この記事では、下請法の対象となる取引の内「役務提供委託」について、「役務」とは何を指すのか、どのような「役務」についての委託が対象となるのかなど、事業者が押さえておくべきポイントを詳しく解説いたします。

下請法の対象となる「役務提供委託」

下請法は、その適用の対象となる範囲を、「取引当事者の資本金の区分」と「取引の内容」の2つの条件によって定めています。
この内、取引の内容としては、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つの類型が定められています。
中でも「情報成果物作成委託」「役務提供委託」は平成15年の下請法改正時に追加された類型であり、比較的新しいものではありますが、その具体的な内容は多岐に渡っています。
この記事では、この内の「役務提供委託」について詳しく解説していきます。

「役務提供委託」とは?

下請法は、「役務提供委託」について、下記のように定めています。

下請法第2条4項
この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること…をいう。

以下、順番に解説していきます。

「事業者が業として行う(提供)」

「業として行う(提供)」とは、提供行為が反復継続して行われており、事業者の事業の遂行としてみることができる程度のものであるか否かで判断されます。
平たく言うと、事業者の「仕事」であるかどうかということなので、この部分が問題となることは実際には多くありません。

「提供の目的たる役務」

「役務」というのは、要するに「サービス」のことです。
例えば、運送、警備、清掃、情報処理などが挙げられますが、これらに限られるものではなく、サービス全般が「役務」に当たると考えられます。
「提供の目的たる(役務)」というのは、事業者が顧客に提供することになっているサービスかどうか、という意味です。
例えば、運送業者であれば、顧客に提供している「荷物を運ぶ」というサービス(役務)がこれに当たります。警備会社であれば「ある場所の警備にあたる」というサービス(役務)が当たることになります。
一方で、ある金型工場が自身の工場の内部を清掃することは、顧客に提供しているサービスではないため、「提供の目的たる役務」に当たらないと言えます。
様々なサービス内容が考えられるため、この部分の判断がとても難しい場合があります。

「(役務の)提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

上記のサービスの提供について、その全部または一部を外注して委託すること(下請に出すこと)が、下請法の対象となる行為になるということです。

役務提供委託の具体例

下記に「役務提供委託」に当たると考えられる具体例をいくつか載せますので、参考になさってください。

【具体例】
●貨物の運送業者が、請け負った貨物の運送を、他の運送業者へ委託すること
●貨物の運送業者が、請け負った貨物の運送のうち、一部を他の運送業者へ委託すること(貨物の一部を委託する場合や、経路の一部を委託する場合などが考えられます)
●貨物の運送業者が、貨物運送の際に貨物の梱包も併せて請け負った場合に、その梱包作業を梱包業者に委託すること

●旅客自動車運送業者(貸切観光バスやタクシーなど)が、請け負った旅客の運送を、他の運送業者に委託すること
●旅行業者が、顧客から請け負った宿泊施設や交通機関等の手配を、他の業者へ委託すること

●ビルの清掃・設備管理・警備などのビルメンテナンスを請け負う業者が、請け負ったメンテナンスの一部である清掃業務を、清掃業者へ委託すること
●ビルの清掃・設備管理・警備などのビルメンテナンスを請け負う業者が、請け負ったメンテナンスの一部である警備業務を、警備会社へ委託すること

●受託計算サービスを請け負う業者が、請け負った受託計算業務を、他業者へ委託すること(ただしプログラムの作成には当たらないもの)
●アプリやソフトウェアを販売する業者が、そのアプリ等についての顧客向けのサポートサービスを、他の業者に委託すること

●自動車のメーカーやディーラーが、販売した自動車のメンテナンス作業を請け負った場合に、その作業を自動車整備会社に委託すること
●ブライダル業者が、請け負った結婚式のプランの中の着付け・メイクについて、美容師等の他の業者に委託すること

建設工事は対象外

建物を建てる等の建設工事もサービスのひとつと言えますが、下請法は建設工事を明文で適用対象外としています。

下請法第2条4項
この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。

何故かというと、実は建設工事の下請については「建設業法」という法律に別途規定が置かれており、そちらで保護が図られているからです。
ただし、建設業者の行う取引のうち、建設業法に該当しない取引については、下請法の対象となることもあるので注意が必要です。
(例)建設業者が資材の製造も業として行っている場合に、その製造を他の事業者に委託する場合には、「製造委託」として下請法の適用対象となり得る。

これも「役務提供委託」?

