従業員を懲戒処分にした場合、同じようなことが再度起きることを防止するため、この懲戒処分を社内で公表したいというときがあります。この場合、どのような点に注意すべきでしょうか。結論的に言うと、①社内で公表する必要性の程度や、②公表方法の妥当性を検討し、社会的に相当な範囲で行うことが必要になります。

懲戒処分の公表が適法とされた裁判例として、東京地判H19・4・27日あります。
『就業規則では、懲戒処分について「原則としてこれを公示する」と定めている。懲戒処分は,不都合な行為があった場合にこれを戒め,再発なきを期すものであることを考えると,そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ,注意を喚起することは,著しく不相当な方法によるのでない限り不当なものとはいえない。掲示は,被告(会社)の社内に設置された掲示板に,原告(懲戒された従業員)に交付された「懲戒」と題する通知書と同一の文書を張り出す形で行われ,掲示の期間は発令の当日のみであったことが認められ,懲戒処分の公示方法として不相当なものとは認められない』
このケースでは、上記の①については明確には示されていませんが、再発防止のための周知・注意喚起の目的があると認めたと考えられます。

懲戒処分の公表が違法とされた裁判例もあります(東京地判S52・12・19日)。
『原告らが重大な不正行為をなしたことによって懲戒解雇されたかの印象を与える文書の内容、半ば強制的ともいえるその配布、掲示の方法、掲示にあたり原告らの名誉の尊重を顧みない被告の意図を考慮すると、文書の配布、掲示は、その公表方法、公表内容において社会的に相当と認められる限度を逸脱している』
このケースでは、被告(会社)は、
■会社が解雇処分とその理由を記載した文書を全従業員に交付し、その文書を確実に読むよう管理職に監視させた、
■掲示された文書の大きさは、縦約1メートル、横約1.7メートルと、必要以上に巨大であった、
■文書には被告らを非難ないし中傷するような記載があった、
などの事情がありました。

ちなみに、個人名を公表してよいかどうかですが、個人名を公表したからだめということではなく、問題は上記で述べたような公表の方法かと思います。