
小売店の店舗の中で事故が起こり、小売店が責任追及されることがあります。そんな店舗内の事故についての判例を集め、事例の内容と裁判所の判断を示してみました。
一 はじめに
小売店の店舗の中で事故が起こり、小売店が責任追及されることがあります。今回は、そんな店舗内の事故についての判例を集めてみました。下線を引いた部分が注意をしておくとよいと考えた部分です。
二 店舗が責任を負うかの判断

店舗が責任を負うかどうかは、下記のア、イの点から判断することになります。
ア 工作物の占有者又は所有者は、およそ想像しうるあらゆる危険の発生を防止することまで想定して危険防止の設備をする必要はなく、工作物の構造、用途、場所的環境及び利用状況など諸般の事情を総合考慮したうえ、具体的に通常予想される危険の発生を防止するに足るもので必要かつ十分である。
イ 利用者の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故については占有者又は所有者としての責任を負うべき理由はない。
この判断を当てはめた結果が、店舗の責任ありとなるのかなしとなるのかは、具体的事情によっても違いますし、また裁判官によっても異なると思います。
三 具体的な裁判例
1 福岡地裁小倉支部・平成4年9月1日

(1) 事例
建物の3階にある美容室を訪れた客が、子供(2歳)を店内に設けられた育児室で遊ばせ、整髪終了後会計の際、店員と2~3分話をしている隙に、子供が、踊り場の手すりの隙間から落下転落して負傷した。
手すりの笠木の下には底辺約112センチないし116センチ、高さ約50ないし58センチの三角形の隙間が八箇所あった。
(2) 判断
① 責任
本件建物は、
ア 本件建物の三階部分は、女性を顧客とする美容室が入居することを前提に設計され、建築当初から、美容室内に子供連れの女性客が整髪してもらう間子供を遊ばせておくための育児室が設けられていた。
イ 本件美容室への通路にあたる本件踊り場は、母親等の保護者に連れられた幼児も通行することを予定した施設として、通常有すべき安全性が要求されることから、上記のような隙間がある本件手すりしか設置されていない本件踊り場は、設置又は保存につき瑕疵がある。
※ 踊り場は、子供の通行が予定されていることが重視されています。
② 過失相殺
被害者の母親には監視義務違反の過失があり、5割の過失がある。
2 東京地方裁判所・昭和57年12月27日

(1) 事例
保養所の1階にある食堂内にいた子供が、食堂のガラス戸を通して庭に父親が立っているのを認め、ガラス戸が開放されているものと信じてガラス戸に向かって走りより、そのまま激突して死亡した。
(2) 判断
① 責任
工作物の「瑕疵」とは、工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうが、工作物の占有者又は所有者は、およそ想像しうるあらゆる危険の発生を防止することまで想定して危険防止の設備をする必要はなく、工作物の構造、用途、場所的環境及び利用状況など諸般の事情を総合考慮したうえ、具体的に通常予想される危険の発生を防止するに足るもので必要かつ十分であると言うべきであり、利用者の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故については占有者又は所有者としての責任を負うべき理由はない。
※ この部分は、瑕疵があるかないかの一般的な判断基準といってよいと思います。
本件については、
ア 主として、本件保養所の利用客に本件食堂からの景観を楽しんでもらうために設置されたものであつて、人が頻繁に出入する建物部分に常時開閉されるものとして設置されたものではないこと、
イ その設置場所が食堂であることから、その近辺において児童や幼児が遊んだり、走り廻ったりするという事態も通常予測されるところではないこと、
ウ 本件事故は、保養所の利用客の例に反して父親が本件食堂からその南側部分に在る庭に降り立ったことを誘因とし、かつ、被害者が本件食堂内を勢良く本件ガラス戸に向つて走行したことを直接の原因とするもの、換言すれば、通常予測することができない要因が偶然に重なり合った結果起ったものであることから、本件事故当時、事故の発生を防止するために、ガラス戸等にテープを貼り付けるなどして、人にガラスの存在を察知させる措置を講じていなかつたとしても、ガラス戸等の設置又は保存に瑕疵があつたということはできないとした。
3 山形地裁酒田支部 ・昭和57年1月14日

