
「ゴミではなく資源(有価物)だ」という主張は通用するのでしょうか。廃棄物処理法における「廃棄物」と「有価物」の境界線を、最高裁の重要判例「おから事件」を交えて解説します。
はじめに~リサイクル・SDGsの陰に潜む「廃棄物性」の落とし穴

持続可能な社会を目指す「SDGs」や「循環型社会」への関心が急速に高まる現代において、企業活動から生じる副産物や端材、使用済み製品を「単なるゴミとして捨てるのではなく、資源(有価物)として有効活用・再利用しよう」という取り組みが盛んに行われています。
経営者や実務担当者の皆様にとっても、「これは廃棄物(ゴミ)ではなく、価値のある『有価物』や『リサイクル原料』なのだから、廃棄物処理法の厳しい規制は受けないはずだ」「廃棄物処理業者としての許可を持っていない相手であっても、売買や無償譲渡の形であれば問題なく引き渡せるだろう」と考えるケースは少なくないでしょう。
しかし、ここに非常に恐ろしい罠が潜んでいます。
実務においては、当事者がどれほど「これは価値ある資源だ」と主張していても、行政機関(自治体・保健所)や警察・裁判所から「それは法律上、立派な『廃棄物』である」と判断され、知らず知らずのうちに「無許可業者への処理委託」や「不法投棄」などの重大な違法行為(廃棄物処理法違反)に問われてしまう事例が後を絶ちません。
本コラムでは、企業が最も間違えやすい「廃棄物」と「有価物」の境界線について、廃棄物処理法(以下「廃掃法」)の基本原則と、最高裁判所の歴史的なリーディングケースである「おから事件」の生々しい実態・判断基準を交えながら、3000文字を超える詳細な解説をお届けします。自社のリスク管理・コンプライアンス体制の点検に、ぜひお役立てください。
廃棄物処理法違反に科される極めて重い刑罰と「3億円」の両罰規定

なぜ、自社が取り扱う物が「廃棄物」に当たるかどうかを慎重に見極めなければならないのでしょうか。その最大理由は、廃掃法違反に科されるペナルティが、日本のあらゆる経済法規の中でもトップクラスに厳しいからです。
個人に対する罰則
廃掃法第16条では、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定され、不法投棄が厳しく禁止されています。また、知事の許可を受けずに廃棄物の収集・運搬や処分を業として行う「無許可営業」(同法第14条1項・6項違反)も固く禁じられています。
これらに違反した個人には、「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、またはその双方(併科)」という非常に重い刑事罰が科されます(廃掃法第25条第1項第14号等)。
法人に対する「3億円」の両罰規定
さらに、企業の代表者や役員、従業員が業務に関して不法投棄などの違法行為を行った場合、行為者個人だけでなく、その会社(法人)自体にも最大「3億円以下の罰金刑」が科されるという強烈な両罰規定が存在します(廃掃法第32条第1項第1号)。
ひとたび警察の捜査が入り、刑事告発・起訴されれば、数千万円から数億円の罰金が科されるだけでなく、「環境犯罪を起こした企業」としてニュースや新聞で大きく報道され、企業の社会的信用は一瞬にして失墜します。主要取引先からの取引停止や金融機関からの融資引き揚げなど、倒産に直結する破滅的なダメージを受けることになるのです。
「自己処理責任」という大原則
廃掃法第11条第1項は「事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない」、同法第3条第1項は「事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」と定めています。
自ら処理できない場合は、都道府県知事の許可を受けた正規の処理業者に適正な対価を払って委託しなければなりません。この原則を「有価物取引」という名目で潜脱しようとする行為は、同法違反として厳しく取締りの対象となるのです。
法律上の「廃棄物」とは何か?「不要物」を巡る解釈の難しさ

では、法律上「廃棄物」とはどのように定義されているのでしょうか。
廃掃法第2条第1項には、次のように規定されています。
「この法律において『廃棄物』とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。」
この文章の中で、法律上の核心となるキーワードが「不要物」という概念です。
条文上に列挙されている「ごみ」や「汚泥」といった分かりやすい物だけでなく、企業が排出した物が「不要物」に該当するかどうかによって、それが廃掃法の適用を受ける「廃棄物」となるのか、それとも自由に取引できる「有価物(商品・資材)」となるのかが決定づけられます。
ここで大きな問題となるのが、「誰にとって不要なのか」「不要かどうかは誰がどうやって決めるのか」という基準です。
排出事業者自身が「我が社としては、将来リサイクルして使うつもりだから不要物ではない」「相手企業に買ってもらう約束だから有価物だ」と主張すれば、それだけで廃棄物ではなくなるのでしょうか。
この問いに対して明確な答えを示し、現在の実務と裁判の絶対的な基準となっているのが、次に解説する最高裁判所の最高判例です。
廃棄物性の境界線を定めた金字塔~最高裁判所「おから事件」の全貌

