会社(法人)の資金繰りの悪化などから、破産をやむなしの状態になり、会社経営者の方は、取引債権者への懸案だった支払をしないことを覚悟しますが、一方で、従業員への対応をどのようにすればよいのかと悩みます。
破産申立にあたって、従業員を解雇したり、自ら退職してもらうのがよいのか。
会社の自己破産の方針を決めたら、その後、従業員への給与の支払いはどうなるのか。破産手続きが開始されたらどうなるのか。
従業員の社会保険料の滞納があるがどうしたらよいのか。従業員の住民税の特別徴収分も滞納している場合はどうなるのか等々、代表者の方の悩みは尽きません。
多くの経営者・代表者の方から、法人破産のご相談の際に質問を受ける内容をまとめました。ご参考にしてください。

1 会社従業員の雇用関係、解雇の要否、解雇する場合の配慮

(1)従業員の解雇の選択

① 即時解雇(原則)

破産申立の方針とした場合、破産管財人が事業を継続する場合(破産法36条)を除いて、通常は会社事業を廃止することになります。
よって、雇用を継続する理由はありません。
したがって、原則として、即時解雇を選択すべきとの判断になります。

② 例外

ただ、完成間近の仕掛工事などがあって、完成すれば相応の報酬が得られる見込みがある場合には、全従業員を解雇するのではなく、必要人員を確保するため、即時解雇ではなく、解雇予告による方法も考えます。
業務に必要な期間のみ雇用継続し、残りを解雇予告手当で対応することを検討することもあります。

(2)給与、退職金、解雇予告手当などの労働債権について

① 解雇予告手当

従業員の任意の退職ではなく、会社側から解雇する場合には、解雇予告手当の支払いが必要になる場合があります。
解雇日より30日以上前に解雇予告をしておけば、解雇予告手当を支払う必要はありませんが、会社の倒産、ひいては自己破産申立をすることが必至であることが取引債権者に知られてしまう不都合があり、スムーズな破産申立が困難となりかねません。
廃業(自己破産申立方針の決定)、従業員の解雇などのスケジュールについても、弁護士と協議し、決定することになります。
この解雇予告手当とは、会社が従業員を解雇する場合には、解雇日から30日以上前に解雇予告をするか、又は、解雇予告日から解雇日までの日数に応じて、一定の金銭を支払わなければならないとされる、この金銭のことです。これは労働基準法が定めています。
解雇予告手当は、解雇予告日から解雇日までの日数に応じて計算します。
解雇予告日が解雇日から30日以上前であれば解雇予告手当は発生しません。一日あたりの金額は、「直前3カ月内に支払われた賃金総額÷その3箇月の総日数」で計算します。

② 支払資金に余裕がある場合の、賃金、退職金、解雇予告手当の支払の当否

会社(法人)については、自己破産の申立をする、また、その方針を決定しますと、従業員は突然収入の途を失います。
会社(法人)に支払資金の余裕があり、その存否やその額に疑義がないのであれば、賃金、退職金、そして、解雇予告手当のすべてを支払っておくべきと考えます。
ところで、会社(法人)においては、一人親方などの下請け職人を急遽雇用関係に切り替える必要があり、そうすると、その社会保険料負担による、元職人の方が従業員となった場合の手取り額の減額の変動の受け入れに難色を示すという事案において、同経営者が社会保険料負担を不適切に減額している事案に遭遇しました。
その際には、解雇予告手当の再計算が必要であると想定されましたことから、申立前には従業員らには支払わず、その再計算、そして、支払いは破産管財人に委ねた事案があります。
会社代表者・経営者の方には、破産申立(準備)に当たっては正直に、そして正確な情報提供をお願いすることになります。

③ 支払資金に余裕がない場合

資金繰りに窮した会社(法人)では、従業員に対する賃金、退職金、解雇予告手当などの労働債権を解雇時に全額を支払うことができない場合があります。
未払の解雇予告手当、賃金、退職金は、破産手続においては、財団債権(破産法149条)または優先的破産債権(破産法98条1項、民法308条)となって、一般の破産債権に先んじて、支払われること(但し、それらの支払い原資となる破産財団形成の十分な見込みが乏しいということが予想される事案もあります)や、労働者健康安全機構の未払賃金立替制度について、従業員に説明することになります。
なお、解雇予告手当は、この立替払制度の対象ではありませんので、このことの説明もします。

(3)従業員を解雇するにあたって、使用者である会社(法人)が行うべき様々な手続き

① 解雇通知書の交付

会社(法人)が解雇を行う場合には、従業員宛の解雇通知書を作成します。
これには、解雇日と解雇の理由を記載し、その通知書の受取の記録を残します。直接手渡しで交付できるのが望ましいです。
会社本社と事業所が離れていて、郵便での交付となる場合には、配達証明などを利用して発した事案があります。

② 離職証明書などの提出、離職票の交付

従業員に対しては、速やかに失業保険(雇用保険)が受けられるようにしなければなりません。
従業員が雇用保険の受給を受けるためには、離職票を職業安定所(ハローワーク)に提出して、手続きをとらねばなりません。
会社経営者は、従業員が速やかに雇用保険手続が取れるよう、解雇後速やかに、雇用保険被保険者離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届を作成し、ハローワークに提出します。これにより、離職票がハローワークから交付され、これを従業員に交付します。
そして、使用者である会社(代表者)は、ハローワークに雇用保険適用事業所廃止届を提出します。
これらの手続きをスムーズに行うために、会社総務の方や、社外の社会保険労務士、場合によっては税理士の方の協力を求めることが多いです。もちろん、有償の業務となりますので、お支払いさせていただきます。

