弁護士が解説:販売委託契約のチェックポイント

販売委託をし、販売力のある会社に製品を売ってもらう、あるいは製造会社から委託を受けて製品を売るということは多いと思います。ただ、販売委託契約にもいろいろなものがあり、自社に不利にならないよう気を付けることが必要です。問題になる条文とそれに対するコメントをつけてみました。

一 はじめに

販売委託をする場合、あるいはされる場合、販売委託契約を結ぶことになります。この契約の中で問題になることが多い条文をあげ、それに対するコメントを述べてみました。

二 販売委託契約で問題になる条文

二 販売委託契約で問題になる条文

1 異議申立ての時期

① 条文例

乙がこの条件書を受領した後に直ちに異議を申し立てないときは、新条件書の内容を承諾したものと取り扱われるものとする。

② コメント

直ちに異議を言わないと新条件を承認したことになりますが、どこまでが「直ちに」になるのか争いになることもあり得るので、「●日以内」のようにした方がよいと思います。

2 効力発生時期

3 事前通知の期間

① 条文例

条件書の効力は、当該各号に定める時期に生じるものとする。

・ 条件書を郵送に付した日から起算して2日目が到来した時

② コメント

郵便を出した時から2日すると、まだ、乙についていなくても、着いたことになります。郵便が乙に着いたときからの方がよいと思います。

3 事前通知の期間

① 条文例

事前通知を行なったうえで乙の営業所等に対する立入調査を行うことができる。

② コメント

ここは、「●日前までに事前通知を行ったうえ」として、事前通知の期間を明確にした方がよいと思います。

4 対価の決定

4 対価の決定

① 条文例

甲は、乙の本件業務の対価として条件書にて定める本件業務手数料を、毎月末日で締切り集計したうえでその翌月末日(末日が金融機関の休業日となるときはその前営業日)までに乙の指定する金融機関口座に振り込むことにより支払うものとする。

② コメント

条件書で手数料を定めると、条件書を変更すれば手数料を変更できることになります。そして、前述のように、条件書の変更に対しては、乙は「直ちに」異議を言わなければ条件書の内容を承諾したことになりますし、郵便の場合、郵便を出した時から2日で乙に着いたことになりますから、郵便が遅れれば、異議を言う機会も失われかねません。

手数料の算定は、条件書ではなく、この契約書で決めておいた方がよいと思います。

5 相殺の権利

① 条文例

甲は、弁済期の到来の先後及び弁済期の到来の有無にかかわらず、相手方に対して有する金銭債権と相手方が甲に対して有する金銭債権を、甲の定める任意の充当の順序に従い対当額にて相殺することができるものとする。

② コメント

甲だけの権利になっていますが、甲乙双方の権利にする方が望ましいです

6 謝罪などの方法の指定

6 謝罪などの方法の指定

① 条文例

損害、名誉又は信用を回復する手段として甲又は乙が必要であると判断した場合には、相手方は、甲又は乙の申入れに応じ、また、甲又は乙の指定する方法により、自身の名義において謝罪広告等の措置を行うものとする。

② コメント

甲乙についてお互いではありますが、相手方が一方的に指定する方法で、謝罪などをしなければなりませんが、大丈夫でしょうか。

7 秘密情報

① 条文例

「秘密情報」とは、甲の事業計画、技術データ、営業秘密またはノウハウ、研究および本製品計画、本製品開発、発明、工程、設計、構成およびソフトウェア、その他、甲が秘密として指定する情報をいいます。

② コメント

この書き方だと、甲が指定した情報でなければ秘密情報ではないのか、事業計画、技術データなどのほかに、甲が機密として指定したものも入るのかが明確ではありません。もし後者とすると、「その他のものをいう。さらに甲が機密として指定した情報も含むものとする」とするとはっきりすると思います。

