下請法では、支払期日が経過したのに関わらず、下請代金を支払わないことを禁止しています。これを支払い遅延の禁止と言っていますが、支払遅延の意味を述べ、また、よく問題になる事例について、詳しく解説してみました。

1 支払遅延についての下請法の規制

⑴ 規制の内容

下請法4条1項2号では、親事業者が、下請事業者に対して、支払期日経過後なお下請代金を支払いわないことを禁止しています。
具体的には、親事業者は物品などを受領した日(役務提供の場合は、役務が提供された日)から起算して、60日以内に定めた支払期日までに、下請代金を支払わなければならず、支払いをしない場合は下請法に違反することになります(この60日には受領日も算入します)。

⑵ この点を、分析して述べると次のようになります。

① 親事業者と下請事業者の間で、受領日から60日以内に下請代金の支払日が定められている場合は、その支払い日までに支払いをしなければならない。
※ 60日を超えていなくても、支払日を超えた場合は下請法に違反します。

② 受領日から60日を超えて支払日が定められている場合は、60日までに支払いをしなければならない。
※ 支払日に達していなくても、60日以内に支払いをしなければ下請法に違反します。

③ 支払日が定められていない場合は、物品の受領日が支払日になり、受領日に支払いをしなければならない。

⑶ 遅延利息の発生

親事業者が支払いをしない場合、支払日以降、下請事業者に対して、次のような遅延利息を支払わなければなりません。

ア 上記の①③の場合

支払日以降60日までは、契約で決めた遅延利息、契約で定めがないときは法律で決められた遅延利息を支払う。60日を超えたときは、年14.6%の割合による遅延利息を支払う。

イ 上記②の場合

60日を超えた後、年14.6%の遅延損害金を支払う。

2 よく問題になる事例

⑴ 月末締めの翌月末払いとなっている場合

契約書にこのような定めがある場合、例えば、親事業者が4月1日に物品を受領し、4月末に締め、5月31日に支払いをした場合、60日の計算には4月1日も入りますから、61日目に支払いをしたことになり、下請法に反するようにも見えます。

ただ、このようになると、よく使われている月末締めの翌月末払いの約定の中に下請法に反するものが出てきてしまうので、実務上、「受領後60日以内」の規定は「受領後2ヶ月以内」として運用されており、上記のような場合でも下請法に反しないことになっています。

ただし、受領後2ヶ月以内ですので、月末締めの翌々月末払いとしてしまうと、4月1日に物品を受領し、4月末に締め、6月30日に支払いをした場合、2ヶ月を過ぎていますから、下請法に反することになります。

⑵ 下請事業者からの請求により支払うこととなっている場合

親事業者と下請事業者との契約書で、下請事業は親事業者に対し、月末に締めた後、翌月10日までに請求書を出し、親事業者は請求書を精査の上、当月末までに支払うなどと、下請事業者の請求書を待って支払う旨が定められていることがあります。

このような場合、仮に下請事業者からの請求書の作成、提出が遅れたときでも、親事業者は、上記の例で言えば、当月末の支払いを遅らせることはできず、月末に支払わなければ支払い遅延として下請法に違反することになります。

したがって、親事業者としては、下請事業者が請求書を集計し、親事業者に提出するのに十分な期間を確保し(そのような期間を契約書に記載することになります)、また、下請事業者からの請求書の提出が遅れたときは、速やかに請求書を提出するよう督促することが望ましいとされています。

⑶ 検査に合格した日をもって引渡しがあったとみなす場合

売買基本契約書などで、5日とか10日とかの検査期間を設け、物品を受領後、検査に合格したときをもって引渡しがあったものとみなすと規定されていることが非常に多いと思います。
この場合でも、60日の期間は、親事業者が下請事業者から物品を受領した日から数えるのであり、検査に合格し、引渡しがあったとみなされたときから数えるのではありません。

⑷ 下請代金の支払いを手形でする場合

下請代金の支払いを手形ですることとしている場合、親事業者は下請事業者に対し、支払期日までに手形で支払いをすれば問題ありません。
このように手形による支払いが認められているのは、手形の割引をすることによって、すぐに現金化することができるからです。
※ なお、支払い遅延とは別の話になりますが、下請法4条2項2号では、一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を下請事業者に交付することは禁止されています。割引困難な手形とは、ほぼ妥当と認められる手形サイトを超えた長期の手形とされ、運用上、繊維業の場合は90日、その他の業種の場合は120日となっています。
また、この期間内の手形であっても、下請事業者が手形の割引を受けることができなかった場合は、下請代金の支払いがあったとは言えず、支払い遅延に該当するとされている。

ところで、受領日から50日後の支払日に、手形サイト90日の手形で支払いをしていた親事業者が、手形での支払いを廃止することとし、受領日から90日後に現金で支払う方法に変更した場合、この変更は下請法に反することになります。