③ 社会保険関係

解雇により、従業員は社会保険・厚生年金の被保険資格を喪失します。
使用者は、解雇手続きを行う際に、あるいは、解雇後速やかに、従業員の被扶養者分も含めて、健康保険証を回収します。
健康保険・厚生年金保険被保険資格喪失届、適用事業所喪失届を年金事務所に提出します。
従業員に対しては、解雇手続きを行う際に、国民健康保険・国民年金への切り替えや健康保険の任意継続などの説明をします。
次の就業先が決まっている方に対しては、同所で社会保険に加入してもらうよう説明します。

④ 住民税関係

会社が行っていた住民税の特別徴収から、普通徴収に切り替える異動届を各市町村に提出することになります。

⑤ 源泉徴収票の交付

源泉徴収票についても、解雇と同時か、解雇後速やかに渡せる準備をします。

(4)従業員を解雇する際のその他に留意すべきこと

① 会社(法人)の自己破産申立て(予定)の守秘

会社が使用者として、従業員に解雇を告げる際には、会社の破産申立て予定を説明することになります。その際には、従業員に、破産申立(予定)の事実を守秘してもらうよう指示します。

② 従業員への貸与品の返還、従業員私物の持ち帰り

従業員に預けたもの(会社貸与の携帯電話、車のカギ―、給油カード、ETCカードなど)がある場合には、それらも回収する必要がありますし、解雇後の従業員がこれまでのように、事業所や工場などへの出入りもできなくなりますことから、ドアの鍵や入館カードは返還してもらい、また、私物は持ちかえってもらいます。

2 従業員の社会保険料の滞納している場合と会社(法人)の自己破産

(1)会社(法人)の自己破産による支払義務

会社が従業員の社会保険料の滞納をしていた場合、会社が破産手続をとった場合、その支払い義務はどうなるのでしょうか。
会社(法人)に対して、破産手続開始がなされた場合、会社の解散事由(会社法471条5号など)に該当しますことから、破産手続終了により、法人格が消滅すれば、債務も消滅します(最高裁平成14年3月14日判決)。
よって、会社(法人)の未払い社会保険料の支払義務は消滅します。

(2)従業員の、会社滞納社会保険料の支払義務如何

この納付義務を負っていたのは会社(法人)ですから、滞納していた社会保険料の労働者負担分を改めて従業員が支払う必要はないとされています。

3 従業員の住民税特別徴収分を滞納している場合と会社(法人)の自己破産

(1)会社(法人)の自己破産による支払義務

会社(法人)が破産すれば、従業員の住民税の特別徴収はできなくなります。
会社(法人)は、管轄の市区町村役場に、給与所得者異動届を提出します。
従業員に対しては、従業員自らが住民税を支払う普通徴収への変更となることを説明します。
会社(法人)が破産した場合に、滞納している特別徴収分の支払義務も、上記と同じく、破産手続の終了により、その支払い義務も消滅します。

(2)従業員の、会社滞納特別徴収分の住民税支払義務如何

この場合、会社が滞納していた特別徴収分を改めて従業員が支払う必要はありません。

4 会社(法人)が破産する場合、取締役への報酬支払について

(1)会社取締役の役員報酬の取扱い

会社(法人)が破産する場合、会社の取締役への報酬も、従業員に対する賃金などの支払いと同様に、優先的な扱いを受けるのでしょうか。
会社の取締役の役員報酬は、会社と当該役員取締役との間の委任関係に基づくものです。他方、従業員の賃金は会社との雇用契約によるものです。
役員報酬は賃金とは異なりますので、優先的な取り扱いはされません。
他の借入金などの破産債権と同様に扱われます。
なお、経営を担っていた取締役が、役員報酬未払い分の支払請求権を破産債権として届けるかは別の問題があります。

(2)会社(法人)が破産手続をとる前に、役員報酬を支払うことの是非

会社役員の報酬請求権は、破産法上、優先的な効力がありません。
他の支払いをせずに、役員に対する報酬のみを支払うことは、特定の債権者に足する偏波不公平な弁済として、破産管財人による否認権行使の対象となります。
よって、支払うことは叶いません。

(3)役員報酬についての立替払制度の利用の可否

役員報酬については、国の立替払制度の対象ではなく、利用できません。

(4)会社役員報酬の立替払制度が利用できない場合、どうしたらよいか。

会社(法人)が破産する場合、会社代表者や役員の収入がなくなるという場合には、この方々の家族・親族からの扶養も万全でなければ、速やかに再就職先を探してもらうことになります。
また、年齢、体調などの理由から就業先確保が困難である場合には、福祉利用(生活保護など)を検討してもらうことになります。

5 まとめ

会社(法人)の自己破産を決断される企業経営者(会社代表者)は、会社の取引先債権者様への対応以上に、会社(法人)が破産した場合の、会社従業員への申し訳なさと、その将来の生活不安を心配されています。
会社は破産手続によってきちんとたたまれます。
あわせて、会社従業員の給与、社会保険関係、従業員住民税の特別徴収関係も適切に対応可能です。
取引先、従業員に誠実に向き合う会社代表者の方に対して、法人の破産申立や管財事件における管財人職務の経験豊富な弁護士の所属する当事務所では、適切なアドバイス、対応が可能です。是非ともご相談・ご依頼ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉
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