
美容クリニックや整骨院にとって、施術の効果を視覚的に伝えるビフォーアフター動画は、いまや欠かせないマーケティングツールとなっています。
InstagramのリールやYouTubeショートといった短尺動画プラットフォームの普及により、数十秒の映像が数万人の潜在患者様の目に触れる時代が到来しました。
しかし、動画という媒体は写真と比較して「演出の幅」が格段に広く、それゆえに法的リスクも格段に高くなります。
静止画に対する規制の知識を持っていても、動画特有の落とし穴を知らずに投稿を続けているクリニックや整骨院が後を絶ちません。
本稿では、法律事務所の視点から、ビフォーアフター動画に適用される法的規制の全体像と、写真の場合とは異なる留意点、そして実務上の対応策をご案内いたします。
動画が「広告」として規制される法的根拠

まず前提として、クリニックや整骨院がSNSやYouTubeに投稿するビフォーアフター動画は、医療広告ガイドライン上の「広告」に該当します。
2018年の医療法改正以降、自院のウェブサイトやSNSアカウントに掲載するあらゆるコンテンツは、不特定多数の者に向けた医療情報の提供とみなされ、広告規制の対象となっています。
特に重要なのは、動画の内容が「誘引性」と「特定性」を有している場合です。誘引性とは受診を促す意図があること、特定性とは特定の医療機関や施術を名指ししていることを指します。
自院のロゴや院名が映り込む動画、予約ページへのリンクを概要欄に記載した動画は、いずれも広告規制の枠組みに完全に収まります。
さらに、薬機法第66条は、医薬品や医療機器を用いた施術の効果について、虚偽または誇大な表示を行うことを厳格に禁止しており、その規制対象には動画コンテンツも含まれています。
この二つの法体系が重なり合う点に、動画広告特有の複雑さがあります。
写真にはない「動画ならではのリスク」とは

静止画であるビフォーアフター写真の規制については、撮影条件の統一(照明・角度・表情)や付随情報の明示といった要件が広く知られるようになりました。
しかし動画は、時間軸という新たな次元が加わることで、写真では問題にならなかったリスクが顕在化します。
第一は「BGMと感情誘導」の問題です。劇的な変化に感動的な音楽を重ねることで、視聴者の感情を高揚させ、冷静な判断を阻害する効果が生まれます。
このような演出が「過度な期待を抱かせる誇大広告」と認定されるリスクは、静止画と比較して著しく高くなります。
第二は「スロー再生・早送り・トランジション効果」の問題です。ビフォーからアフターへの変化を印象的に見せるために、映像を編集で加工する行為は、写真における画像修正と同等に扱われます。
特に、変化の速度を誇張したり、改善が瞬時に起こったかのような演出をしたりすることは、医学的事実に反する表現として問題視される可能性があります。
第三は「患者様の発言・証言の埋め込み」です。動画内に患者様が「こんなに変わった」「痛みが消えた」と話すシーンを含める行為は、医療広告ガイドラインが明確に禁止する体験談の掲載に該当します。
文字で記載された体験談と異なり、実在の人物が映像で証言するという形式は、視聴者に与える信頼性と誘引力が格段に高く、違反の悪質性も高く評価されかねません。
整骨院・接骨院における動画規制の特殊性

整骨院(接骨院)のビフォーアフター動画は、医療クリニックとは異なる法的問題を抱えています。
柔道整復師が行える施術は、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷といった急性の外傷に限定されており、慢性的な肩こりや腰痛、姿勢矯正などはその範囲に含まれません。
にもかかわらず、整骨院のSNSでは「猫背が一回で改善」「O脚矯正のビフォーアフター」といった動画が数多く投稿されています。
これらは、柔道整復師の業務範囲を逸脱した医行為の標榜として、医師法第17条や柔道整復師法に抵触する可能性があります。
さらに、施術に特定の医療機器を使用している場合、その機器が薬機法上の承認を得ているかどうかという問題も重なります。
未承認の機器を用いた施術のビフォーアフター動画を投稿することは、薬機法の広告規制違反と、医師法の無資格医行為という二重の違反を引き起こしかねません。
付随情報の表示義務:動画での「限定解除」の難しさ