8 テリトリー外の第三者に対する販売

8 テリトリー外の第三者に対する販売

① 条文例

販売店は、本契約に定める場合を除き、本製品をテリトリー外の第三者に積極的に再販売または再輸出することはできません。

② コメント

積極的に」という意味がよく分かりません。テリトリー外の第三者に販売してはならないということですので、「積極的に」という文言は削除した方がよいと思います。

9 売買の成立時期

① 条文例

本製品の注文は、下記の手順により確定します。

1) 販売店は、本製品を注文するにあたり甲に注文書を発行する。

2) 甲は、その注文書の内容を確認した上で、注文確認書を販売店に発行する。

3) 販売店は、その注文確認書の内容に同意した上で署名する。

② コメント

この内容だと売買契約がいつ成立することになるのかよく分からないように思います。注文確認書が販売店に着いた時点で売買契約成立とする、ただし、甲の手配は、両当事者が署名した注文確認書を甲が確認した時とするということでしょうか。

そうであるなら、その旨を記載した方がよいと思います。

10 販売委託協力金の支払時期

10 販売委託協力金の支払時期

① 条文例

甲は、乙に対し、販売委託協力金として、本製品の販売価格の〇〇%を支払うものとする。

② コメント

甲と第三者が契約した場合に払うのか、第三者から甲に入金があったときに払うのかという問題もあります。

また、例えば、その第三者と取引が継続することになった場合に、取引が続く限り、甲は乙に対してこの%を支払い続けなければならないのでしょうか。それですと負担が大きいような気がするので、何らかの制限を設けた方がよいのではないでしょうか。

11 競業禁止

① 条文例

乙が、同種または類似の商品の販売協力を行う場合は、事前に甲の承諾を得るものとする。 

② コメント

何を持って「販売協力」というのか、競業禁止に関することなので、もう少し詳しく書いた方がよいと思います。

12 瑕疵の責任追及期間

12 瑕疵の責任追及期間

① 条文例

⑴ 乙は、甲から商品の引渡を受けた後、商品に数量不足又は直ちに発見できる瑕疵がある場合には、速やかに甲に通知するものとする。

⑵ 乙は、前項に従い検品をした結果、数量の不足又は瑕疵があった場合には、納入後7日以内に甲に通知するものとし、甲はこれに対し代品納入又は修補を行うものとする。

② コメント

この条文のままだと、数量不足、直ちに発見できる瑕疵がある場合は、速やかのそのことを乙に通知し、数量不足、瑕疵(つまり、直ちに発見できない瑕疵の場合)がある場合は、7日以内に乙に通知するというように読めます。つまり、(直ちに発見できない)瑕疵の場合でも、7日以内に通知をしなければ、責任追及できないようにも読めます。

そこで、数量不足、直ちに発見できる瑕疵の場合は7日以内、瑕疵の場合(つまり、直ちに発見できない瑕疵の場合)は6ヶ月以内に通知を行うとしたらどうでしょうか。直ちに発見できない瑕疵の場合に、6ヶ月間責任を負うというのは通常のことのように思います。なお、6ヶ月というのは、1年にすることも2年にすることも契約書の記載によって可能です。

13 振込日の明確化

13 振込日の明確化

① 条文例

乙は、毎月末日までに販売した本製品の販売代金を計算し、これから手数料を控除した残額を甲の指定する銀行口座に振込む方法により支払う。

② コメント

いつまでに振り込むのか明らかでないので、「翌月末までに振り込む」のように明確にした方がよいと思います。

14 対象物の明確化

① 条文例

広告及び看板等に,甲の特約店である旨を明記しなければならない。

② コメント

「等」というよりも、もう少し具体的な媒体を明示した方がよいです。

15 契約の解除

15 契約の解除

① 条文例

各当事者は、次のいずれかに該当する場合、相手方当事者に書面で通知することにより、本契約を直ちに解約することができる。

a) 相手方当事者による本契約の条件に対する重大な違反(販売店が本製品を適切に宣伝・販売促進しなかった場合を含みますが、これに限りません)があり、違反当事者が非違反当事者から書面による通知を受領後60日以内に 違反を是正することができない場合。

