試用期間について、会社が自由に簡単に従業員の採否を決められる期間であって、気に入らない従業員であれば本採用拒否すればよいだけ、と単純に思われる方が多数と思われますが、これは誤りです。試用期間であると安易に考えることを控える必要があります。

試用期間付雇用契約の法的性質

試用期間付雇用契約の法的性質について、かつては考え方に争いがありましたが、最高裁判所から下記判例が出されたことで結論付けられました。

三菱樹脂事件・最大判昭48年12月12日民集27巻11号1536頁
「試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則の規定の文言のみならず、当該企業内において試用契約の下に雇傭された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものであるところ、原判決は、上告人の就業規則である見習試用取扱規則の各規定のほか、上告人において、大学卒業の新規採用者を試用期間終了後に本採用しなかつた事例はかつてなく、雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく、ただ、本採用にあたり当人の氏名、職名、配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと等の過去における慣行的実態に関して適法に確定した事実に基づいて、本件試用契約につき上記のような判断をしたものであつて、右の判断は是認しえないものではない。それゆえ、この点に関する上告人の主張は、採用することができないところである。したがつて、被上告人に対する本件本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。」

神戸弘陵学園事件・最三小判平2年6月5日民集44巻4号686頁
「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。そして、試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。」

そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。」

解約権留保付雇用契約

これらの判例の考え方をまとめると、
「本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後のおける解雇にあた」る(三菱樹脂事件・最大判昭48年12月12日民集27巻11号1536頁)、「特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。」とされています(神戸弘陵学園事件・最三小判平2年6月5日民集44巻4号686頁)。
そのため、試用期間中であっても、雇用(労働)契約はすでに成立していることになります。留保した解約権行使(試用期間終了後の本採用拒否)は、あくまで「解雇」にあたります。

本採用拒否(留保解約権行使)の適法性

労働契約法の適用

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定める労働契約法第16条が適用されることになります。
そのため、会社側は、試用期間中の労働者に対し、社員としての適格性欠如の具体的根拠を示す必要があり、判断の妥当性も客観的に審査され、これらを満たさない場合には解約権行使(解雇)は無効となります。

判例・裁判例上の具体的判断

判断要素

本採用拒否が有効とされるか無効とされるかは、具体的事案によって、裁判例が分かれています。

三菱樹脂事件・最大判昭48年12月12日民集27巻11号1536頁

「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」
「法が企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇傭契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いつたん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入つた者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。」

期間が短い場合

オープンタイドジャパン事件・東京地判平成14年8月9日

本事案は、事業開発部長として年俸1300万円で採用され、試用期間2ヶ月余りで解約された事案です。試用期間途中での解雇について、適格性を欠くと判定するには早すぎるとして、これを無効としました。

「原告と被告との間で、原告の事業開発部長としての業務能力を把握し、その適性を判断するための試用期間を定める合意が成立したものと認められ、この合意は、合理的理由に基づくものとして、有効というべきである(これに反する原告の主張は、以上の認定判断に照らして採用できない。)。そして、被告がした本件解約告知は、雇用から2か月弱経過してされたものであり、原告の業務能力を把握し、その適性を判断するための合理的な期間内にされたものといえる。」「ただし、本件解約告知が有効と認められるためには、上記試用期間の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認されるものであることが必要というべきである。」

能力適格性の欠如が明らかな場合

試用期間の途中までの観察で労働者としての能力・適格性の欠如が明らかであり、その後改善される可能性もないという場合等においては、試用期間の満了を待たずに解約権を行使(解雇)しても、本採用の可否を決定するための適格性観察期間という試用期間の趣旨に反するとはいえません。

アクサ生命保険ほか事件・東京地判平成21年8月31日

6ヶ月の試用期間を定めて中途採用された生命保険会社の従業員に対し、意図的な履歴書等の虚偽記載(経歴詐称)および勤務態度の不適格性を理由になされた試用期間満了前の解雇は解雇権の濫用にあたらず有効と判断されています(水町勇『詳解労働法第2版』480ページ)。

「試用期間中の(普通)解雇は、採用決定の当初にはその者の資質、性格、能力などの適格性の有無に関連する事項につき資料を十分に得ることができないため、後日における調査や観察に基づく最終決定を留保する趣旨でされた留保解約権の行使であるから、通常の(試用期間中でない)解雇よりも緩やかな基準でその効力を判断すベきであるが、試用期間の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的理由があり、社会通念上相当として是認されるものであることを要する。」「履歴書や職務経歴書に虚偽の内容があれば、これを信頼して採用した者との間の信頼関係が損なわれ、当該被採用者を採用した実質的理由が失われてしまうことも少なくないから、意図的に履歴書等に虚偽の記載をすることは、当該記載の内容如何では、従業員としての適格性を損なう事情であり得るということができる。」