企業が「有価物・リサイクル資源」を主張して裁判で争った最高裁のリーディングケースが、いわゆる「おから事件(最決平成11年3月10日/広島高裁岡山支部平成8年12月16日判決)」です。
事件の事実経過と構造
この事件の被告人となったのは、ある肥料・飼料の製造販売会社(およびその経営者)でした。
豆腐を製造する過程では、大量の大豆の搾りかすである「おから(豆腐かす)」が発生します。おからは水分を多く含み非常に腐敗しやすい性質を持っています。
被告人会社は、地元の豆腐製造業者3社から、1トンあたり一定の「処理料金(運搬費・処理費など)」を受け取った上で、毎日排出される大量のおからを引き取り(譲り受け)、自社の工場へ運搬していました。
そして、そのおからを工場の大型乾燥機で加熱・乾燥させ、肥料や飼料として加工して販売しようと試みていたのです。
しかし、被告人会社は廃掃法に基づく「産業廃棄物処理業(収集運搬業・処分業)」の許可を取得していませんでした。
検察および警察は、「被告人会社が行った行為は、無許可で産業廃棄物の収集・運搬・処分を業として行った廃掃法違反(無許可営業罪)である」として起訴しました。
会社側の必死の反論~5つの主張
裁判において、被告人会社側は「自分たちの行為は違法な無許可処理ではない」として、主に以下の5つの理由を挙げて徹底的に無罪を主張しました。
おからは「不要物」ではなく有益な資源である
おからは「食品」であり、食用や飼料・肥料として広く利用されている社会的に有用な物質である。したがって廃掃法上の「不要物(廃棄物)」には当たらない。
「専ら物」の除外規定が適用される
仮におからが産業廃棄物だとしても、飼料や肥料として大半が再生利用される性質を持つため、廃掃法第14条1項・4項(現行6項)ただし書に定める「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物(いわゆる専ら物)」を扱う者に該当し、知事の許可は不要である。
行政の指定業者に該当する
自治体(岡山県知事)の規則等において、「再生利用が確実であると認められた者」として指定された者に該当するため、許可が免除される。
違法性の認識(犯意)がない
国民の責務としてリサイクルを行うため多額の資金を投じて工場を建設し、関係者からも「許可は不要だ」と指導されていたため、犯罪の故意がない。
正当な業務行為であり違法性が阻却される
再生資源利用促進法や廃掃法自体が「再生利用の推進」を国民の責務と定めており、おからのリサイクルは法に合致した正当な業務である。
裁判所の冷徹な眼光~「有価物」を装った「無許可処理ビジネス」の露呈
一見すると、会社側の主張は「リサイクルを促進し、環境に貢献しているのだから何が悪いのか」という筋が通っているようにも見えます。
しかし、裁判所(高等裁判所および最高裁判所)は、事件の裏にある生々しい客観的実態を細かく紐解き、会社側の反論をことごとく撃破しました。
裁判所が解明した実態は、以下のようなものでした。
おからの客観的性状と取引の実態
おからは非常に傷みやすく、夏場であればわずか2日程度で強烈な腐臭を発します。そのため豆腐製造業者にとっては喉から手が出るほど早く処分したい物でした。昔のように牧畜業者へ無償で譲り渡すルートは激減しており、特に大量生産を行う大きな豆腐工場では、多額の処理費用を支払って廃棄物処理業者に捨ててもらうしかないのが実情でした。つまり、排出段階において「お金を払ってでも引き取ってもらうしかない、経済的価値のない物」だったのです。
工場内での無惨な現実と実質的な処理能力の欠如
被告人会社は「乾燥させて肥料・飼料にする」と主張していましたが、実際の工場の乾燥機械は性能が悪く、従業員の技術も未熟でした。出来上がった「乾燥おから」は品質に大きな問題があり、肥料として必要な発酵処理もされていませんでした。成分すら不明なため、肥料業者や飼料業者に買い取ってもらうことなどできず、販売ルートも全く確立されていませんでした。
結果として、工場内には処理しきれないおからが山積みになって腐敗し、近隣住民から強烈な悪臭に対する苦情が殺到する事態に陥っていたのです。
実質的な金の流れ(対価性)
会社側は「おからを購入して原料にしている」ようなポーズを取っていましたが、実際には豆腐製造業者から「1トンあたり数千円」の処理料金を受け取っていました。
つまり、実態は「お金をもらってゴミを引き取り、まともな製品に加工することもできずに工場内に放置して悪臭をまき散らしていた」という、典型的な無許可の廃棄物処分ビジネスに過ぎなかったのです。
最高裁が示した「不要物(廃棄物)」の5つの総合判断要素(総合勘案説)

