従業員の加入した労働組合から団体交渉の申入れがされた場合、何とか拒否できないかと考える使用者は少なくありません。
しかし、ただその場の感情に任せて申し入れられた団体交渉を拒否することは使用者によって大きなリスクを伴いますので、今回は、使用者が団体交渉を拒否することの考え方について解説をしていきます。

団体交渉とは?

従業員が団結し労働組合等を組織した上で、使用者に対して、雇用条件の是正等に関して協議を求める手段のことを団体交渉といいます。
近年、会社内で労働組合を組織している例は少なくなっているため、地域単位等で組織される合同労働組合(ユニオン)に従業員が加入し、そこから団体交渉の申し入れがされるケースが多く見受けられます。
解雇の効力等が争われる場合には既に会社を退職した従業員から団体交渉が申し入れられるケースもありますが、在職中の従業員から団体交渉が申し入れられた場合と同様に取り扱う必要があります。

団体交渉を拒否できるか?

従業員の加入する労働組合から団体交渉を申し入れられた場合、使用者は団体交渉を拒否することができるでしょうか?

法律上の規制

団体交渉は一般に力関係で劣る労働者に使用者と対等な立場で協議を行わせようとするものですので、法的に厚く保護されています。

憲法第28条は「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」として、従業員が団体交渉を行うことを憲法上の権利として認めています。
また、憲法第28条を受けて制定された労働組合法は、その第7条2号において「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止しています。

仮に使用者が正当な理由なく団体交渉を拒んだ場合、労働者は労働委員会に救済の申出をすることができ、労働委員会が労働者の申出に理由があると判断した場合には使用者に対して不当な状態を是正するよう救済命令が出されます。
確定した救済命令に使用者が従わない場合には、労働組合法第32条により、使用者は50万円以下(ただし、救済命令が使用者に何らかの行動を命じるものである場合には、使用者が救済命令を受けた日の翌日から数えて使用者が当該命令に従わない日が5日を超える部分について1日10万円として算定した金額を50万円に加算した金額以下)の過料の支払いを命じられることになります。
※ 救済命令に不服がある場合、使用者は救済命令の取消しを求める訴訟を提起することができます。ただし、当該訴訟において裁判所が労働委員会の判断を支持し、救済命令を維持する内容の判決が確定した後に救済命令に従わなかった場合、使用者は1年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金を科される(場合によってはその双方が科される)可能性があります。

また、使用者の対応が不当労働行為と判断される場合、使用者は従業員から民事上の損害賠償責任請求を受ける可能性があります。

団体交渉を拒否することの是非

上記のとおり、使用者が従業員から申し入れられた団体交渉を拒否した場合のデメリットは大きく、原則として、使用者は従業員から団体交渉の申し入れを受けた場合にはそれを拒否すべきではないということになります。

例外的に団体交渉を拒否できる場合

従業員から申し入れられた団体交渉には誠実に対応するということが使用者としての基本的なスタンスとなりますが、以下のケースでは使用者が従業員からの団体交渉を拒否する正当な理由があるものとして、例外的に団体交渉を拒否できる場合があります。

・正式な団体交渉の申入れと認められないケース
→労働組合と関連する組織であるものの、実態は単なる労働組合の連絡機関に過ぎない組織から団体交渉の申入れがなされた

・組合員の労働条件に関する団体交渉であるか否かが不明確であるケース
→労働組合が組合員数を明らかにしない状況で、賞与や手当の支給について団体交渉を申し入れてきた
→従前、正社員のみで組織していたが、試用期間中の従業員が大量に加入した労働組合について、組合員構成を明らかにしない状況で、使用期間中の従業員の本採用を求める団体交渉を申し入れてきた

・団体交渉の実施が業務に多大な支障を及ぼすケース
→ある職場の組合員全員が毎月10回に及ぶことがある業務時間中の団体交渉に参加し、都度、3時間以上職場を離れるという状況であった

・団体交渉にあまりに多人数の参加を要求するケース
→団体交渉に参加する従業員について、労働組合の主要ポストに就いている従業員のみならず、その他の組合員全員の参加を執拗に求めてきた

・労働組合が要求する団体交渉の日時が使用者側参加者や代理人の都合とあわないケース
→使用者側の労働組合参加者の病気や社内の重大行事に団体交渉の日時が重なる
→使用者が団体交渉対応を依頼した弁護士の都合があわない

・労働組合側の団体交渉における態度や対応が悪質であるケース
→労働組合側の従業員が会社側の参加者を罵倒し暴言を吐く
→常識的な範囲を超えて長時間にわたる団体交渉を強要する
→労働組合側の従業員が机を叩くなどの威嚇的行動を取る
→労働組合側の従業員が直接的な暴力に訴える

・団体交渉に他社が介入するケース
→労働組合側が同業他社の従業員を同席させようとする
→子会社の従業員が団体交渉を申し入れてきた

・団体交渉における議論が袋小路となり交渉における解決が期待できないケース
→同じ議題について何度も団体交渉を重ねてきたが、双方、これ以上の譲歩の余地がないにもかかわらず、同内容の団体交渉を申し入れてきた

団体交渉を拒否すること以外の問題行動

使用者は従業員から申し入れられた団体交渉に応じてさえいれば問題がないというわけではありません。
団体交渉に関連する使用者の従業員対応が従業員に対する不当労働行為を構成する場合もあります。

従業員が労働組合に加入したことに起因する不利益取扱い

これは労働組合法第7条1号の不当労働行為に該当します。
ある従業員が労働組合に加入したことを理由に、当該従業員を解雇する、降格させる、給料を減らす等の行為をすることはできません。

労働組合への不加入や労働組合からの脱退の強要

これも労働組合法第7条1号の不当労働行為に該当します。
従業員を雇用する際、労働組合に加入しないことや既に加入している労働組合から脱退することを内容とする雇用契約(いわゆる「黄犬契約」)を締結することはできません。

労働組合への支配介入

これは労働組合法第7条3号の不当労働行為に該当します。
使用者が従業員が労働組合を運営する際に必要となる経費等について過度な援助を行うことで資金面から労働組合をコントロールしようとすることはできません。

従業員が労働委員会へ救済命令の申立て等をしたことを理由とする不利益取扱い

これは労働組合法第7条4号の不当労働行為に該当します。
使用者の対応を不当労働行為と判断した従業員は労働委員会に対して救済の申立てをすることができますが、従業員がそれをしたことに起因して労働組合に参加する従業員を解雇等することはできません。

まとめ

今回は労働組合から申し入れられた団体交渉を使用者として拒否できるか等について解説をしてきました。
使用者として団体交渉に対応するには多大な労力を必要としますが、団体交渉が従業員の権利として認められている背景や団体交渉を正当な理由なく拒否した場合の使用者側のデメリットを考えた場合、団体交渉には誠実に対応すべきであるという結論になります。
従業員との労働紛争を抱えているケースでは不意に労働組合から団体交渉の申入れがなされないとも限りません。

ご相談 ご質問グリーンリーフ法律事務所は、地元埼玉で30年以上の実績があり、労働分野について専門チームを設けています。ご依頼を受けた場合、労働専門チームの弁護士が担当させていただきますので、労働組合からの団体交渉申入れでお悩みの場合、まずは、一度お気軽にご相談ください。
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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
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