(1) 事例
子供(10歳)が、友人とともに、デパートに設置された4階から5階へ通じる上りのエスカレーターに乗り、エスカレーターの進行方向に向って右側手すりのべルトから外側へ身体を乗り出したため、同べルトと4階天井にはさまれ死亡。
(2) 判断
① 責任
デパートのエスカレーターが建設省の許可に合致した安全対策(ガード板の設置)をとっていただけでは、エスカレーターに身を乗り出して乗つている子供が天井に首を挟まれ死亡するという事故の防止を十分に期待しうる機能を備えていたとはいえない。
エスカレーターの設置に当り、その手すりベルトと、これと交差する四階天井および五階床面の開口部断面との間に安全な間隔を置くか、あるいは、利用者の身体が四階天井等に触れるのを防止しうる防護設備を設置することが必要である。
本件では、これらの配慮を欠いている。
※ 上記の2の判例にあるように、「具体的に通常予想される危険の発生を防止するに足るもので必要かつ十分であり、利用者の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故については責任を負わない」という判断基準からすると、本件でデパートが責任を負うかは微妙ですが、本件の事故が通常予想されるかどうかがポイントになります。
② 過失相殺
被害者の過失割合8割
※ デパートの責任を認めたものの被害者の過失割合も大きなものとなっています。
被害者の年齢を考慮しても、エスカレーターにガードを設置するなど不十分ながらも一応の事故防止措置をとつていたこと、本件事故の態様などと対比すると、子供にも相当程度の過失がある。両親にも無断で友人の児童と共にデパートへ行ったことが認められる。両親の監護の状況、エスカレーターの正しい乗り方の平素の指導が必ずしも十分でなかつた。
4 東京地裁・昭和56年8月7日

(1) 事例
子供(当時5歳)が、買物のために両親と訪れたスーパーマーケットで、3階から2階に降りるエスカレーターに乗っていたところ、サンダルのボタンをとめようとして、前かがみになったところ、前に倒れ、左手をエスカレーターの左側の側板と踏段との間にはさみ込んで左手を負傷した。
(2) 判断
瑕疵なし。
本件エスカレーターは、建築基準法等が定める安全対策標準に合致している。踏段と側板のすき間から乗客の足等の接近の防止を図る措置がとられていた。エスカレーターの乗り方につき乗客に注意が喚起され、指導がなされていた。
5 東京地方裁判所・昭和57年12月24日

(1) 事例
子供(当時3歳)が母親・祖母と一緒にデパートを訪れ、2階から1階へ降りるエスカレーターに乗った時、左足が右側のスカートガードとステップのライザー部分のすき間に巻き込まれ負傷した。
(2) 判断
① 責任
瑕疵なし。
エスカレーターには、現行法令上その保安設備と安全確保について責められるべき点はない。
被害者の行動も通常の利用方法に従っているとは認められない。
ビニール長靴をはいて、エスカレーターに乗降することの危険性につき特に店内放送やステツカー掲示によりエスカレーター利用者に知らせることをしていなかつたことをもつて、通常有すべき安全性を保持するのに十分な危険防止、安全確保のための設備ないし管理上の配慮を払っていなかつたとは認められない。
6 大阪高等裁判所・平成13年7月31日判決

(1) 事例
コンビニエンスストア内で、22歳の女性が両手にパンと牛乳を持ってレジに向かう途中、床がモップでの水拭き後、乾拭きがされておらず濡れていたために、足を滑らし転倒し、その際に陳列棚の端で左腕の肘から上腕にかけて、一部筋組織に達する傷を受けた。
事故当時、店舗の水拭きにより床が濡れて滑りやすくなっていたが、目で見ただけでは分からず、手で触れて分かる程度の濡れ方であった。そのため、女性は床面の湿潤に気付かず通常の速度で歩いていたところ、不意に足を滑らせて転倒した。
(2) 判断
① 責任
店舗は、「不特定多数の者の通常有り得べき服装、履物、行動等、例えば靴底が減っていたり、急いで足早に買い物をするなどは当然の前提として、その安全を図る義務があるというべきである」。
店舗は、顧客に対する信義則に基づく安全管理上の義務として、水拭きをした後に乾拭きをするなど、床が滑らないような状態を保つ義務を負っていたのに、これを尽くしておらず不法行為責任を負う。
② 過失相殺
女性も、長期間の使用により靴底が減って滑りやすくなっていた靴を履いていたこと、パンと牛乳を持って両手がふさがっていた状態であったことなどを考慮し、5割の過失相殺をする。
7 名古屋地方裁判所岡崎支部・平成22年12月22日

