製造業などの企業が、工場・事業所の屋根を太陽光発電業者に貸し、その後、太陽光発電業者が破産してしまうことがあります。屋根の賃貸の場合、屋根を無償で貸し低額の電力を供給してもらう場合の2つに分けて、破産法上の取扱いを検討してみました。

一 太陽光関連業者の破産

ここ6〜7年、太陽光関連業者(太陽光発電設備の製造、販売、賃貸、設置工事、コンサルなどを行う業者)の倒産が増えています。例えば、2020年の倒産件数は84件、2021年の倒産件数も同じく84件です。倒産には、破産、民事再生、任意整理などが含まれますが、ほとんどの場合は破産手続きをとっています。
近年、倒産が増えている理由は、電気の買取価格が大幅に低下した、海外から安価な太陽光パネルが流入しているなどの理由によるようです。

二 屋根を太陽光発電業者に貸した後に、太陽光発電業者が破産した場合

企業とくに製造業関係の企業が、自社の工場、営業所などの屋根を太陽光発電業者に貸す場合があります。これにも、いろいろな契約の形態があると思いますが、①屋根を賃貸する場合、②屋根を無償で使わせ、その代わり、太陽光発電設備からの電力を安く供給してもらう場合、の2つの形態が多いように思います。
この両者について、太陽光発電業者が破産した場合の処理を考えてみます。

1 2の①の場合

⑴ 屋根の賃貸借をする場合

企業が太陽光発電業者と屋根の賃貸借契約を結び、自社の工場などの屋根を賃貸します。屋根の賃貸であり建物の賃貸ではないので、借地借家法の適用はありません。また、建物の賃貸借と同様に、賃料の6ヶ月分〜1年分の保証金をもらう場合が多いと思われます。

⑵ 破産管財人による賃貸借契約の解除

賃借人が破産した場合なので、破産法53条が適用され、太陽光発電業者の破産管財人は、賃貸借契約を解除するか、賃料を払い続けて賃貸借契約を継続するすることになります。賃貸借契約を継続する場合は、賃料は財団債権といって、最優先で支払いを受けられる債権になります。
しかし、破産管財人としては、屋根の賃借を続けて賃料を払い続けても意味がありませんので、ほとんどの場合、賃貸借契約の解除を選択することになります。

※ 破産法53条では、双務契約(双方が債務を負う契約)について、破産者(太陽光発電業者)とその相手方(企業)が、破産手続開始の時において、ともに債務の履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、または破産者の債務を履行して、相手方の債務の履行を請求することができると定めています。
賃貸借契約は双方が債務を負う契約ですし、破産手続開始の時において、太陽光発電業者は賃料を支払うという債務を完了しておらず、企業は屋根を賃貸するという債務を完了していないので、破産法53条が適用されることになります。

破産管財人が、どちらを選択するのかはっきりしない場合、賃貸人である企業としては破産管財人に対して、相当の期間を定めて、解除か継続かを催告することができ、破産管財人が期間内に回答しないときは、契約の解除をしたものとみなされます。

※ 破産法53条では、相手方(企業)は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、または債務の履行を請求するかを確答するよう催告することができる。この場合に、破産管財人がその期間内に確答しないときは、契約の解除をしたものとみなすと定めています。

⑶ 解除後の手続

破産管財人が解除を選択した場合、破産管財人は太陽光発電設備を撤去して原状回復し、保証金についてはその返還を受けることになります。賃貸人の企業は、保証金の返還債務と未払い賃料などと相殺することができます。
また、破産管財人が原状回復するまでに発生する賃料については財団債権といって、最優先で支払いを受けられる債権になります。

ただ、原状回復するまでの賃料が財団債権になるといっても、破産財団にほとんどお金がないという場合は、破産管財人は、原状回復をすることも、財団債権である賃料の支払いをすることもできず、結局、賃貸人である企業が自分の費用で太陽光発電設備を撤去しなければならないことになります。

このような場合、賃貸人である企業は大きな損害を被りますから、このような損害に対処したいということであれば、賃料の6ヶ月〜1年分の保証金ということではなく、太陽光発電装置の撤去を念頭に入れた、もっと多額の保証金を取ることが必要になってきます。

2 2の②の場合

⑴ 太陽光発電装置からの電力を安く供給してもらう場合

企業が自社の工場などの屋根を無償で使わせ、その代わり、太陽光発電設備からの電力を安く供給してもらいます。

⑵ 太陽光発電業者が破産した場合の処理

この場合も、企業は屋根を無償で使わせる債務、太陽光発電業者は、契約で決まった値段(通常よりも安い値段)の電力を供給するという債務を負っているので、双務契約になると考えられ、また、破産手続開始の時において、太陽光発電業者は契約で決まった値段で電力を供給するという債務を負っており、企業は屋根を無償で使わせるという債務を負っているので、破産法53条が適用されると考えられます。

しかし、破産管財人としては、契約を続けても意味はないし、また、契約を続けることもできないので、2の①の賃貸借の場合と同様に、賃貸借契約の解除を選択することになります。

破産管財人が、どちらを選択するのかはっきりしない場合、企業としては破産管財人に対して、相当の期間を定めて、解除か継続かを催告することができるのは、2の①のとおりです。

⑶ 解除後の手続

これも2の①の場合と同様です、破産管財人が解除を選択した場合、破産管財人は太陽光発電設備を撤去して原状回復しなければなりません。
ただ、破産財団にほとんどお金がないという場合は、破産管財人は、原状回復をすることはできませんから、結局、企業が自分の費用で太陽光発電設備を撤去しなければならないことになります。

この2の②の場合は、企業は太陽光発電業者から保証金を取っていることも、取っていないこともあるかもしれませんが、取っている場合は、企業は、保証金の返還債務と原状回復費用とを相殺することが考えられます。
原状回復費用が多額になることが考えられるときは、太陽光発電装置の撤去を念頭に入れた、多額の保証金を取ることが必要になってきます。

3 太陽光発電装置を取得する場合

2の①の場合でも②の場合でも、企業が破産管財人から太陽光発電装置を有償あるいは無償で取得しようとすることが考えらます。破産管財人からすれば、多額の費用をかけて太陽光発電装置を撤去しなければならなかったところ、企業が有料あるいは無償で取得してくれるというのですから、多くの場合、破産管財人は太陽光発電装置の譲渡に応じると考えられます。

ただ、太陽光発電装置を取得しても、その後、企業はメンテナンスを受けられず、将来、太陽光発電装置を使わなくなったときは、自らの費用で設備を撤去しなければならないので、利害をよく考えて、このような申し出をすることが必要と考えられます。

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■この記事を書いた弁護士
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代表・弁護士 森田 茂夫
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