軽微なミスでも会社は賠償請求できる?範囲と制限を徹底解説

こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。

​企業が労働者に対して賠償請求を検討することがあるかと思いますが、原則として、軽微なミス(軽過失)を理由として損害賠償請求を行うことは困難だといえます。また、仮に損害賠償請求が可能な場合でも、業務上のミスについては、裁判上、労働者の賠償義務が相当程度減額されている例が多く見られます。本コラムでは、民法に基づく法的枠組みや判例、企業が取るべき制度整備の概要を、事例を交えて解説いたします。

はじめに:軽微なミスであれば、賠償請求は原則困難

はじめに:軽微なミスであれば、賠償請求は原則困難

まず、使用者が得る利益に見合い、日常の業務には軽微な過失はつきものといえます。

この点、裁判例上も、労働者の業務遂行上で発生した損害については、労働者に責任があるとしても、労働者が全額賠償を負担するのは公平に欠くとして、信義則により責任が限定されるのが一般的です。

損害賠償責任の限定

損害賠償責任の限定

近年、使用者が労働者に対して、損害賠償を請求する事案が増加していると言われています。

もっとも、労働者に対する損害賠償請求は、資力に乏しい労働者にとって酷な結果になることや、使用者と労働者の経済力の差があること、さらには、「使用者は労働者を使用して利益を得ているのであるから、そこで生じるリスクも負担すべき」という考え方からすれば、損害の公平な分担を図るべきといえます。

そこで、裁判例においては、労働者の過失の程度や、使用者の予防措置の有無、労働条件や報酬格差などを総合的に考慮し、責任を一定割合に抑えるという判断を採用しています。

判例に見る責任制限と割合

判例に見る責任制限と割合

労働者の賠償責任を限定した判断裁判例として、下記の裁判例が参考になります。

茨城石炭商事事件(最高裁昭51年7月8日)

この事案では、労働者が車両運転中の過失により事故を起こし、結果、使用者が損害賠償を支払った事案になります。そして、最高裁は、損害の公平な分担という見地から、損害の4分の1までを限度とする求償を認めました。

裁判において、重要な判断要素とされたのは、「事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度」などになります。

故意がある場合

故意がある場合

一方で、横領・背任や故意による不法行為などは、行為の悪質性に鑑みて、労働者の損害賠償責任が限定されない場合が多いと思われます。

例えば、労働者が会社から金銭を不正取得したといった事案では、加害行為と因果関係のある損害額全額の賠償が認められています。

企業が取るべき法務対応と制度設計

企業が取るべき法務対応と制度設計

労働者のミスによる損害賠償請求は、裁判例上も限定的です。しかし、故意・重大な過失や不注意の蓄積により将来のリスクが高まることもあり得ます。

以上からすれば、使用者責任の範囲や責任制限法理の妥当性を踏まえつつ、下記のような制度設計と運用体制を整えることが、企業の健全経営に繋がるといえるでしょう。

① 教育研修・マニュアル整備

継続的な教育や事故防止対策、安全運転講習などにより、使用者がリスク予防を講じる姿勢を示すことが重要といえます。

② 証拠・記録管理の徹底

損害発生時の状況、業務指示、教育履歴などを記録し、労働者の過失の有無・程度や使用者の配慮状況を証明できるようにしておくとよいでしょう。

③ 保険加入とリスク分散

対物賠償や事故リスクへの備えを会社側で講じることで、労働者への求償の必要性を低減できます。

まとめ

まとめ

軽微なミス(軽過失)による損害に関して、労働者に全額賠償請求することは原則難しいでしょう。

裁判例では、信義則に基づく責任制限があり、損害の一部(例:4分の1)を負担させるにとどめられるケースが多くあります。他方で、故意や悪質行為の場合は、労働者に責任があると判断される可能性が高いといえます。

このようなリスクに鑑みて、企業は、就業規則の整備、教育・研修、証拠管理、保険加入など、管理体制を整備すべきといえます。さらには、顧問弁護士契約を通じた予防的法務対応が、企業の安定と法的安心を支える鍵といえるでしょう。

この点、弁護士との顧問契約は、トラブル予防だけでなく、緊急時の法的対応、制度設計の強化、組織の信頼構築にも直結いたします。企業が持続的に健全な環境を保つための最善の一手として、顧問弁護士契約の検討をお勧めいたします。

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