
従業員が自社の顧客データを持ち出した場合、会社に経済的な損害を与えるのみならず、監督官庁や捜査機関への報告が必要になる場面も出てきます。本コラムでは、顧客名簿の持ち出しの問題点について解説します。
1 顧客データの持ち出しとは

この後見ていくように、顧客データを持ち出すことは、非常に大きなリスクがあり、人生を棒に振ってしまうこともあります。
それにもかかわらず、従業員が顧客データを持ち出す動機としては、以下のようなものが考えられます。
まず、競合他社に転職する場合には、前の職場の顧客データや営業に関するノウハウなどを持ち出すことで、転職先で自身の価値をアピールし、良い評価を得ようとすることが考えられます。要するに、顧客データを「手土産」とするのです。
また、独立をする場合には、顧客データを利用して、事業をスムーズに軌道に乗せることを企図することもあります。
その他、在籍中であっても、単に売却して金銭を得ることや、会社に対して損害を与える目的で、顧客データを持ち出すこともありえます。
2 顧客データの持ち出しはどのような法令違反に該当するか

顧客データを持ち出した場合、さまざまな法令に違反する可能性があります。
⑴ 刑事上の法令違反
顧客データが企業の営業秘密に該当する場合、不正に持ち出す行為は、不正競争防止法に違反する可能性があります。
その場合、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
また、物理的にデータが記録された媒体(プリントアウトされたファイル、USBメモリーなど)を持ち出した場合は窃盗罪に問われる可能性があります。
さらに、企業に損害を与えたと判断されれば、背任罪に問われる可能性もあります。
⑵ 個人情報保護法違反
個人情報取扱事業者やその従業者、またはかつてこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部又は一部を複製し、又は加工したものも含まれます。)を、自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、刑事罰が科されます(個人情報保護法第179条)。
不正提供等を行った者については、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
なお、法人等に対しても、1億円以下の罰金刑が科される可能性があります(同法第184条第1項第1号)。
3 過去に発生した顧客データの持ち出し事例

過去の発生した、大手通信教育企業での顧客データの持ち出し事案について紹介します。
この事案は、システム管理を依頼していた業務委託先の社員による不正な顧客データの持ち出しという事件でした。
持ち出された顧客データは、親や子の氏名・性別・生年月日、住所、電話番号などであり、最大で約3500万件が流出したとされています。
当時、この事件は連日報道がなされ、各地で当該企業に対する民事訴訟が起こされるといった、大きな影響がありました。
持ち出された社員は、不正競争防止法違反により、懲役2年6か月、罰金300万円の実刑判決が言い渡されました。
4 会社はどのような対策をするとよいか

このように、顧客データの持ち出しは、会社にも大きな影響を与えかねません。
そのような事態を防ぐために、どのような対応をすべきでしょうか。
⑴ 制度等の構築
顧客データの取り扱いに関し、情報の重要度に応じた分類、役職に応じたアクセス権限の有無、社外への持ち出しの禁止などのルールを決めて、就業規則に明記することが考えられます。
これに違反した場合には、事案の程度に応じた懲戒処分をすることができるため、従業員に対する抑止力となります。
また、入社時に従業員との間で、秘密の保持に関する契約を締結し、退職後も守秘義務が継続することを明確にすることが考えられます。
さらに、定期的な研修の実施や、内部通報制度による問題の早期発見も有効といえます。
⑵ 物理的なセキュリティの構築
顧客データを取り扱う従業員が多くなるほど、流出のリスクは高くなります。
そのため、アクセス権限を一部の者に限定する、アクセス履歴を責任者が監視するといったことが考えられます。
また、顧客データの複製や社外への持ち出しを禁止する、プリントアウトされた顧客データについては鍵の付いたキャビネット等で管理するといった対策も考えられます。
5 【まとめ】顧客データの持ち出しについて不安がある場合には、ぜひ弁護士へ相談を

これまで見てきたように、従業員による顧客データの持ち出しは、最悪の場合、会社の存亡に関わる問題になる可能性があります。
顧客データの取り扱いに不安がある場合には、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。まずは、一度お気軽にご相談ください。
また、企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。