このページでは、埼玉県で30年以上、不動産事件を扱ってきた法律事務所の弁護士が、借地権にまつわるトラブルとその対処方法について所有者(地主)の目線から解説し、有益な情報を提供しております。

借地権とは

そもそも借地権とは、建物の所有等を目的として設定された地上権もしくは賃借権のことをいいます。他人の土地を利用するための権利という意味では共通しますが、以下のとおり、権利の性質が異なります。

地上権とは

地上権とは、工作物又は竹木を所有するため他人の土地(地下又は空間を含む。) を使用収益(=用益)することを目的とした「物権」(すなわち、土地に対して有する権利)です。民法では、265条に規定されています。 「物権」という性質上、地主の承諾なく、譲渡、転貸ができるとされています。

賃貸借とは

賃貸借とは、当事者間の賃貸借契約(=合意)に基づき他人の土地を使用する権利をいい、「債権」(すなわち、人に対して有する権利)です。民法では、601条に規定されています。
法律相談においては、主に賃借権のこととして借地権の問題が登場することが多いため、以下では、賃借権としての借地権にまつわる問題に触れて参ります。

底地権とは

借地権というのは、借主側から見た権利であるのに対し、底地の所有者(所有権者)の権利としてみた場合には、底地権といいます。
底地権は、所有権のことを意味し、借地権の存在により所有権(使用、収益、処分する権利)に制限が加わります。
それゆえに、同じ土地上に二つの対立する権利があるため、借地権と底地権とがぶつかり合う場面が発生します。

借地権を巡るトラブル事例について

では、具体的には、どのようなトラブルが発生することが多いでしょうか。
大きく分けて、2つの場面で争いになります。

① 賃料に関するトラブル
② 立ち退きに関するトラブル

そこで、それぞれの場面で問題となる背景に触れながら、地主の立場から、問題解決の方法を検討します。

① 賃料に関するトラブル

何より、地代(賃料)を巡るトラブルを耳にすることが多いです。つまり、土地所有者は毎年、固定資産税を支払っておりますところ、地域によっては、路線価が大幅に値上がりしているケース、近隣の賃料、売買相場の上昇というケースがあります。埼玉県内では、弊所の所在しております、さいたま市大宮区をはじめ、浦和区などで年々値上がりをしている様子が見受けられます。そのような情勢を地代に反映させたいということですから、お気持ちはよくわかります。

では、そのような場合には、どのような手続を踏むべきでしょうか。

まず地主の権利から確認しますと、民法には賃料増額の規定はありませんが、借地借家法11条に賃料増額の規定があります。

・借地借家法11条(地代増額請求権)

(地代等増減請求権)
第十一条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

つまり要件としては、「土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったとき」には、それまでの契約の条件にかかわらず、「将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる」ことになります。
「ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」とありますので、特約があれば検討が必要となります。

このように、借地借家法11条は、手続上、①当事者間で協議を行うことを想定しております。では、協議が整わない場合には、すぐさま②裁判で決着をつけましょう、ということかと思いがちですが、別の法律に、以下の条文があります。

・民事調停法24条の2(調停前置)

(地代借賃増減請求事件の調停の前置)
第二十四条の二 借地借家法(平成三年法律第九十号)第十一条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第三十二条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、受訴裁判所は、その事件を調停に付さなければならない。ただし、受訴裁判所が事件を調停に付することを適当でないと認めるときは、この限りでない。

つまり、賃料増額請求事件については、調停前置主義といって、裁判の前に調停を行ったが不成立になることが要件となっております。なお、調停では、不動産鑑定士による鑑定等が行われ、客観的な価格を算出して和解を進めることになりますので、相当数の事件が調停で解決していると考えられます。

地主の方に対するアドバイス

・賃貸借契約を締結した当時と今とで、どの程度、公租公課が増えたのか、土地の価格が上昇したのか、近隣の土地の地代が増えたのか、などを可能な限り証拠を準備しておくこと、
・将来に向けた変更ですから、事情が変更していると思えば、いち早く賃料増額を請求すること(意思表示を明確に行うこと)、
を検討していただきたいと思います。

② 立ち退きに関するトラブル

賃料の問題と並行して法律相談が多いのは、立退きに関するトラブルでしょう。
ようするに、
借地権者「契約期間を更新してください」
地主「嫌です、出て行ってください」
のパターンです。

このような問題が生じるのは、定期借地権(平成4年8月の借地借家法以前には存在しませんでした。)ではなく、普通借地権(なお、平成4年8月以前に成立している借地権は、旧借地法の規定が適用されます。)の場合です。なぜなら、定期借地権は、期間満了後の更新がないからです。

相談事例としては、地主から借地権者に対し、更新を拒絶するパターン、つまり「更新しませんよ」と通知を出したが応じてくれない場合と、契約期間満了時に明渡しを要求したところ、立退料を要求されるという場合が挙げられます。

では、そのような場合には、どのような手続を踏むべきでしょうか。

まずは、借地借家法を見て参りましょう。

・借地借家法5条(更新)、6条(更新拒絶)

(借地契約の更新請求等)
第五条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして、借地権者と借地権設定者との間について前項の規定を適用する。(借地契約の更新拒絶の要件)
第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

つまり、地主、つまり「借地権設定者」としては、更新時において、「遅滞なく異議」を述べないといけません。うかうかしていると、更新されてしまうということです。借地人からの更新の請求があるときはもちろん、それがなくても、現状のまま利用を継続させていた場合には、同じ結論となります。

では、更新に関して異議を出せばそれでよいかというと、そう簡単ではありません。
つまり、異議を述べることができるのは、以下の場面に限定するよ、というのが借地借家法の立場です。

① 借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情
→借地権設定者、つまり地主の土地を使用する「必要性」が求められております。例えば、地主やその親族などがその土地を使用しなければならない事情が一つでしょう。
② 借地に関する従前の経過
③ 土地の利用状況
④ 借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
→さきほど、立退料という話に触れましたが、地主が立退料の支払を提案するというのが、上記④にも影響するということです。立退料の多寡についても考慮要素とされていることになります。

①から④を考慮して、「正当の事由」があると認められる場合でなければなりません。

このように、定期借地権を設定していない限り、期間満了のみを理由に借地人に出て行ってもらうということは簡単ではないということです。

しかも、注意が必要なのは、

・借地借家法13条(建物買取請求権)

(建物買取請求権)
第十三条 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。

ということです。

つまり、地主の方は、正当な事由が認められず、借地権を更新されてしまい、借地人に出て行ってもらうことができない場合はもちろん、立退料を支払って契約の更新を免れたとしても、今度は借地人の建てた建物を時価で買い取れと請求される立場にあるということです。

地主の方に対するアドバイス

・借地権の更新時期をよく確認しておきましょう
・土地を利用する必要性をよく整理し、客観的証拠を集めておきましょう。
・立退料を検討しておきましょう。
・建物買取請求に備えましょう。
このように、借地権は、最初(契約時)はよいですが、終わり(契約終了)が極めて難しい権利です。そのために、地主の方は、定期借地権を活用することを強くお勧めいたします。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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