
近年、小規模介護事業者の倒産件数が増加しています。本稿では、利用者の生命・身体の安全を確保する責務を負い、行政と連携して社会福祉の一端を担っている介護事業の特殊性を踏まえ、介護事業者が破産手続を取る場合の注意点につき、弁護士が解説します。
増加する介護事業者の倒産

高齢化社会の到来で介護サービスを利用したい、介護施設に入所したいというニーズは高まっています。
しかしながら、
①人手不足(介護職は他業種に比べて賃金が低く、精神的にも体力的にもハードワークであるにもかかわらず、それに見合うだけの賃金が得られない等の理由で、離職率も高い傾向)
②収益確保の困難性(介護事業の収益は、国が定める介護報酬に左右される)
③物価高の影響(介護に必要な物品の他、入居・滞在型の施設では常時発生する光熱費の高騰が経営を圧迫しているが、その増加分を回収すべく利用料を値上げするわけにもいかない)
④大手事業者の事業参入(介護需要が増す中、他業種から介護事業に参入してくる大手事業者が増えており、介護業界における競争が激化)
などを要因として、介護事業者の倒産は増加の一途を辿っています。
東京商工リサーチの調査によると、2024年の介護事業者(訪問介護事業、通所・短期入所介護事業、有料老人ホーム、その他)の倒産件数は172件、2025年の介護事業者の倒産件数は176件で、2年連続で過去最多を更新しています。
中でも、訪問介護事業は2025年で91件と突出し、こちらは3年連続して過去最多の件数となっています。
規模別に見ると、圧倒的多数を占めているのは、資本金1,000万円未満、従業員10人未満、負債総額1億円未満の小規模・零細事業者です。
全国や広域に複数施設を展開しているような大手事業者と、地域密着型の小規模事業者との間で、明暗がはっきりと分かれている形です。
破産申立てを考えている介護事業者の方へ

昨今の高齢化社会において、介護事業は極めて重要で、社会的ニーズも高い事業です。
それは、一私企業の経営という側面だけでなく、行政とも連携したうえで、社会福祉の一端を担う存在という側面も持っています。
しかしながら、
「できる限りの手を尽くしたけれど、どうしても赤字を解消することができない」
「このままでは負債が膨らむばかりだ」
という場合は、事業を閉じる決断をしなければならないかもしれません。
介護事業者の倒産は、サービスを受ける利用者本人のみならず、利用者の家族の生活にまで深刻な影響を与えかねないものですが、利用者のため、家族のために頑張ることにも限界があります。
むしろ、資金や資産が完全に枯渇してしまってからでは、破産申立てなど適切な倒産処理をするための費用すら工面できず、かえって利用者や家族、債権者などの関係者に迷惑をかけてしまいます。
そこで、限界を迎える前に、破産申立ての費用(弁護士費用や裁判所への予納金)を確保した状態で、事業を停止し、弁護士に破産申立てを依頼します。
その際、「介護事業」だからといって他の業種に比べて破産申立てが難しくなるということはありませんが、「介護事業」ならではの特殊性に注意して進めることが必要です。
介護事業者破産の特殊性

介護事業者の破産は、一般的な企業の破産とは異なり、
■利用者(入居者)の生命・身体の安全を確保しながら進める必要がある
■入居一時金の処理が必要となる場合がある
■行政(所管庁)への対応が必要となる
という特徴があります。
以下、それぞれ詳しくみていきましょう。
①利用者(入居者)の生命・身体の安全を確保しながら進める必要がある
特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの居住型サービスを提供している場合、介護事業者が破産するということは、入居者にとって最も大切な生活の場所が失われるということを意味します。
デイサービスや訪問介護の場合であっても、介護事業者が破産すれば、利用者や利用者の家族の生活に多大な影響を与えることになります。
突然の事業停止で入居者や利用者が路頭に迷うことのないよう、破産するにあたっては事前の準備が必要不可欠です。
事前に、入居者や利用者、その家族に対して説明を行ったうえで、積極的に転所先の施設を探し、紹介します。
担当のケアマネージャーや管轄の自治体(福祉課等)に相談し、協力を仰ぐとよいでしょう。優先的に代替施設を探してもらえるかもしれません。
②入居一時金の処理が必要となる場合がある

有料老人ホームでは、入居時に、入居者から入居一時金を受領しているケースが多くあります。
介護事業者が破産した場合、入居者は、介護事業者に対して入居一時金(未償却分)の返還を求めることができる「債権者」という扱いになります。
ただし、破産法上、特別の優先権が認められているわけではありませんので、弁済を受けられる順位は他の債権者と平等です。
このため、破産申立て後に裁判所から選任される破産管財人は、入居一時金についても、他の債権者と同様に配当という形で入居者に返還することになります。
これは、裏を返せば、破産した介護事業者に、配当できるだけの財産が残っていない場合は、入居者に入居一時金を返還することができない、ということです。
介護事業者の破産によって入居一時金の返還が受けられず、別の施設に入所するにあたって、再び高額な入居一時金を負担しなければならないとすると、入居者や家族にとっては大変な経済的負担です。
そこで、老人福祉法が改正され、2021年4月1日以降は、全ての介護施設において入居一時金の保全措置をとることが義務化されました。
これにより、介護事業者が破産した場合、損害保険会社、銀行、公益社団法人有料老人ホーム協会など、介護事業者と保証委託契約を締結した機関が、500万円を限度として入居者に支払うことになっています。
こうした保全措置をきちんと取っていれば、破産する場合にも、入居一時金のうち一定金額を入居者にお返しすることができ、返還に関するトラブルを防ぐことができるでしょう。
なお、居住型のサービスを提供している場合、入居者本人や家族から、お小遣いや生活必需品を購入するためのお金を預かっていることがあります。
このような預かり金は、介護事業者の財産ではありませんので、破産手続において他の債権者への配当原資に含めることはできません。速やかに、入居者本人または家族に返還して下さい。
③行政(所管庁)への対応が必要となる
介護事業者は、行政と連携して社会福祉の一端を担っている存在と言えます。
開業の時もそうであったように、介護事業者が破産する時も、行政(所管庁)への対応が必要となります。
まず、有料老人ホームなどの介護事業者(特定施設入居者生活介護事業所)が破産する場合は、1か月前までに都道府県知事へ届け出なければなりません(事業廃止届)。
入居者への影響が大きいため、廃業の際には事前相談が求められています。
また、介護事業者は、介護保険サービス提供事業所の指定を受けているため、都道府県ないし市区町村に対し、事業停止・指定取消に関する届出を行う必要があります。
介護事業者の破産申立ては是非弁護士に相談を

地域の福祉を支えてきた介護事業者の方が、経営難を理由に事業を停止し、破産申立てを決断することは大変つらいことです。
長年通ってくれた利用者の方、生活全般のお手伝いをしてきた入居者の方に、別の施設に移っていただく負担をかけてしまうのも、申し訳なく感じられることでしょう。
しかし、先に述べたとおり、資金や資産が完全に枯渇してしまってからでは、破産申立てのための費用すら工面できず、かえって入居者や利用者、その家族に迷惑をかけてしまいます。
適時に適切な判断をすることで、入居者や利用者にかける負担を最小限に抑えながら、事業を閉じることは可能です。
介護事業者で、破産申立てをお考えの経営者の方は、一度、我々弁護士に相談して下さい。
当事務所では、これまで多くの介護事業者の破産申立てをお手伝いしてきました。経験豊富な弁護士がサポート致しますので、一人で悩まずに、是非お声掛けいただければと思います。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。