医療広告ガイドラインにおいて、ビフォーアフターの症例を掲載するためには、「限定解除」の要件として、費用・施術内容・副作用・リスクを明示しなければなりません。
この要件を動画形式で充足することは、静止画と比べて技術的に困難であり、多くのクリニックが不完全な対応をしているのが現状です。
短尺動画の場合、費用やリスク情報を画面内に表示する時間的余裕がない、あるいは視聴者が読み切れないほど高速に表示される、といった問題が生じます。
「詳細は概要欄へ」と誘導する手法も広く使われていますが、概要欄を開かなければ情報にアクセスできない構造は、「ユーザーが容易に認識できる状態」という要件を満たさないとして行政から問題視される可能性があります。
実務的な対応としては、動画の冒頭または末尾に、費用・主なリスク・個人差がある旨を、判読可能な文字サイズと表示時間で明示することが求められます。
長尺の動画であれば、施術内容の詳細をナレーションや字幕で説明し、副作用やリスクについても具体的に言及することが、法的リスクを低減する有効な手段となります。
プラットフォームのポリシーと行政規制の「ダブル規制」

動画広告の法的リスクを考える上で見落とされがちなのが、各プラットフォームが独自に設けているコンテンツポリシーとの関係です。
MetaやGoogleは、医療・美容に関するコンテンツに対して、独自の審査基準を設けており、日本の薬機法に抵触しなくてもプラットフォーム側の判断でコンテンツを削除されることがあります。
逆に、プラットフォームの審査を通過したからといって、薬機法や医療広告ガイドラインに適合しているわけではありません。
プラットフォームのポリシー適合と法令遵守は、全く独立した問題であり、両方の基準を同時に満たす必要があります。
また、行政のネットパトロールは現在、動画プラットフォームにも範囲を拡大しています。
厚生労働省が委託する外部機関は、YouTubeやInstagramの動画コンテンツを対象としたキーワード検索と目視確認を継続的に行っており、違反が発見された場合は保健所を通じた是正指導へと移行します。
是正勧告を受けた場合の実務的対応

行政から是正勧告を受けた場合、まず求められるのは当該動画の即時非公開または削除です。
しかし、対応はそれだけでは不十分です。問題のある動画を一本削除しても、同様の基準で作成された他の動画が残っていれば、継続的な違反状態にあるとみなされます。
是正指導に対して適切に対応するためには、自院のSNSアカウントやYouTubeチャンネルに投稿されているすべての動画を横断的に点検し、法的問題を抱えるコンテンツを網羅的に特定する必要があります。
この作業を曖昧なまま行うと、次の行政指導の際に「改善の意思がない」と判断され、中止命令や公表処分へと発展するリスクが高まります。
法律事務所が関与する最大のメリットは、この網羅的な現状調査と、行政への応答文書の作成、そして再発防止策の策定を一体的に支援できる点にあります。
単なる謝罪対応ではなく、法的根拠に基づいた反論や代替案の提示によって、行政処分の内容を有利な方向に交渉することも、弁護士の重要な役割です。
まとめ

ビフォーアフター動画は、クリニックや整骨院にとって強力な集患ツールである一方、写真には存在しない多層的な法的リスクを内包しています。
BGMや映像効果による感情誘導、患者様の証言の埋め込み、付随情報の不十分な表示、そして整骨院特有の業務範囲の問題など、規制の網は想像以上に細かく張り巡らされています。
しかし、これらのリスクは、事前の法的確認と適切な動画制作の運用ルールを整備することで、相当程度回避することができます。
「炎上してから対応する」ではなく、「投稿前にリーガルチェックを受ける」という姿勢こそが、長期的にブランド価値を守り、信頼できる医療機関・施術院として選ばれ続けるための最善策です。
現在の動画コンテンツ運用に少しでも不安を感じられるのであれば、広告法務に精通した弁護士による詳細な点検をお受けになることを強くお勧めいたします。
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