② コメント

何が「重大な」にあたるかどうかで争いになることがあるので、できれば、この「重大な」はない方がよいです。この文言によると、違反が重大でない場合は、60日後に違反を是正しない場合でも解除できないことになります。

16 損害賠償

① 条文例

甲は、前項に基づく損害賠償請求を行う場合には、乙が直接又は間接に競合事業を行うことで得た売上の全額を甲の被った損害とみなすことができるものとする。

② コメント

売上の全額が損害になりますが、不当に大きな金額にならないかどうか検討が必要です。

17 損害賠償

18 損害賠償

① 条文例

甲は、乙が実施した本件業務に関して事業者から損害賠償又は違約金の支払いに関する請求を受けた場合には、その全額に相当する額の支払いを乙に請求することができるものとする。

② コメント

損害賠償請求を受けるのは、自己に過失がある場合に限られます。この条文では、乙に過失がなくても、乙は甲に対して損害賠償しなければならないように読めるので、乙の立場からすれば、ここには「乙の責に帰すべき事情がある場合は」という条件を付けたいところです。

18 損害賠償

① 条文例

第9条に記載されていない救済措置(逸失利益及びその他の派生的損失を含みますが、これらに限定されません)を受ける権利を有し・・・

② コメント

派生的損失という言葉は法律にはないので、逸失利益、その他の損害賠償責任としたらどうでしょうか。

19 損害賠償

19 損害賠償

① 条文例

甲は当該欠陥と相当因果関係のある損害賠償金(弁護士費用、調査費用等を含む。)を支払うものとします。

② コメント

調査費用は別にして、弁護士費用の請求はできないのが日本の法律なので、弁護士費用は除いた方がよいのではないでしょうか。

三 まとめ

三 まとめ

販売委託契約で問題になる条文をあげてみましたが、もちろんこれですべてということではなく、問題になる条文は契約書によってさまざまです。具体的な取引において、自社に不利な点がないかをよく検討してみることが大切です。

四 契約書チェックの意味

1 契約書の成立過程
契約書には中立のものはほとんどなく、また、完全に中立な契約書というものはありません。どちらか一方的に有利、かなり有利、ある程度有利など、程度の違いはありますが、どちらかに有利になっています。

具体的に言うと、契約を結ぶ際には、当事者の一方である甲が、乙に対して契約書の案を提示しますが、その案は、程度の差こそあれ、甲に有利になっています。
そして、最終的には、甲と乙の経済的な力関係に応じて、契約をぜひとも成立させたい側は多く妥協し、そうでない側は少しだけ妥協する、あるいは妥協しないということになります。

※ 経済的に弱い立場にある当事者を、最小限守るのが下請法、独占禁止法などになります。

ただ、力の強弱に応じて妥協する程度は異なるものの、契約書のどこが自社に不利なのか、また、その不利な程度は大きいのか小さいのかが分からなければ、どう妥協するのかを考えこともできません。

2 契約書チェックの意味
この点、つまり契約書のどこが自社に不利なのか、また、その不利な程度は大きいのか小さいのかを知ることが契約書チェックの意味になります。
担当者だけでは、十分な契約書のチェックができない場合は、顧問弁護士に依頼して、契約書をチェックしてもらいます。

チェックを依頼された弁護士は、職責上、不利と思われる点をすべて指摘し、不利な程度の大小も指摘しますが、もちろん弁護士が指摘するすべてについて妥協してはならないということではなく、会社の経営者は、弁護士の指摘を前提に、どこを妥協し、どこは妥協しないかについて、相手方に対する自社の経済的な立場も考慮して決め、相手方と交渉します。

なお、稀に弁護士が指摘したものをそのまま相手方にメールなどしてしまう企業の担当者の方がいますが、弁護士は職責上、不利な点はすべて指摘しますから、これをそのまま相手方に送ったのでは交渉になりません。弁護士のチェックをもとに、自社の立場から、何をどの程度主張するかを決めることが大切です。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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