近年、メンタルヘルスという言葉の認知度が上がり、その重要性が高まってきています。
それに伴い、企業が従業員のメンタルヘルスを守ることも重要になってきています。
このコラムでは、従業員のメンタルヘルスについて、企業が留意するべきことを解説します。

1 メンタルヘルスとは?

メンタルヘルスとは、直訳すると、「心の健康」という意味の言葉です。
一般的には、心(精神)の健康状態を指す言葉として使われています。
体の不調は、外からも見た目などでわかりやすいものが多く、不調がある場合には気づきやすいことが多いです。
しかし、心の不調の場合、直接体調や見た目には現れないものもあり、気付いた時には不調が深刻になってしまっていることがあります。
また、心の不調の場合、完治しない病気もありますし、場合によっては、取り返しのつかないほど症状が深刻になってしまうこともありますので、体の場合と同様、メンタルヘルスを健康に保つことは非常に大切なことなのです。

近年、心療内科の受診数が増えたこと等もあり、メンタルヘルスへの関心が高まっています。
特に、新型コロナウイルスの流行により、在宅勤務・テレワークが増えた影響で、他の従業員との交流の機会が減り、メンタルヘルスを崩す従業員が増えているということもあります。
従業員のメンタルヘルスを維持することは、企業にとっても非常に重要です。

また、セクハラ・パワハラ等の各種ハラスメントが社会問題となり、社会的関心が高まっていますが、ハラスメントもメンタルヘルスに強い関係を有するものであるため、メンタルヘルスについても関心が高まっています。

2 従業員がメンタルヘルスを崩した場合のリスク

(1)業務効率が低下するリスクがある

メンタルヘルスを崩している従業員は、業務への集中力が低下することが多く、その結果、業務効率が下がってしまうことがあります。
従業員の業務効率の低下は、当該従業員のみならず、所属する部署全体ひいては企業の業務効率の低下にもつながりかねません。

(2)企業が法的責任を負うリスクがある

従業員が精神に不調をきたした場合、企業に安全配慮義務があるとして、企業が従業員に対し、損害賠償責任を負う可能性もあります。
通常、企業は従業員との間で雇用契約(労働契約)を締結していますが、その契約上の義務として、使用者である企業は、労働者である従業員に対し、安全配慮義務という義務を負います。

裁判例などでは、「労働者が労務提供のために設置する場所、設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するように配慮する義務」(最高裁昭和59年4月10日)とされています。
簡単に言いますと、企業には、従業員の生命・身体を保護する義務があるということです。

つまり、業務に関連して従業員がメンタルヘルスを崩した場合、企業が安全配慮義務違反を理由として損害賠償責任を負ってしまう可能性があるのです。
例えば、ある従業員から他の従業員へのパワハラ等のハラスメントがあり、ハラスメントを受けた従業員がメンタルヘルスを崩してしまった場合や長時間労働などが原因で従業員がメンタルヘルスを崩してしまった場合など、企業がするべきことをしていなかったなどと判断されると、損害賠償責任を負ってしまう可能性があるのです。
そのような事態を避けるためにも、3で述べる対策を行うことが重要です。

(3)企業のイメージが低下するリスクがある

ハラスメントや長時間労働などにより従業員がメンタルヘルスを崩してしまい、そのことが報道などにより、社会的に明らかになった場合、その企業のイメージが低下してしまうリスクがあります。
そのようなリスクは、企業の業績の低下にもつながってしまう可能性もありますので、そのような事態を避けるためにも、3で述べる対策を行うことが重要です。

3 従業員のメンタルヘルスを健康に保つためにできること

(1)相談窓口の設置

従業員がメンタルヘルスに不調を感じた場合に、気軽に相談できる窓口を設置することも従業員のメンタルヘルスを維持するために重要な手段です。
相談窓口を設置する場合、メンタルヘルスに不調があるということはセンシティブなことであり、他人には知られたくない類の情報ですので、相談者の匿名性を確保する措置をとることが重要です。
社内の人を担当者にすることも考えられますが、担当者が外部の第三者であれば、従業員はより一層安心して相談できるでしょう。

これに加えて、相談窓口への相談から医療機関や産業医へのアクセスを整備することで、さらに実効性を上げることができるでしょう。

(2)研修・講習の実施

医師やカウンセラー、臨床心理士等の外部の講師を招いてメンタルヘルスについてのセミナーを社内で実施することもメンタルヘルス維持のための有効な手段の一つです。
それ以外にも、場合によっては、弁護士や社労士など、労務の専門家を招き、メンタルヘルスを巡る法律問題等についてのセミナーを実施することも考えられます。
昨今は、メンタルヘルスへの関心が高まっており、メンタルヘルスに関する書籍等もたくさん出版されておりますので、それらを従業員に周知することも効果的でしょう。

また、これに関連して、従業員の勤怠管理を行う管理職を対象に、メンタルヘルスに関するセミナーを開催することも考えられます。
従業員に対し、メンタルヘルスについて周知したとしても、管理職でない従業員では、なかなか自分の勤怠を管理することは難しいですので、管理職に対しメンタルヘルスの啓発を行うことで、従業員がメンタルヘルスを崩しにくい職場環境を作ることができるでしょう。

(3)労働時間・勤務態様の見直し

長時間労働によりメンタルヘルスを崩すことは多々あります。一定の退勤時刻を超えた場合には、報告を求め、それが続くようであれば、業務量を減らす等の措置をとることが考えられます。
年次有給休暇等の休暇制度は、メンタルヘルスの向上のためには重要な意味を持ちます。そのため、従業員が年次有給休暇を気軽にとれるような環境を整備することも重要です。

また、新型コロナウイルスの流行に伴い、テレワーク(在宅勤務)が増えていますが、テレワーク(在宅勤務)により他人との交流が減ったことで、従業員が精神に不調をきたしてしまうというケースを耳にすることがあります。
このようなケースもありますので、テレワークに関する希望について従業員の意見を聞き、出社か在宅かを柔軟に選べるようにすることも、このご時世では重要になっています。

(4)産業医や保健師などの活用

企業によっては、企業内に産業医や保健師を置いている企業もあります。そのような企業では、産業医などへの相談等を積極的に従業員に周知することも有効な手段です。
産業医を置いている場合、メンタルヘルスに不調をきたしている従業員は、必要があれば、産業医との面談・指導を受けることができますし、場合によっては、外部の医療機関への紹介等もスムーズに受けることができます。

(5)復職制度の充実

メンタルヘルスを崩す従業員が出ないように事前に対策を行うことも重要ですが、万が一、メンタルヘルスを崩してしまった従業員が現れた場合に備えて、事後的な対策を立てておくことも重要です。産業医や衛生管理者、保健師などの産業保健領域の専門家との面談や、復職支援プログラムの提供など、復職までの一連の流れをフォローすることが求められます。

また、従業員がメンタルヘルスを崩した原因が、特定の従業員からのハラスメントである場合、当該従業員が職場復帰後に、再びメンタルヘルスを崩さないように対策をとることも重要です。
例えば、ハラスメントが原因である場合、調査委員会を立ち上げる等して、ハラスメントに関する事実関係を詳細に調査し、事実関係を明らかにすることが重要です。
調査の内容としては、ハラスメントの当事者から事実関係のヒアリング(聴き取り)を行い、調査報告書を作成するということが考えられます。
場合によっては、弁護士などの専門家を入れることも考えられます。
なぜ、そのようなハラスメントが起こってしまったのかという根本的な原因を明らかにし、ハラスメントが起こらないような職場環境を整えることが重要になります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 権田 健一郎
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