一定の規模以上のM&Aの場合、公正取引委員会に対する「企業結合届出」が必要になります。今回は、企業結合届出が必要な場合、届出書の記載事項、必要書類、公正取引委員会との事前相談、正式な届出書の提出、クロージング禁止期間などについて述べてみました。

1 はじめに

企業がM&Aを行う場合、一定の要件を満たす取引については、独占禁止法に基づき、あらかじめ公正取引委員会に「企業結合届出」を行う必要があり、同委員会から「排除措置命令を行わない旨の通知」を取得する必要があります。

企業結合届出は、大規模な企業同士の統合によって市場の競争が損なわれることを防止するための制度です。M&Aのスケジュールにも直接影響するため、案件の初期段階から届出の要否を確認しておくことが重要です。

2 企業結合規制とは

独占禁止法では、株式取得、合併、会社分割、共同株式移転、事業譲受けなどによって企業が結合し、その結果、一定の取引分野における競争が実質的に制限されることとなる場合、その企業結合を規制しています。ただし、すべてのM&Aについて企業結合届出が必要なわけではありません。一定規模以上の取引について届出義務を課し、公正取引委員会が事前に審査する仕組みになっています。

代表的なのが株式取得です。株式を取得する会社が属する企業グループの国内売上高合計額が200億円を超え、対象会社とその子会社の国内売上高合計額が50億円を超える場合で、株式取得後の企業グループ全体の議決権保有割合が新たに20%または50%を超えるときには、原則として事前届出が必要です。

事業譲受けについては、譲受会社側の国内売上高合計額が200億円を超え、譲り受ける事業の国内売上高が30億円を超える場合などが届出対象となります。

このように、M&Aのスキーム、企業グループの範囲、国内売上高、取得する議決権の割合などを確認して、届出要件に該当するかを判断する必要があります。

3 届出書には何を記載するのか

届出が必要な場合には、公正取引委員会所定の様式に従って企業結合届出を作成します。公正取引委員会はインターネット上で詳しい記載要領を公表しています。

届出書には、当事会社の名称、所在地、設立年月日、資本金、事業内容、国内売上高などの基本情報のほか、M&Aの目的、取引の内容、実行予定時期、当事会社間の資本関係や取引関係などを記載します。

とくに重要なのが、当事会社の事業がどの程度競合しているかという情報です。同一または類似の商品・サービスを取り扱っている場合には、その商品・サービスの内容、販売地域、売上高、市場シェア、主要な競争事業者などを確認する必要があります。公正取引委員会はこれらの情報をもとに、M&Aによって競争事業者が減少し、価格の上昇や取引条件の悪化などが生じる恐れがないかを審査します。

4 どのような資料を準備するのか

届出書の作成と並行して、法令上必要となる添付書類を準備します。必要書類は株式取得、合併、事業譲受けなどの取引類型によって異なります。

例えば株式取得では、株式取得に関する契約書、届出会社の直近事業年度の事業報告、貸借対照表、損益計算書、有価証券報告書などが基本的な資料となります。また、案件によっては株主や議決権の状況を確認する資料なども必要になります。

さらに、法定の添付書類とは別に、公正取引委員会から競争状況について説明を求められる可能性があります。例えば、当事会社の事業内容、商品別の売上高、市場シェア、競合会社、主要顧客、仕入先、流通経路などです。

5 届出からM&A実行までの流れ

一般的には正式な企業結合届出の前に公正取引委員会に相談し、その相談の中で、届出書、必要書類を揃えていきます。そして、ほぼすべてが揃った段階で正式な企業結合届出を行います。なお、正式な企業結合届出を行うのは、M&Aについて譲渡契約が終わった直後になります。ちなみに、公正取引委員会との相談、正式な届出はすべてメールのやり取りで行われるのが一般的です。

正式な届出が受理された後、原則として30日を経過するまで、M&Aについてクロージングを実行することはできません。この期間を「禁止期間」といっています。届出会社が「禁止期間短縮の申出」をすることにより、30日の期間が短縮されることがありますので、多くの場合、企業結合届出を同時に、「禁止期間短縮の申出」も行っています。

公正取引委員会がこの期間内に審査し、独占禁止法上の問題がないと判断すれば、クロージングを実行することができます。一方、さらに詳しい審査が必要と判断された場合には、当事会社に対して追加の報告や資料の提出が求められ、第2次審査に進むことがあります。

6 企業結合届出で注意すべき点

企業結合届出でとくに注意したいのは、M&Aの譲渡契約締結直後に、正式な企業結合届出ができるように段取りしておくことです。企業結合届出の受理後、原則30日間の禁止期間がありますし、また不完全な企業結合届を提出すると、そもそも受理されないということになり、想定していたクロージング日に取引を実行できなくなる恐れがあります。

なお、M&Aでは、日本だけでなく外国の競争法に基づく届出が必要となることもあります。各国で届出基準や審査期間が異なるため、クロスボーダーM&Aでは早い段階から各国の届出の要否を確認する必要があります。

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この記事を書いた弁護士:代表弁護士 森田 茂夫

M&A

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会会員。早稲田大学法学部卒業。
買手企業、売手企業からの依頼に応じて、M&A仲介業者との仲介契約書、買手企業と売手企業間の基本合意書、株式譲渡契約書などの契約書レビューを行うとともに、契約書、人事労務関係、株式などについてのデューデリジェンスを行っている。迅速かつ正確な対応には定評がある。