景品表示法には、消費者を保護するために、景品の価格について様々な規制が設けられています。これらの規制を知っておかなければ、景表法違反として行政上の制裁を受けてしまうこともあります。このコラムでは、事業者が抑えるべきポイントを解説します。

1 景品表示法の規制を受ける景品提供

(1)景品とは

一般消費者との間で通常の取引(売買契約など)によってやり取りするのではなく、一般消費者がある取引を行うことを誘引する目的で商品・物品を提供するという方法が世の中では多くとられています。

「景品」の実務上の定義は、①顧客を誘引するための手段として、②事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する、③物品、金銭その他の経済上の利益、とされています。

この定義によりますと、海外旅行や、コンサートや舞台への招待などのようなサービスも景品に含まれます。またポイントやスクラッチカードなど、間接的に経済上の利益がもたらされるものも、景品に該当します。物品ではないので景品に該当しないと考えるのではなく、顧客を誘引するための商品やサービスは、基本的にすべて「景品」に該当してくると考えておいたほうが安心です。

(2)景品に該当しないケース

以下のような場合は、景品には該当しません。

ア いわゆる値引きのケース

「×個以上買う方には、○○円引き」、「背広を買う方には、その場でコート○○%引き」、「×××円お買上げごとに、次回の買物で○○円の割引」など

イ いったん支払った代金をキャッシュバックするケース

「レシ ート合計金額の○%割戻し」、「商品シール○枚ためて送付すれば○○円キャッシュ バック」など

ウ 購入者に対して同じ商品をおまけするケース

「コーヒー5回飲んだらコーヒー一杯無料券をサービス」など

(3)景品類の価格について

景品類の価格は、事業者が景品類として提供する物品の仕入価格ではなく、当該景品類を一般消費者が購入する際の通常の価格であるとされています。
景品類として提供する物品が一般には販売されていないものである場合は、当該物品の仕入価格や同種商品の一般的な販売価格などを参考に景品類の価格が算定されることになります。

最高額の制限に違反しているか否かを判断する際にまず問題となるのは、景品類の価格と取引の価格をどのように認定するかということです。特に問題となるのは、取引の価格の認定方法です。これについては、行政が示した運用基準である「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について」に基づき、以下のように定められています。

① 購入者を対象とし、購入額に応じて景品類を提供する場合は、当該購入額を「取引の価格」とする。

② 購入者を対象とするが購入額の多少を問わないで景品類を提供する場合の「取引の価格」は原則として、100円とする。

③ 購入を条件とせずに、店舗への入店者に対して景品類を提供する場合の「取引の価格」は、原則として、100円とする。

景品類の価格に関する景表法上の規制については、「2」以下で詳しく解説していきます。

2 景品類の価格に関する規制

景品類の価格については、景品の提供形態に応じて下記のように価格の制限が設けられています。

(1)懸賞とは

「懸賞」とは、抽選などの偶然性を利用し、応募の際に一般に明らかでない事項についての予想を募集し、その回答の優劣や正誤によって景品類提供の相手方や提供する景品類の額を決定する方法を指します。

(2)オープン懸賞

「オープン懸賞」とは、メディアやインターネットのWebサイトなどで、対象を特定しない形式で応募者を募り、郵便やメール、SNS、応募フォームなどで申し込みを可能とするものをいい、当選者は抽選で決まります。
オープン懸賞については、景表法上の規制を受けません。
オープン懸賞とは、その名の通り、応募者の資格等に制限はなく、基本的に誰でも応募することができる懸賞ですので、景表法上の「景品」に当たらないというのが理由です。
そのため、オープン懸賞を企画する場合、事業者は高額商品を提供することも可能です。

(3)クローズド懸賞

「クローズド懸賞」とは、景品を提供する事業者と応募者の間に取引が発生することが条件になる形式の懸賞のことをいいます。
限定的な条件の下で応募できる懸賞であることから「クローズド懸賞」と呼ばれます。
クローズド懸賞により提供される景品は、景表法上の「景品類」にあたるため、同法により規制されることになります。

クローズド懸賞は、さらに次の3種類に分かれます。
1. 一般懸賞
2. 共同懸賞
3. 総付景品
以下、それぞれについて解説していきます。

ア 一般懸賞

「一般懸賞」とは、事業者が単体で実施する懸賞のことをいいます。
一般懸賞の例としては、たとえば、次のようなものがあります。

• 一定金額以上の商品購入でもらえる抽選券
• 一定金額以上を購入したレシートを添付することを条件とした応募
• 飲料のフタの裏などに付いている景品
• クイズなどの正解者に当たる景品
• じゃんけんやゲーム、競技の優劣に応じて貰える景品

一般懸賞によって提供される景品に対しては、取引価格(本体商品やサービスの取引価格)に応じて、その限度額が定められています。
具体的には、以下の表のとおりです。

取引価格景品類の最高額景品類の総額の最高額
5000円未満取引価格の20倍懸賞に係る売上予定総額の2%
5000円以上10万円同上

景品の限度額は、懸賞による取引価額(商品やサービスの値段)で決まっています。取引価額(商品やサービスの価格)が、5,000円未満の場合は、景品類の最高額は、取引価額の20倍までです。例えば、1,500円の商品であれば、30,000円までの景品を用意できます。また5,000円以上であれば、最高額は100,000円と決まっております。景品類の総額は、懸賞に係る売上予定総額の2%となっています。

このように、一般懸賞における景品は、取引価格が5000円未満となるか5000円以上となるかによって、その最高額に違いがあります。
また、景品の総額についても、「懸賞に係る売上予定総額の2%」という限度額が設けられているため、注意が必要です。

