職場にデジタルデバイスが存在する以上、業務用パソコンを私的利用したり、就業時間中に私物のスマートフォンを操作したりといった問題が生じる可能性があります。この記事では、企業はどう対応するべきか、懲戒処分はできるのか等について検討します。

職場におけるデジタルデバイスの利用には様々な問題があり得る

現代では、デスクワークにデジタルデバイスは必要不可欠ともなっています。

社員ひとりひとりに業務用パソコンや仕事用スマートフォンが貸与されるということも幅広く行われていますよね。

また、多くの人が私的にスマートフォンを持っているということもあり、例えばタイムカードや入退室のセキュリティの操作に私用のスマートフォンを利用するということもあります。

お客様の立場で言えば、飲食店の店内利用で、座席に充電用のコンセントが用意されていたり、店舗が用意したデバイスではなく、お客様のスマートフォンから注文を受けるということもしばしばあったりして、「デジタルデバイスを持参・携帯している」ということがより一般的になっています。

そうすると、社内でのデジタルデバイスの利用、とりわけ「貸与したパソコンを私的に利用している」という場面や、「就業時間中に私用スマートフォンを操作している」というような場面が、問題として出てくることがあります。

こういった問題に対して、企業側・会社経営者としてはどのように考えていけば良いでしょうか。以下検討したいと思います。

⑴ 「業務用の貸与パソコンを私的に利用していること」の問題点

デスクワークの職種の場合、会社から業務用のパソコンを貸与されているということも珍しくありません(というより、セキュリティの観点から、貸与PCであることが一般的とも思います。)。

貸与の場合、当該パソコンは会社の備品ないし設備であり、会社がその利用についてルールを定めることができます。

もちろん、事前にセキュリティソフトのインストールや各種セキュリティ設定を施して、完全に自由に使える状態ではなくしているということも多いかと思います。例えば、インターネットの閲覧制限、アプリのダウンロード制限などは、広く行われているのではないでしょうか。

しかしながら、パソコンの私的利用自体を、完全に妨げることは難しいと思います。

例えば、メールを送る機能があれば、社内の人や社外の人と私的にメッセージのやりとりをすることが可能ですし、インターネットの閲覧も(スタンドアローンの場合は別ですが)何か調べものが必要な職種であれば、完全にコントロールできているということはなかなか無いように思います。

そうすると、パソコンの私的利用自体は「やろうと思えばできてしまう」という状況ということがかなり多いのではないでしょうか。

しかし、お判りのとおり、「できてしまう」ことと「やっていい」かどうかは別問題です。

ここで、会社としてのスタンスを明確にする必要が出てきます。

会社の取り得るスタンスとしては、ざっくりと以下の3つに分けられると思われます。

①貸与パソコンの私的利用は「特に制限しない」
②貸与パソコンの私的利用は「ある程度は認める」
③貸与パソコンの私的利用は「一切認めない」

上記①②の場合は、会社側としてはリスクに備える必要があります。

すなわち、セキュリティ対策を万全にしておいて、ユーザー(従業員)が私的に利用した場合にも情報漏洩(特に個人情報や業務上の機密情報の漏洩)などのトラブルが起こらないようにしておく必要があります。

一方、利用制限をする場合(特に上記③)については、明確な定めと運用が必要となります。

就業規則等によってパソコンの私的利用を禁止する規程を定めた上で、単に決まり事を作るだけではなく、それを周知・徹底させることが必要です。

なし崩し的に許容している例があると、例えば懲戒処分を行いたいと考えた場合に、平等取扱いの原則に反するとして懲戒処分が許されないということになりかねません(懲戒処分をする際の問題点については⑶で後述します。)。

就業規則等に定めがなく、例えば私的な電話等も業務に支障のない限りで許容ないし黙認されているという場合には、パソコンの私的利用についても、同様に許容されていると考えられる可能性が高いでしょう。

そのため、私的利用を制限したい場合には、明確な定めと運用が必要ということになるのです。

⑵ 「就業時間中に私用スマートフォンを操作していたり、パソコンを私的利用していたりすること」の問題点

今度は視点を変えて、就業時間中にデジタルデバイスを使用して「私用」「私的な事」をしていた場合の問題点を考えてみたいと思います。

ちなみに、上記⑴の貸与PCを就業時間「外」に私的利用していた場合は⑴の問題のみですが、就業時間「内」に私的利用していた場合は、この⑵の問題点も同時に出てくるということになります。

一般的に、就業時間中は仕事に専念しなければならないと考えられていると思います。

法律的な観点から言えば、労働契約法上では、労働者は、労働契約を遵守して、その職務を誠実に履行しなければならないとされています(労働契約法第3条4項)。つまり、仕事中(契約上の労働時間中)は仕事(契約上の義務)をしなければならないということですね。

これはとても当たり前のことのようですが、問題は、どの程度「専念」「誠実に履行」しなくてはならないのか、というところです。

極端な例ですが、「就業時間中はトイレ休憩も全く認めない」というような状態で勤務をさせることは公序良俗に反し許されないと思われます。

一方で、同僚と顔を合わせた際の簡単な雑談、お茶などの水分補給、家族や子どもの預け先からの電話対応などは、私的な行動とはいえ制限しにくい性質のものだとも考えられます。