無料で行うサービス

事業というのは料金・対価を得て行うものですから、純粋に無償の行為の提供をする場合には「業として」行うものとは言えず、「役務提供委託」に当たらないということになります。
しかし、世の中には顧客に対して行う「無料」サービスがたくさんありますが、中には支払った料金にすでに「無料」サービスの料金も含まれている場合もあります。例えば、何かの製品を購入した際に「無料」のアフターサービスが附帯してきた場合でも、そのサービスの代金が製品の購入代金に含まれている場合には、役務の対価があるといえるため、「業として」サービスを提供していると言えることになります。
したがって、一見して「無料」のサービスであっても、役務提供委託に当たる場合があるということです。

プログラムの作成と情報処理

ソフトウェア、アプリの開発といった行為は、サービスの一種ではないかと思われますが、下請法では「情報成果物作成委託」(下請法第2条3項)という類型を定め、事業者が業として行っているプログラム作成について他社に委託した場合には、「役務提供委託」ではなく「情報成果物作成委託」として下請法の対象となるとしています。
一方で、データを入力したり、計算を行ったり、検索を行ったりといった情報処理を委託する場合には、「役務提供委託」に当たり得るとされています。
イメージとしては、ソフトウェア・アプリといった商品が納品されるということに重点を置いているのが「情報成果物作成委託」であり、何か作業をすることに着目しているのが「役務提供委託」であるというところでしょうか。
判断が難しいところですが、契約の実際的な内容に着目して考える必要があります。

荷物の運送と物流特殊指定

例えば、自社の工場から自社の各店舗へ商品を配送することは、顧客に対して「配送」というサービスを提供している訳ではありませんから、この配送について他社に委託したとしても「役務提供委託」には当たりません。
しかし、例えば上記の場合で、各店舗への配送を請け負った運送会社Aが、さらに他の運送会社Bに配送を委託した場合には、運送会社Aは顧客(工場)に対して「配送」というサービスを提供しており、それを他社(B)に委託しているという関係になるため、「役務提供委託」に当たるということになります。
この場合には、資本金の条件を満たせば、下請法の適用対象となると考えられます。
では、自社の工場から顧客の経営する各店舗へ商品を配送する際に、その配送を他社へ委託した場合はどうでしょうか。
この場合は、運送中の商品の所有権は誰にあるのか、配送について顧客から有償で請け負っていると言えるのかなど、事情により各店舗への配送が業として顧客へ提供している役務なのかが変わることとなり、「役務提供委託」に当たるのか否かの判断が大変難しくなってきます。また、この区別如何によって下請法による受託業者への保護が及ぶか及ばないかが決まることとなり、同じような物流の契約の間で不公平が生じる状況にもなりかねません。
そこで、下請法の「親」にあたる独占禁止法は、「物流特殊指定」という不公正な取引方法の類型を定め、物流全体について取引の公正化を図っています。すなわち、下請法とそっくりの規制を別に作って、下請法か「物流特殊指定」のいずれかの保護が受けられるようにしたのです。
上記の例でいくと、自社の工場から自社の各店舗への配送を他社へ委託したとしても「役務提供委託」(下請法)には当たりませんが、この配送の委託には「物流特殊指定」(独占禁止法)が適用され、規制を受けることとなります。

まとめ

この記事では下請法の「役務提供委託」について詳しく解説いたしました。
役務提供委託の委託対象となる「役務」はサービス全般とも言い換えられますので、その範囲はかなり広いものと考えられます。
一方で、「提供の目的たる役務」と言えるかどうかや、「情報成果物作成委託」との区別などについては、少しややこしいところもあり、慎重な判断が必要です。
下請法の適用がある場合には、各種規制が及びますので、ご自身が関わっている取引が「役務提供委託」として下請法の対象となるのか否かについてご不安がある場合には、ぜひ弊所の顧問契約サービスをご検討下さい。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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