(1) 事例
被告が経営するスーパーマーケットを顧客として訪れた原告が、店舗内の床の管理が不十分で、床が濡れていたために店舗内で転倒し傷害を負ったとして、被告に対し、①建物の管理について瑕疵があったとして民法717条に基づき、また②被告の従業員において、床を濡らしたままにしないよう水分を拭く等の注意義務があったのに従業員らがこれを怠ったものであるとして民法715条に基づき、治療費等の損害賠償を請求した。
(2) 判断
① 責任
本件店舗の床の材質(床材は「コーデラ」という材質)からすれば、本件店舗の床はそれ自体として特段危険性を有するものではなく、床に水濡れが生じたとしても直ちに危険となるものではない。
床の一部分についてのみ大きな水濡れが生じ、周辺と大きな滑り抵抗値の差が生じた場合には、一応転倒の原因ともなりうる状況にあったものというべきであるが、当日の開店前に若干の水分が転倒現場付近に残っていた可能性は必ずしも否定されないにせよ、大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段ないことなどからすれば、転倒当時の床の状況としては床の上に水が浮いているような状況であったとは考えられない。
したがって、元々本件店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではないこと、転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまり、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下していたり、床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められないこと、本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないことからすれば、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえない。よって、本件店舗の床の管理について瑕疵があったとは認められず、また被告従業員において床の管理に関する注意義務違反があったとも認められない。
8 札幌地裁・平成11年11月17日

(1) 事例
北海道に所在する大規模小売店の店外階段が、雪で凍っており、その階段を利用した顧客が転倒し負傷した。
(2) 判断
① 責任
本件建物に付属する本件階段についてみれば、野外の階段であって、雪が積もったり、氷が付着したりするから、被告らは、歩行者が足を滑らせないように安性を確保して管理すべき注意義務があったにもかかわらず、設置したロードヒーティングの温度管理を十分行わないまま、氷を付着させて原告に利用させた過失がある。
多数の顧客の出入りが予想される商業施設を提供・管理している場合に、歩行者に自己責任があるからといって、通常予想される態様で施設を利用する歩行者に対し、その安全性を確保した施設を提供するとともに安全性を確保できるように施設を管理すべき注意義務がある。
② 過失相殺
被害者側にも過失があるとし、5割の過失相殺をした。
9 名古屋高等裁判所・平成14年8月22日

(1) 事例
店舗来客者が、店舗敷地内の通路部分に設置された車両進入防止用の鉄パイプに足を取られて転倒するという事故により負傷する事故が発生した。被害者が店舗経営者に対し損害賠償を請求した事案である。
(2) 判断
① 責任
バリケード等の設置目的及び機能に照らすと、バリケードなどは土地に接着した店舗における営業設備の一部であるというべきであるから、民法717条1項にいう「土地の工作物」に該当する。
本件では、
ア そのバリケードに橋渡しされた鉄パイプにより本件事故が発生したものであるから、その設置には瑕疵が存するものと推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない。
イ 本件事故当時、バリケード等を設置していることについて、その存在を明らかにして入店しようとする顧客の注意を促すに足りる措置が執られていなかったことから、工作物に瑕疵があり、店舗経営者には工作物責任があるとした。
② 過失相殺
ただし、被害者も本件事故前からその店をよく利用していてバリケードの存在等につき知っていた可能性は高いこと、本件事故以外に、その前後を通じて同様の転倒事故はみられないことから、被害者にも過失があるとして、過失相殺を7割とした。
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