イ 共同懸賞

「共同懸賞」とは、複数の事業者が共同で実施する懸賞のことを言います。事業者が複数参加するため、金額や規模も一般懸賞より大きくなることが特徴です。
共同懸賞の例としては、たとえば、次のようなものがあります。

• ショッピングモールに入居する複数店舗が共同で開催する福引
• 商店街にある複数の店舗が開催するくじ引き
• 地域の同業者が複数参加する懸賞

共同懸賞によって提供される景品については、一般懸賞とは違い、取引価格を問わず、最高額は一律で30万円と決められています。
景品類の最高限度額設定はシンプルで、取引価額にかかわらず300,000円。総額は予定売上総額の3%となっています。

ウ 総付景品

総付景品とは、商品やサービスを利用した人、来店した人全員に、景品類を提供することです。ベタ付けという言い方もされます。ペットボトルや缶の飲料にキーホルダーやフィギュアなどを付けて販売されているのを日常生活で目にすることが多々ありますが、これはまさに総付景品にあたります。また、来店すると加算できるデパートのポイントや、もれなくもらえるキャンペーンの景品なども、こちらに該当します。
こちらの限度額の制限はシンプルで、取引価額が1,000円未満の場合は景品類の最高額は200円、1,000円以上の場合は、取引価額の10分の2となります。

(4)特定の業種に係る景品について

特定の業種に係る景品については、別途景品への規制が設けられています。
景品付販売は、その実態が多岐にわたっており、それらを一つの法律で画一的に規制することにはなじまないため、公正取引委員会が必要に応じて制限や禁止を設けたものです。

具体的には、下記の4つの業種が指定されています。
1. 新聞業
2. 雑誌業
3. 不動産業
4. 医療用医薬品業、医療機器および衛生検査所業
以下では、それぞれについて、景品の限度額を紹介します。

ア 新聞業

新聞業を営む事業者は、新聞の購読者に対し、以下の範囲を超えて景品類を提供してはなりません。
【懸賞により提供する景品類】
• 最高額:取引価格の10倍に相当する金額または5万円の、どちらか低い金額
• 総額:取引価格の予定総額の0.007%に相当する金額
【懸賞によらずに提供する景品類(総付景品)】
• 取引価格の8%に相当する金額、または6ヶ月分の購読料の8%に相当する金額のうち、いずれか低い金額

イ 雑誌業

雑誌業を営む事業者は、以下の範囲を超えて一般消費者に対し景品類を提供してはなりません。
【懸賞により提供する景品類】
• 最高額:取引価格の20倍に相当する金額(10万円を超える場合は10万円)
• 総額:取引の予定総額の2%に相当する金額
【懸賞によらずに提供する景品類(総付景品)】
• 取引価格の20%に相当する金額(200円未満の場合は200円)

ウ 不動産業

不動産業を営む事業者は、以下の範囲を超えて一般消費者に対し景品類を提供してはなりません。
【懸賞により提供する景品類】
• 最高額:取引価格の20%に相当する金額(10万円を超える場合は10万円)
• 総額:取引の予定総額の2%に相当する金額
【懸賞によらずに提供する景品類(総付景品)】
• 取引価格の10%に相当する金額、または100万円の、いずれか低い方の金額

エ 医療用医薬品業、医療機器および衛生検査所業

提供する景品類についての限度額の定めはありません。
もっとも、医療用医薬品や医療機器の製造・販売などを扱う事業者は、医療機関などに対し、取引を不当に誘引するための手段として、医療用医薬品や医療機器などの使用・利用に応じて必要となる物品またはサービスの範囲を超えて景品類を提供してはなりません。
この業種では安全や品質が特に厳しく求められるため、事業者が提供する景品類によって、医療機関などが判断を誤ることがないように徹底する必要があります。

(5)全面的に禁止される懸賞

懸賞景品告示では、懸賞に該当するものであっても、「2以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法」を用いてはならないとされています。
これは、いわゆる「カード合わせ」といわれるもので、昭和20年代後半に紅梅キャラメル(株)が行った景品提供企画が大きな社会問題となったことを踏まえた規制です。

この景品提供企画は、キャラメルに読売ジャイアンツ所属のプロ野球選手の写真カードを同封し、選手9名のカードを揃えると景品がもらえ、さらに監督のカードを加えて揃えると高額な景品がもらえることとされていました。しかし、水原茂監督のカードがなかなか揃わず、多くの子どもがキャラメルを多数買い続ける事態になりました。

最近の事例ですと、スマートフォンやパソコンでプレイするソーシャルゲーム内のコンプリートガチャ(いわゆる「コンプガチャ」)が「カード合わせ」に該当するか否かが問題となりました。
コンプガチャとは、ゲーム内で一般消費者にアイテムを提供し、特定の種類のアイテムをすべて揃えると希少なアイテムを手に入れることができる、というような仕組みを指します。
このようなコンプガチャは、懸賞運用基準において、「カード合わせの方法」に該当し、全面的に禁止されることが明らかにされています。

また、コンプガチャ以外にも、最近の事例では、アイドルグループのCD販売が「カード合わせ」に該当するのではないかと問題となったことがあります。
これは、あるアイドルグループがCDを販売するにあたり、CD1枚を購入した者にグループのメンバーのうち1名のポスターを提供するとともに、グループ全員分のポスターを揃えるとイベントに招待するという内容でした。
この企画には「悪徳商法ではないか」との批判がファンから相次ぎ、企画開始後すぐに中止されています。

このように、「カード合わせ」による景品提供は、社会問題化するものが多く、社会的な関心も高いものですので、規制に反しないよう特に注意する必要があります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 権田 健一郎
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