知を受けた事業者が、通知の日から60日以内に認定を申請します。認定を受けるためには、①措置の内容が違反被疑行為とその影響を是正するために十分であること、②その措置が確実に実施されると見込まれること、という二つの要件を満たす必要があります。
注意すべきは、認定を受けても「公表されない」わけではないという点です。事業者名、違反被疑行為の概要、確約措置の内容は公表されます。確約手続は、秘密裡に幕引きを図る制度ではなく、違反の認定と処分を避けつつ、自主的な是正の姿勢を対外的に示すための制度と理解すべきでしょう。
(2)運用の実際
施行後の運用をみると、確約手続はすでに実務に定着しつつあります。令和7年度(2025年4月から2026年3月まで)は、措置命令が13件と前年度の26件からほぼ半減した一方、確約計画の認定は8件に上りました。パーソナルジムの入会金値引きの期限表示、光回線のキャンペーンの期限表示、エステサロンのステルスマーケティングなど、対象となった業種も幅広く広がっています。
公表事例から読み取れる確約措置の「型」は、①違反被疑行為の取りやめ、②一般消費者への周知徹底、③再発防止のための社内体制の整備(取締役会決議を伴うもの)、④消費者庁への履行状況の報告、という4点です。さらに、購入者への返金は、認定要件である「十分性」を基礎づける重要な事情として考慮されるとされており、実際、公表事例の多くで返金措置が盛り込まれています。
3 直罰規定と課徴金の割増

(1)100万円以下の罰金
改正法は、優良誤認表示・有利誤認表示について、措置命令を経ることなく直接に罰金を科す規定を新設しました(法48条)。法定刑は100万円以下の罰金であり、法人に対する両罰規定も置かれています(法49条)。
従来は「措置命令に従わなかった場合」に初めて刑事罰の対象となったのに対し、改正後は不当表示そのものが処罰の対象となり得ます。ステルスマーケティングなど指定告示に係る表示は直罰の対象外とされていますが、効果・性能や価格に関する表示については、刑事上のリスクを意識した審査体制が求められるようになったといえます。
(2)課徴金の1.5倍割増
もう一つの「ムチ」が、課徴金の割増です。違反行為から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者が再び違反した場合、算定率は通常の3パーセントから4.5パーセントへと、1.5倍に引き上げられます(法8条5項)。一度指摘を受けた企業にとって、再発はもはや単なる「二度目」では済みません。
なお、自主返金による課徴金の減額制度も見直され、金銭に加えて、一定の要件を満たす電子マネー等による返金も認められるようになりました(法10条)。返金措置は、課徴金の減額と確約手続の認定の双方において事業者に有利に働く、実務上の要というべき位置を占めています。
4 おわりに

確約手続は、事業者にとって有利に使い得る制度である反面、通知から60日以内という限られた時間の中で、是正措置の内容、周知の方法、返金の対象範囲と原資、再発防止のための社内体制までを具体的に設計し、申請しなければなりません。調査が始まってから検討に着手したのでは、到底間に合わないというのが率直な実感です。
平時から、広告表現の裏付けとなる資料を整理し、表示のチェックフローと責任者を定め、問題が発覚した際の初動を決めておくこと。地味な備えではありますが、それこそが、直罰や割増課徴金というリスクを避けつつ、いざというときに確約手続という選択肢を現実的に選び取るための条件となります。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 権田健一郎
景品表示法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和2年登録後、景品表示法の相談等を多数取り扱う。二重価格表示、打消し表示と強調表示、不実証広告規制などの大きな論点から、ステルスマーケティング・アフィリエイト広告などの近年活発になっている論点についても研究を重ねている。消費者庁主催の景品表示法セミナーを受講しており、最新の論点についても常にフォローしている。