試用期間の終了時になされた本採用拒否(解約権行使・解雇)

試用期間の【終了時】になされた本採用拒否(解約権行使・解雇)については、その能力欠如や不適格性の判定について、使用者に通常の解雇の場合よりも広い判断の自由(解雇の自由)が認められる傾向にあります。

欧州共同体委員会事件・東京高判昭和58年12月14日

「大学卒業後数年間他の職についた後に採用された、いわゆる中途採用者であり、他方、被申請人が、日本において営利を目的とする民間企業でなく、欧州共同体という国際機関の委員会であつて、その駐日代表部は我国における広報活動を含む諸活動に従事するものであることなど前認定の事実関係をすべて総合して判断するときは、被申請人が、申請人について、駐日代表部の職員として適格性を欠くとしてその本採用を拒否したことは、試用期間に伴う前記解約権留保の趣旨、目的に照らして合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認することができるものといわざるを得ない。」「そうすると、被申請人が本件終了通知によつてした解雇の意思表示は有効であつて、申請人は、右解雇の意思表示がその効力を生じた時に被申請人の職員としての地位を喪失したものというべきである。」

社会福祉法人どろんこ会事件・東京地判平成31年1月11日

「原告は、その履歴書における経歴から、発達支援事業部部長として、さらには被告グループ全体の事業推進を期待される被告の幹部職員として、被告においては高額な賃金待遇の下、即戦力の管理職として中途採用された者であったものであり、職員管理を含め、被告において高いマネジメント能力を発揮することが期待されていたものである」「以上の点に照らすと、上記のように高いマネジメント能力が期待されて管理職として中途採用された原告につき、少なくとも、本件就業規則14条1項6号、29条5号、11号及び同就業規則14条1項1号に規定するように、他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし、協調性を欠くなどの言動のほか、履歴書に記載された点に事実に著しく反する不適切な記載があったことが認められるところであり、本件本採用拒否による契約解消は、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当なものと認められる。」

試用期間の長さ

労働契約に試用期間を設定するか、その期間の長さをいかなるものとするか等については、法律上の規定はありません。
ただし、本採用の可否を決定するための適格性観察期間という試用期間の趣旨・目的からすると、この目的を遂行するために必要な期間を超えて長期間労働者を試用期間という不安定な状況に留め置くことは許されるべきではありません(水町勇『詳解労働法第2版』482ページ)。

ブラザー工業事件・名古屋地判昭和59年3月23日
見習期間(6か月ないし1年3ヶ月)に加えて試用社員として6ヶ月ないし1年の試用期間を設けていることに合理的な必要性はないとして、試用期間を定めた部分を公序良俗に反し無効であるとしました。

「一般に、試用期間中の留保解約権に基づく解雇については本採用後の通常の解雇の場合よりも広い範囲の自由が認められるものと解されているから、試用期間中の労働者の地位は本採用後の労働者の地位に比べて不安定であるというべきである。会社においても、〈疎明〉によれば、社員の場合は、無届欠勤でない限り長期間病気欠勤をしても他企業のように休職制度はない代わり解雇されることはないことが認められるのに対し、前認定の中途採用者登用制度の内容によると、見習社員及び試用社員であると病気欠勤も勤怠基準である欠勤換算日数の中に一定の割合で算入されるためそれが長期に及べば雇止め又は解雇されることになるから、この一事からしても、見習社員及び試用社員の地位は社員に比べて不安定であることが明らかである。また、前認定のとおり、選考基準が改訂される場合は、改定後の基準が選考対象者に事前に周知されないため、選考対象者としてはどの程度の勤務・勤怠状態であれば不合格になるかの予測を立てることが不可能であることも見習社員及び試用社員の地位を不安定にさせているというべきである。」「試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であると解するのが相当である。」

試用期間の延長

試用期間を延長することは、就業規則上の具体的な定めなど契約上の明確な根拠がない限り、労働者を長く不安定な状況に置くものとして、原則として認められるべきではありません(水町勇『詳解労働法第2版』482ページ)。
裁判例上、試用期間の延長について合理的理由があると判断したケースがありますが、あくまで例外的なものと考えるべきでしょう。
なお、就業規則に定められた試用期間より長い試用期間を定めた労働契約は、就業規則の労働条件より不利な労働条件を定めるものであり、就業規則に定める基準に達しないので、就業規則に定める期間を超えた部分は、無効になると考えられます(労働基準法第93条)。
同様に、試用期間を延長について、使用者と労働者との間での合意があっても、その合意は無効とされるように考えられます(労働基準法第93条)。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣
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