
管理職のなかには、「名ばかり管理職」といって、名目上は管理職でありながら、実質的には管理職としての権限がないケースがあります。「管理職」という立場であれば、残業代の請求をされることはないのでしょうか。
1 管理職の残業代に関する法律の規定

管理職は、労働基準法における「管理監督者」として、同法における労働時間の規制の適用がありません。
そのため、残業代や休日手当は支払われないことになります。
ところで、管理職という立場には置いているものの、実質的には普通の社員と変わらない権限しかないということがあります。
このような「名ばかり管理職」のような場合でも、残業代等は支払う必要はないのでしょうか。
2 「名ばかり管理職」には残業代を支払う必要がある

実際には、「管理職」という役職についていれば、残業代等の支払いを免れることはできません。
労働基準法では、残業代等の規定が適用されない管理職について、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」と定義しています。
つまり、部下への指示や監督をする権限が無い場合や、事業に関する重要な決定権がない場合などには、この定義に当てはまらないことになります。
つまり、残業代等についても支払う必要が出てきます。
例えば、名ばかり管理職と見なされる可能性のあるケースとしては、
・上司の指示を部下に伝えるだけで、自分でなにかを決定する権限がない
・管理職ではない一般社員と同様に、出勤時間や退勤時間が決まっている
・会社の方針についての関与権限、決定権限がない
・役職手当が少額にとどまる
などの事情があると、名ばかり管理職と見なされる可能性があります。
3 「名ばかり管理職」と認定された裁判例

名ばかり管理職に関する有名な裁判例として、日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日判決)というものがあります。
この裁判例を通じて、どのように裁判所は名ばかり管理職と認定し、残業代の支払いを命じたのか、見ていきたいと思います。
⑴ 事案の概要
この裁判は、日本マクドナルドが被告となっています。
原告は、昭和62年2月、日本マクドナルドに社員として採用されると、昇進を繰り返し、平成11年10月に店長に昇格しました。その後、複数の店舗の店長を務めていました。
本件では、いくつかの争点がありましたが、そのうちの1つが、店長である原告が,「労働基準法41条2号の『事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)」に当たるかというものでした。
⑵ 争点に関する双方の主張
ア 会社側の主張の概要
会社側の主張の概要は以下の通りです。
・被告の店長は,数十名の従業員(クルー,スウィングマネージャー,アシスタントマネージャー等)の勤務シフトを作成し,当該店舗における従業員の勤務の指揮監督を行っているから,監督の地位にある者に当たる。
・また,店長は,クルーの採用やスウィングマネージャーへの昇格,クルー及びスウィングマネージャーの人事考課,昇給等を決定するほか,社員の人事考課,昇給等の決定などの労務管理も行っているから,管理の地位にある者にも当たる。
・管理監督者の該当性について,労務管理以外の職責や権限を考慮すべきであるとしても,被告における店長は,店舗の売上計画や予算の立案のほか,店舗における支出の決定,販売促進活動の企画,実施,店舗の衛生等の管理,店長会議等への参加を通じた被告の経営への参画など,重要な職責と権限を有していることは明らかである。
イ 労働者側の主張の概要
一方で、労働者(店長)側の主張の概要は以下の通りです。
・被告の店長は,店舗のアルバイト従業員を採用する権限はあるものの,何人でも自由に採用できるわけではなく,その時給を自由に決めることもできない。
・社員を採用する権限はなく,第1次評価者として社員の人事考課は行うが,その昇給,昇格を決定する権限はない。
・店長は,店舗従業員の勤務シフト案を作成するが,その最終的な決定はOC(オペレーションコンサルタント)が行っている。
・店長は,店舗に関する次年度の売上計画や予算を策定するが,その策定に自由な裁量があるわけではないし,店舗の販売促進活動の内容を決定し,これを実行する権限もない。
・店長会議には参加するものの,店長会議は,被告が既に決定した店舗の業務に関する営業戦略や社員の人事考課に関する基本方針を店長に徹底させるためのものでしかない。
・店長は,店舗責任者として,営業時間中は基本的に在店しなければならず,他のシフトマネージャーが確保されない営業時間帯には,自らシフトマネージャーとして勤務しているのであって,出退勤の自由はない。
・店長には,管理監督者としてふさわしい処遇がなされているとはいえず,時間外労働等の割増賃金が支払われるファーストアシスタントマネージャーよりも年収が少ないという逆転現象がしばしば起きている。
⑶ 裁判所の判断

裁判所は、以下のように判断しました(以下、判決文の抜粋です。)。
【判断の枠組みについて】
管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条2号),これは,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
したがって,原告が管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく,実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。
【本件についてどのように判断したか】
ア 店長の権限等について
被告における店長は,店舗の責任者として,アルバイト従業員の採用やその育成,従業員の勤務シフトの決定,販売促進活動の企画,実施等に関する権限を行使し,被告の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから,店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの,店長の職務,権限は店舗内の事項に限られるのであって,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。
イ 店長の勤務態様について
店長は,自らのスケジュールを決定する権限を有し,早退や遅刻に関して,上司であるOCの許可を得る必要はないなど,形式的には労働時間に裁量があるといえるものの,実際には,店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ、上記のとおり,店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという被告の勤務態勢上の必要性から,自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより,法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから,かかる勤務実態からすると,労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。
ウ 店長に対する処遇について
平成17年において,年間を通じて店長であった者の平均年収は707万184円で,年間を通じてファーストアシスタントマネージャーであった者の平均年収は590万5057円であったと認められ,この金額からすると,管理監督者として扱われている店長と管理監督者として扱われていないファーストアシスタントマネージャーとの収入には,相応の差異が設けられているようにも見える。
しかしながら,S評価の店長の年額賃金は779万2000円(インセンティブを除く。以下同様),A評価の店長の年額賃金は696万2000円,B評価の店長の年額賃金は635万2000円,C評価の店長の年額賃金は579万2000円であり,そのうち店長全体の10パーセントに当たるC評価の店長の年額賃金は,下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額であるということになる。また,店長全体の40パーセントに当たるB評価の店長の年額賃金は,ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を上回るものの,その差は年額で44万6943円にとどまっている。
また,店長の週40時間を超える労働時間は,月平均39.28時間であり,ファーストアシスタントマネージャーの月平均38.65時間を超えていることが認められるところ,店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると,上記検討した店長の賃金は,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては,十分であるといい難い。
⑷ 結論
以上のような事情から,被告における店長は,その職務の内容,権限及び責任の観点からしても,その待遇の観点からしても,管理監督者に当たるとは認められないと判断されました。
4 【まとめ】管理職の処遇について不安がある場合には、ぜひ弁護士へ相談を

これまで見てきたように、管理職という役職に置かれていても、名ばかり管理職と認定されてしまうと、過去の分も含めて残業代を支払うことになってしまいます。
自社の管理職の処遇に不安がある場合には、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
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