
賞与(ボーナス)は、労働者・経営者のいずれにとっても関心が強い事項です。しかしながら、様々な事情により、賞与を減額・不支給としたい場合があると思います。本記事では賞与の減額・不支給にまつわる法律問題を解説します。
記事執筆時は6月です。6月といえば、夏のボーナスが支給される企業も多いのではないでしょうか。
日本の労働者にとって、賞与・ボーナスというのは、かなり強い関心事項です。
モチベーション向上に寄与することはもちろんですが、採用あるいは人材の確保という面でも重要な役割を果たしているといえるでしょう。
しかし一方で、不景気や会社の経営状況等の要因で、賞与が不支給となったり減額となったりするケースも存在します。
この記事では、そんな「賞与の減額・不支給」にまつわる問題を、法律的な観点から検討していきたいと思います。
賞与の法的性質と支給義務

そもそも、賞与というのは、月々の給料とはどう違うのでしょうか?
まず、支給の頻度が異なりますよね。月々の給料は支払わないというわけにはいきませんが、賞与についてはそもそも「賞与という制度が無い」ということもあり得ます。
また、賞与の場合は、臨時に、または1年の内の決まった時期に支払われるもので、毎月支払われるわけではありません。
特に社会保険料の計算との関係で、年1~2回、多くとも年3回(夏・冬・年度末のパターンが多いと思います。)という制度設計になっているケースがよく見られます。
次に、その意味合いが異なります。
月々の給料は、まさに労働の対価として支給されるものです。
一方の賞与は、その意味合いは多義的です。一般には、労務対価の後払い的性格が含まれるとか、功労・褒賞的な意味合い、長期の勤労を後押しする意味合い、会社の収益を分配する意味合いなどがあると言われています。
その企業の制度設計によってどのような意味合いを持つのか、どのような意味合いが強いのかはケースバイケースということになります。
法的な観点から言えば、「賃金」に当たるかどうかがとても重要です。
ややこしいのですが、労働基準法第11条では「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」とされていますから、一見すると、賞与(ボーナス)はすべて法律上の「賃金」に当たると考える人もいると思います。
しかしながら、「労働の対償」に当たらないのであれば、たとえ制度上の名称が「賞与」であっても法律上の「賃金」には当たりません。
ではどういう場合に「労働の対償」に当たるのかというと、支給の有無や支給時期、賞与の金額ないし算定方法が、労働契約や就業規則等であらかじめ決められているか否かで決まります。
つまり、賞与・ボーナスは、これを支払わなくてはならない(制度として置かなければならない)義務はありませんが、もし制度を定めた場合には、「賃金」として支払い義務が発生する(その他の法規制も受ける)ということになります。
この場合には、就業規則の必要記載事項にもなりますので注意が必要ですね。
ちなみに、長年の労使慣行により、支給額などが明確である場合には、例外的に支給義務があると判断されることもありますので、そういった事情がある場合には注意していただければと思います。
賞与の不支給・減額はできるのか

制度に従って機械的に計算した結果、賞与が不支給や減額となったという場合には、ほとんど問題にならないように思います。
しかし、多くの企業では、就業規則等で「賞与は、会社の業績や勤務成績等を勘案して支給する。ただし会社の業績が悪化した場合には支給しないことがある。」というようなやや抽象的な定め方をしているかと思います。
このような場合にも不支給や減額ができるのでしょうか。
この問題を労働者側から見ると、具体的な賞与の請求権はいつ、どの段階で発生するのかという問題意識となります。
この点について、最高裁(最判平成27年3月5日)は、賞与支給の有無・支給額が会社側の裁量に委ねられているケースで、具体的な支給額または算定方法について会社側の決定があって初めて賞与請求権が発生すると述べています。
したがって、
① 支給時期や支給額・計算方法が明確に定められている場合にはそれに従わなくてはならない
② 労使慣行があるのであればそれに従わなくてはならない
③ 金額も含めて支給の決定を一度したのであればそれに従わなくてはならない
④ ①~③のような事情が無く、上記のような規定ぶりであった場合には、会社の業績不振により不支給ないし減額をしてもただちに違法とは言えない
と考えられます。
不支給や減額が違法かどうかの判断は、そもそも「賞与」という制度自体が一義的ではないためにどうしてもケースバイケースの解決になってしまいます。
例えば、人事査定などにより賞与の支給額が決定される制度設計になっているケースでは、会社側が査定を行わないがために支給金額の決定がなされなかった(不支給となった)という事情がある場合に、支給金額の決定が無いので賞与請求権自体は未発生としつつも、賞与がもらえるとの期待権が侵害されたとして、賞与相当額の損害賠償を認めたという裁判例(横浜地裁平成11年2月16日)もあります。
また、賞与の支給金額について、人事査定により決定される部分があるケースで、その査定について不公正があったという場合には、本来もらえるべきであった金額との差額について支払い義務が生じるということもあり得ます。
このようなケースでは、不公正があったかどうか、すなわち会社の裁量の範囲内であるかどうかという、まさにケース判断となってしまいますから、一般化は難しいところです。
ただ、賞与が賃金の一部と考えられる場合には、その支給・不支給に会社側の恣意的な部分があっては大変ですから、会社側の予防策としては「何を、どのように評価して、どのように金額に反映させるか」をなるべく具体的な制度に落とし込んで、恣意性を排除することが望ましいように思います。
支給日在籍要件について

賞与の不支給にかかわる他の問題として、賞与の制度で多く見られ、特徴的なのが、一般に支給日在籍要件と呼ばれるものです。
これは、例えば「賞与は、支給日に在籍している者に対して支給する」というような規定がされている場合に該当します。
この要件があると、例えば支給日の前日に退職した人は、賞与を1円ももらえないということになります。
「算定対象期間に在籍していたのだから、1円も支給しないのは違法ではないか?」というご不安はごもっともです。
しかし判例は、賞与の性格について、支給対象期間の勤務に対する対価にとどまらず、将来の勤務への期待・奨励という意味合いも含まれていることを理由に、この支給日在籍要件を原則的に有効と判断しています(例:最判昭和57年10月7日)。
とはいえ、例えば、賞与の支給日が例年に比べて大幅に遅れたケースで、本来の支給日に在籍していた労働者の賞与請求権を認めた事例(最判昭和60年3月12日)や、会社側が退職日を一方的に決める整理解雇の事案で、支給日前に解雇の効力発生日を設定して支給日在職要件を適用するのは公序良俗違反により無効であるとされた事例(東京地判平成24年4月10日)などもあるため、会社側の事情で、支給日在籍要件が労働者の不利に働いた場合には、ケース判断による救済がなされることもあるということで注意が必要です。
まとめ

いかがだったでしょうか。
賞与の支給・不支給は、企業の経営状況に左右される事項であるのみならず、人事戦略上も重要なテーマです。
経営者としては、自社の制度と法的リスクの理解を深めながら、制度の運用をしていかなくてはなりません。
これを機に、一度自社の賞与制度の在り方・規定の仕方について見直し、適切な運用ができるように整えてみてはいかがでしょうか。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。まずは、一度お気軽にご相談ください。
また、企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。