
定期借家契約の賃借人から、さらに建物を転借した転借人の地位、借地上の建物の賃貸、定期借地権の場合の増改築禁止特約の扱いについて、法的な考えを述べてみました。
1 はじめに
今回は、当事務所の顧問先から受けた定期借家権、事業用定期借地権についての質問をもとに、コラムを書いてみたいと思います。いずれにも、よく出てくることと思います。
2 定期借家契約をした賃借人から、さらに賃借(転借り)をした場合
⑴ 事案の概要

建物所有者甲から、乙がその建物を定期借家契約によって賃借し、次に、乙が普通借家契約によって丙に建物を賃貸しました。乙が丙に賃貸するについては、甲の承諾を得ています。
甲 乙 丙
定期借家契約 普通借家契約
(甲は承諾)
ところで、甲と乙の定期借家契約の期間が満了することから、乙は丙に対して、この満了時期に合わせて、乙と丙の普通借家契約を解約したいと申し入れました。乙と丙の普通借家契約は、また賃貸借期間の途中です。この乙の申し入れは認められるでしょうか。
⑵ 法律上の考え方

ア このような場合、甲乙の契約が期間満了になれば、定期借家契約であることにより、契約は確定的に終了します。その場合、甲は、乙に対してはもちろん、丙に対しても建物明け渡しを求めることができます。
丙が、乙との間に普通借家契約があると主張しても、甲との間の契約ではありませんから、甲に対して対抗する(明け渡しを拒否する)ことはできません。
このことは、丙が、甲乙の契約が定期借家契約であることを知っていても知らなくても同じです。
ただ、知っていれば、丙は乙に対して損害賠償請求をすることはできませんが、知らなければ、丙は乙に対して損害賠償請求をすることができます。
このような、知っていた、知らなかったというような争いを避けるために、乙丙の契約書には、「甲乙の契約は定期借家契約であり、甲乙の契約が終了した時は、乙丙間の契約も終了し、乙は丙に建物を明け渡さなければならない」というような記載がされるが普通です。
なお、上記は甲乙間の契約が期間満了により終了した場合です。甲乙間の契約が、甲乙の合意解約により終了した場合は、甲は丙に対して、建物明け渡しを求めることができないのが原則です。
イ 上記のアは、甲が丙に明け渡しを求めた場場合です。それでは、乙は丙に対して明け渡しを求めることができるでしょうか。
乙丙間の契約は普通借家契約ですから、乙丙の契約期間満了時に正当事由がなければ、乙は丙に明け渡しを求めることができません。今回の場合、甲乙間の定期借家契約が満了したのは、乙丙間の契約の期間中ですから、乙は丙に明け渡しを求めることはできないということになります。
なお、甲乙間の契約の満了時が、乙丙間の契約の満了時と同じであれば、甲乙間の契約が確定的に終了するのだから、乙の丙に対する普通借家契約の更新拒絶の申し入れには正当理由ありとして、乙の丙に対する明け渡し請求が認められる可能性が高いです。
ただ、乙の丙に対する明け渡し請求が認められないと言っても、甲の丙に対する明け渡し請求が認められるのですから、丙が乙に対し、明け渡しをしないとがんばっても意味はなく、明け渡しの条件を乙と詰め、乙丙の間で合意書など書面を作って明け渡しをするのが実際上は賢明なやり方と思います。
3 事業用定期借地権についての土地所有者のいくつか疑問
土地所有者が借地契約について疑問を持っている場合があります。
⑴ 借地上の建物の第三者への賃貸

(土地所有者の疑問)
事業用定期借地契約書に、「賃借人は、賃借土地上に建てた賃借人所有の建物を第三者に賃貸することができる」となっているが、賃借土地上の建物を第三者に賃貸することは原則禁止ではないのか。
(回答)
事業用定期借地権をほかに譲渡したり、あるいは転貸する場合は土地所有者の承諾が必要なですが、借地上の建物を賃貸する場合は、借地権の譲渡、転貸とはいえず、賃借人が自由に行うことができるとされています。これについては判例があり、また、確たる考えとなっています。
⑵ 建物の増改築

(土地所有者の疑問)
事業用定期借地契約書に、「賃貸人は賃借人に対し、賃借土地上の(賃借人の)建物につき、賃借人が増改築をすることをあらかじめ承諾するものとします」となっているが、増改築は禁止ではないのか、増改築をすることになった段階で、土地所有者の承諾を要することとしてほしい。
(回答)
借地上の建物増改築は、(借地権の譲渡、転貸とは違って)契約書に増改築禁止の特約がなければ、借地人は自由に行うことができます。ただ、契約書がない場合は別として(契約書がない場合、特約がないので増改築が自由にできます)、契約書がある場合は、多くの場合、増改築禁止の特約が書いてあります。
事業用定期借地権の場合も、この点は普通借地権の場合と同様です。ただ、事業用定期借地権の場合は、期間がくれば必ず土地が返ってくるということがあるので、多くの場合、増改築禁止特約を入れていません。今回の契約書の場合も、この点を考慮の上、「本件建物の増改築をすることをあらかじめ承諾するものとします」となっているものと思います。
したがって、承諾を要するとしてほしいというのは、事業用定期借地権であることからすると、通常の場合とは異なって過剰な要求かと思います。
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