なぜなら、最長でも受領日から60日以内に支払いをしなければならないという下請法の規制に反しているからです。受領日から50日後の支払日に、手形サイト90日の手形をもらうより早いようにも見えますが、手形の場合は、もらった時点で割引ができますから、50日後に手形をもらう方が、下請事業者は早く現金を手にすることができます。

⑸ やり直しをさせた場合の支払期日の起算日

下請事業者が納品した物品に契約不適合など、下請事業者の責に帰すべき理由があり、受領した物品のやり直しをしてもらった場合、60日の起算日は、やり直しをした物品を受領した日になります。なお、もちろん下請事業者の責に帰すべき事情がない場合は、物品のやり直しをしてもらうことはできず、このような場合に物品のやり直しを要求した場合は、下請法4条2項4号の不当なやり直しの禁止に反することになります。

⑹ 金融機関の休業日

毎月の特定日に金融機関を利用して下請代金を支払うとしている場合(例えば、月末に支払うとしている場合)、この日が金融機関の休業日にあたるときは、支払いが休業日の翌営業日になり、支払遅延ということになってしまいます。これに対しては、次の例外が設けられています。

① 休業日後の支払いが、受領から60日を超えてしまう場合

次の2つの条件を満たせば、支払い遅延にはなりません。
ア 支払日が、土曜日、日曜日にあたるなど、順延する日が2日以内である。
イ 親事業者と下請事業者との間で、支払いを休業日の翌営業日に順延することについて、あらかじめ合意し書面化されている。

② 休業日後の支払いが、受領から60日(2ヶ月)以内の場合

次の条件を満たせば、支払い遅延になりません。
ア 親事業者と下請事業者との間で、支払いを休業日の翌営業日にすることについて、あらかじめ合意し書面化されている。
※ この場合は、順延する日が2日を超えても問題にはなりません。

⑺ 情報成果物の場合の支払期日の起算日

情報成果物の作成を委託した場合、親事業者が、下請事業者が作成している情報成果物の内容を確認するなどのために、注文品を一時的に、親事業者の支配下に置くことがあります。

この場合、次の2つの条件を満たす場合は、②の一定の水準を満たすことを確認した時点を受領日とし、親事業者の支配下に置いた時点を受領日としないことができます。つまり、60日の期間も、一定の水準を満たすことを確認した日から進行することになります。

① 注文品が委託内容の水準に達しているか明らかではない。
② あらかじめ親事業者と下請事業者の間で、親事業者の支配下に置いた注文品の内容が、一定の水準を満たしていることを確認した時点で受領することを合意している。

⑻ 下請取引に商社が入る場合

商社が、製造の委託者、受託者の間に入って取引を行うが、製品の仕様、数量、価格、納期など製造委託の内容には関与せず、事務手続きの代行(書面の取次、下請代金の請求、支払ないなど)を行っているにすぎない場合、商社は、下請法上の親事業者、下請事業者にはならず、委託者が親事業者、受託者が下請事業者になるとされています。

したがって、商社と下請事業者との間で決められた支払日までに下請代金が支払われない場合、委託者である親事業者が支払い遅延をしたことになり、下請法に違反することになります。

そのため、商社を経由して下請代金を支払うことになる場合は、あらかじめ商社から下請事業者に対して、いつ下請代金が支払われるのかを確認し、支払期日までに下請事業者に下請代金が支払われるよう、商社との間で事前に取り決めを行っておく必要があるとされています。

3 支払遅延の禁止に反した場合の下請法の制裁

支払い遅延に限らず、受領拒否の禁止、下請代金の減額の禁止、返品の禁止など下請法の他の禁止に反した場合でも同様ですが、次のような制裁があります。

① 報告・立ち入り検査

公正取引委員会、中小企業庁などが、親事業者、下請事業者に対し、下請取引に関する報告を求め、立ち入り検査をすることができます。

② 勧告など

下請法に違反した親事業者に対し、違反行為の是正、その他必要な措置を取ることを勧告することができ、勧告した場合は、事業者名、違反事実の概要、勧告の概要などを公表することができます。
親事業者が勧告に従わない場合は、独占禁止法にもとづく排除措置命令や課徴金納付命令を行うことができます。

③ 罰則

次の場合、法人に加えて、代表者・担当者個人も、50万円以下の罰金が科されます。
ア 発注書面を交付しない。
イ 取引記録に関する書類を作成しない、あるいは保存しない。
ウ 報告を求められたのに、報告をしない、あるいは虚偽の報告をする。
エ 公正取引委員会や中小企業庁の立入検査を拒否、妨害する。

ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
弁護士のプロフィールはこちら