この「おから事件」において、最高裁判所(最決平成11年3月10日)は、全国の事業者や行政機関が判断の指針とすべき、歴史的な基準を提示しました。
最高裁は、「不要物(=廃棄物)」に該当するかどうかの判断について、次のように判示しました。
「不要物とは、自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である。」
これがいわゆる「総合勘案説(総合判断説)」と呼ばれるものであり、現在も実務において廃棄物性を判断する際の唯一絶対のルールとなっています。
最高裁が挙げた「5つの判断要素」を具体的にブレイクダウンすると、以下のようになります。
その物の性状(品質・状態)
腐敗しやすいか、飛散・流出しやすいか、危険性があるか、品質が均一で商品価値があるか。
排出の状況
事業活動に伴って計画的・継続的に排出されているか、放置されれば生活環境の保全に支障をきたすか。
通常の取扱い形態
社会通念上、商品や原材料として市場で売買・流通しているものか、それとも廃棄物として処分されているのが一般的か。
取引価値の有無(最も重要な要素の一つ)
その物を譲渡するにあたって、「お金(対価)をもらえるか(有償譲渡)」、それとも「お金を払って引き取ってもらっているか(逆償・処理費支払い)」。運賃や名目を問わず、実質的に排出側がお金を負担していれば「取引価値なし(不要物)」と強力に推定されます。
事業者の意思
排出事業者が自ら利用したり他人に売却しようとしている客観的な意思があるか。ただし、これは単なる主観的な「思い込み」ではなく、上記の1〜4の客観的事実から客観的に推認される意思でなければなりません。
なぜ「専ら再生利用(専ら物)」の主張も認められなかったのか?
会社側は「おからはリサイクル目的の『専ら物』だから許可不要だ」とも主張していました。
廃掃法上、古紙、くず鉄、空き瓶、古布の「いわゆる専ら4品目」のように、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物を取り扱う業者は、許可が免除される規定(専ら物除外規定)が存在します。
しかし、高等裁判所はこの点についても明確に線引きを行いました。
「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」と言えるためには、単に技術的にリサイクルが可能であるというだけでは足りず、「排出、収集、保管、管理、加工、利用の全過程が、技術的かつ経済的に有益な取引過程として、社会において形成・普及していること(社会通念に従って判断)」が必要不可欠であると判示しました。
おからの場合、当時は大量処理・流通させるための経済的システムや市場が確立されておらず、「専ら物」としての法的除外要件を満たさないと結論付けられたのです。
現代企業が陥りやすい「有価物装い」の危険なパターンと実務対策

おから事件は平成の判例ですが、現代のビジネスシーンにおいても、まったく同じ構造のトラブルが頻発しています。特に以下のようなケースは、自治体の立ち入り調査や警察の摘発を受けやすいため、企業として厳重な注意が必要です。
危険なパターン1:逆サヤ・運搬費名目での費用負担(いわゆる逆償)
「製品自体は1トン100円で売却している(有価物主張)」としながらも、買い取り側(運送側)に対して「運賃」や「保管料」「小分け手数料」などの名目で1トンあたり5000円を支払っているケース。
実質的に差し引き「排出側がお金を支払っている(マイナス収支)」場合、行政や裁判所は「売買を装った処理費の支払いに過ぎない」とみなします。
危険なパターン2:処理能力のない「リサイクル業者」への引き渡し
「無償でいいから引き取ってリサイクル資材にする」という業者に、木くずやプラスチック屑、瓦礫などを大量に引き渡したところ、その業者がリサイクルできずに敷地内に山積み・放置し、倒産・ドロンしてしまったケース。
この場合、排出事業者責任が問われ、放置された廃棄物の撤去費用を命じられる(撤去命ぜられる)リスクが発生します。
企業が取るべき実務上のコンプライアンス対策
自社から排出される物や、自社が引き取る物が「廃棄物」に当たるか判断に迷った場合は、以下のステップを実行してください。
「実質的なお金の流れ」を厳格に確認する
名目が「売買」であっても、運賃や諸経費を含めたトータルの収支がマイナス(お金を出す側)になっていないかをチェックします。
客観的な5要素(総合勘案説)でセルフチェックを行う
自社の主観だけでなく、「他社に有償で買ってもらえる品質か」「市場で流通しているか」を客観的な証拠とともに確認します。
迷った時は「安全側(廃棄物)」に倒した運用をする
「有価物かもしれない」という曖昧な判断で無許可業者に引き渡すリスクはあまりにも巨大です。疑わしい場合は、最初から廃掃法に基づき「産業廃棄物」として正規の許可業者にマニフェストを発行して委託するのが、最も賢明なリスク管理です。
おわりに

廃棄物処理法は、環境保護の要請や悪質業者の排除のため、法改正が頻繁に行われ、裁判例や行政の運用も非常に複雑・厳格です。自社で「有価物だから大丈夫」と判断していたビジネスモデルが、ある日突然、刑事事件や行政処分の対象となり、最大3億円の罰金や事業停止に追い込まれるリスクは、すべての企業にとって他人事ではありません。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 平栗丈嗣
廃棄物処理法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和2年登録。化学品メーカーでの勤務経験を有し、環境法関連業務や廃棄物対応の実務に直接携わってきた実績を持つ。甲種危険物取扱者の資格も保持し、化学物質や産業廃棄物に関する専門的知見に明るい。現場の運用フローや企業の内部事情を熟知している強みを最大限に活かし、法令遵守と現場実務のバランスを取った実践的な解決策の提案に注力している。