だからといって、労働基準法上の「休憩時間」のほかに、○○休憩を無制限に認めるないし黙認するわけにはいきませんよね。

昔の判例(最判昭和52年12月13日等)では、ざっくりと言うと、この職務専念義務について、業務に支障が無ければ良いということではなくて、就業時間中は業務以外の行為はしてはいけない、というように捉えています。

その上で、その会社ごとの就業規則等の規定や実際の運用から、職務専念義務に違反した場合の処分・人事権の行使の内容が適法か否かについて判断がなされています。

回りくどい言い方でしたが、つまり、就業時間中に仕事以外のことをしていれば、基本的にそれは(理屈の上では)職務専念義務違反ですが、その違反に対してどのような処分ができるのかはまた別問題、ということです(※就業時間中に貸与パソコンを使って、1日2通程度の私用メールを送受信していたケースについて、「職務専念義務に違反するものではない」とする裁判例もあります。東京地判平成15年9月22日)。

したがって、就業時間中に私用スマートフォンを操作していたり、パソコンを私的利用していたりした場合には、理屈としては職務専念義務違反には当たると思われますが、それに対してどのように対応するべきか(どのような対応ができるか)というのは、一律の話ではなく、その会社の個別具体的な事情に則って判断しなくてはならない難しい問題だということになります。

ちなみに、就業時間中の私的な行為については、就業規則中の他の規律違反(職務懈怠、職務規律違反など)に当たる可能性もありますので、そちらは別途処分の可否や軽重を検討する必要があります。

⑶貸与PCの私的利用や就業時間中の私的行為に対する処分や対応の問題点

さて、上記⑴⑵ともに、貸与パソコンの私的利用を禁止する規程への違反や、職務専念義務違反はあるということになりますが、これに対して「どのような処分が許されるか」という点について検討してみましょう。

まず、懲戒処分が許されるには①懲戒処分の内容が行為と比較して重過ぎないこと(懲戒処分の相当性)、②過去の会社の対応から考えて平等・公平であること(平等処遇) が必要です(外にも「二重処罰の禁止」のルールもありますが、この記事では省略します。)。

そもそも、懲戒事由(懲戒処分の対象となる行為)については、予め就業規則等で定めておくことが必要とされています。

そのため、例えば⑴であれば、貸与パソコンの私的利用を禁止し、その禁止に違反した場合には懲戒処分になる旨の就業規則等を定めておく必要があります。

その上で、上記①②の観点から懲戒処分の有効性が判断されることになります。

①の「懲戒処分の相当性」については、懲戒処分は、労働者の行為の性質及び態様、その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があること、及び社会通念上相当であることが求められています(労働契約法15条参照)。

つまり、例えば⑵の私用スマートフォンの就業時間内操作であれば、どれくらいの頻度・時間、私用スマートフォンを操作していたか、その理由・事情は何か、その結果どの程度の悪い影響があったか、今までの注意歴や指導歴、処分歴などを総合的に考慮して、処分の重さを決めることになります。

操作は短時間で、頻度もそれほど多くなく、情報漏洩なども無く、単にブラウジングしていただけで、業務上の支障も無いということであれば、いきなり懲戒解雇とすることは難しいように思います。

こういった場合には、上司や教育係から注意・指導を行い、それでも止めなければけん責処分(始末書など)を行うというところから始めるのが一般的ではないでしょうか。

また、②の平等処遇の原則も重要です。

今回のテーマである私的利用や就業時間内の私的行為の場合、社内での「黙認」がある場合が多々あります。

そういった状況のなか、特定の従業員だけを懲戒処分とすることは、平等な取り扱いではなく、違法無効とされるリスクが高いので注意が必要です。

また、これまでは許されていた(黙認されていた)のに、ある日突然、懲戒処分をされるようになったという場合も、過去の取扱いとの平等処遇原則違反となる可能性があります。

そういったリスクを回避するためには、普段から社内のルールについて周知・徹底をすることが重要ですし、何かしらの違反行為があった場合には、いきなり懲戒処分をするのではなく、注意・指導というところから始めるという方が一般的には良いように思います。

これから私的利用等を制限していきたいという場合には、ルール作りをした後、周知・徹底をするための準備期間・移行期間を設けるというやり方も良いでしょう。

従業員に対して懲戒処分をする場合の注意点については、過去のこちらの記事もご参照ください。

まとめ

いかがだったでしょうか。

情報漏洩や不適切なSNS投稿など、デジタルデバイスの好ましくない使い方によって企業が被る被害は、時にとても大きなものになる可能性があります。

一方で、社内におけるデジタルデバイスの利用はもはや避けて通れない事柄になってきていますが、就業規則等の会社の決まりごとはその変化に対応できていないことがあります。

そうすると、いざ規律を求めようとしても上手くいかないということにもなりかねません。

そのため、是非この記事をきっかけにして頂いて、貴社の就業規則等の見直しをしてみてはいかがでしょうか。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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