本稿では、中小企業の事業承継(親族内承継、従業員承継、第三者承継)に関する支援策を紹介するとともに、万が一事業承継がうまく行かず、債務超過となった場合には、破産という形で事業を閉じるのも経営者としての最後の務めであることを弁護士が解説していきます。

事業承継は重大な問題

少子高齢化社会を迎えて久しい現在、事業承継は中小企業の経営者にとって重大な問題です。
先代から引き継いだ事業であれ、裸一貫から一代で開拓してきた事業であれ、それまで経営者が築き上げてきたものを、誰に、どのように引き継ぐか―――。

経営者としては、できれば自分と理念を同じくする後継者に会社を託したいと願うでしょう。
白羽の矢を立てた後継者候補がいたとしても、すぐに経営全般を任せるわけにはいかず、その育成に十年単位のスパンで時間がかかることがあるかもしれません。

また、会社は経営者だけのものではなく、そこで働く従業員や取引先、融資を受けている場合の金融機関、株主など、会社を取り巻く多くの利害関係者が存在します。
事業承継がうまく行けばよいですが、万一失敗した場合には、これら多くの利害関係者にも重大な影響を与えることになります。
最悪のケースでは、会社を畳まざるを得ず、従業員を解雇しなければならなくなったり、取引先の連鎖倒産を引き起こす事態もあり得ます。

以下、事業承継の主な方法を見ていきたいと思います。

事業承継の方法 ①親族内承継

親族内承継とは経営者の親族の誰かに事業を引き継いでもらう方法です。

中小企業では最もオーソドックスな方法であり、取引先や金融機関担当者との顔つなぎがしやすい、経営者の苦労を傍で見てきた分企業理念の共有がしやすいという点でも、比較的好まれる方法と言えます。

ただし、会社の経営権と直結する株式の相続に関して、後継者と他の相続人との間で争い(特に遺留分侵害額請求に関する争い)が生じないよう留意する必要があります。

事業承継の方法② 従業員承継

従業員承継とは、経営者の親族以外の従業員に事業を引き継いでもらう方法です。

経営者の親族が会社の経営にタッチしていない、経営者に後継者候補となるような子供がいないなどの場合には、経営者とともに中心となって会社を回してきた古株の従業員などに、次の代を任せるということがよくあります。

この従業員承継の方法では、経営者の連帯保証債務(会社を主債務者とするもの)の解消と、後継者による連帯保証債務の承継がスムーズにできるかどうかが一つのポイントとなります。

事業承継の方法③ 第三者承継

社内の人間(親族、親族以外の従業員)に事業を引き継いでもらうのではなく、社外の第三者に事業を引き継いでもらうのが第三者承継です。
“М&A”など、聞いたことがあると思います。

“М&A”と言うと大企業だけの話と思われるかもしれませんが、中小企業であってもこの形で事業承継している例は決して少なくありません。

 

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事業承継の支援策

事業承継を考えた際、身近なところでは、取引のある金融機関や商工会議所などが相談に乗ってくれると思います。

また、中小企業の円滑な事業承継を支援するための施策として、次のようなものがあります。

■事業承継・引継ぎ支援センターによる相談事業
独立行政法人中小企業基盤整備機構が手掛ける事業で、全国47都道府県で利用できます。事業承継全般に関する相談や事業承継計画の策定を支援してくれます。

■事業承継・引継ぎ補助金の制度(令和5年4月現在)
中小企業庁の所管する制度で、事業承継・引継ぎ後の設備投資や販路開拓などの費用、再チャレンジを目的とする廃業時の在庫廃棄費用、解体費などに補助金が支給されます。

■日本政策金融公庫などの融資・信用保証など
経営承継円滑化法に基づく金融支援策で、都道府県知事の認定を受けることを条件に、融資と信用保証の特例が利用できます。

■事業承継時の経営者保証解除支援
経営者保証コーディネーターが、経営者保証の解除に向けて、経営者・後継者に二重の保証を求めないことを原則とする「経営者保証ガイドライン」の充足状況の確認や金融機関とのやり取りをサポートします。

もしも事業承継が失敗してしまったら

これまで、中小企業の事業承継の方法や支援策について説明してきました。
しかしながら、事業承継を希望する全ての会社が事業承継に成功するとは限りません。

例えば、「従業員承継をしようとしたが、経営者から後継者候補への株式の譲渡価格で折り合いがつかない。または、譲渡価格の折り合いはついたものの、高額な取得費用を後継者候補が工面できない」ということもあるのです。

事業承継に失敗してしまった、つまり、事業承継できなかった場合には、会社は現在の経営者の代で経営を終える廃業を考えることになります。

“廃業=破産”というわけではありませんが、会社がたとえ利益を出していたとしても、債務超過の状態に陥っている場合には、破産を選択せざるを得ないでしょう。

会社を破産させる場合は弁護士にご依頼を

経営者としては、これまでの人生を捧げて成長・発展させてきた事業を破産という形で閉じることにつき、忸怩たる思いがあるかもしれません。

しかしながら、先に述べたように、会社は経営者だけのものではなく、そこで働く従業員や取引先、金融機関、株主など、多くの利害関係者が存在します。
事業承継に失敗し、債務超過の状態を解消する見込みのないまま漫然と経営を続けてしまうと、かえって、これら多くの利害関係者に多大な迷惑をかけてしまう事態ともなりかねません。

例えば、取引先の連鎖倒産です。
中小企業や零細企業の中には、ある特定の取引先から入ってくる売上げが、その会社の売上全体に対して大きな割合を占めるということが少なくありません。
そのような中で、その「ある特定の取引先」が急に破産してしまうと、そこからの支払いがストップすることで、その会社も急激に経営状態が悪化し、最悪の場合はその会社もまた破産をしなければならなくなってしまいます。

また、会社で働く従業員にとって、勤務先の破産はまさに死活問題です。
会社が破産するということは突然職を失うことを意味しますし、そうなれば、従業員本人のみならず、その家族の生活にまで影響を及ぼすことになるでしょう。

そこで、これらの利害関係者に与える不利益が最小限になるよう、適切なタイミングで事業を閉じる決断をし、会社を破産させることが、経営者に残された最後の務めであるとも言えるのです。

なお、それまで生きて動いていた会社の営業をストップし、破産という法的手続きを取るには、専門家である弁護士の関与が必要不可欠です。
弁護士は、経営者と相談のうえ営業を停止する日を決めたり、債権者や取引先、従業員への対応をどうするか、適切に判断することができます。

弁護士関与のもと、適切なタイミングで破産申立てをすることが、ひいては、債権者や取引先を始めとする利害関係者にかける迷惑を最も少なくすることにつながるのです。

事業承継がうまく行かず、資金繰りも難しくなってきて、今後も赤字が解消する見込みがないという経営者の方は、お一人で悩まず、是非、一度弁護士にご相談下さい。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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