
近年、労働環境に関する規制は年々厳格化し、企業のコンプライアンス意識が強く求められるようになっています。特に中小企業においては、「知らなかった」「従来通りで問題ないと思っていた」という理由で労務トラブルが発生し、結果として多大なコストや社会的信用の失墜につながるケースも少なくありません。本稿では、経営者が最低限押さえておくべき労働法上のポイントと、それに関連する実務的なリスク管理について整理します。
労働時間管理の重要性

労働基準法における「労働時間」「休憩」「休日」に関する規制は、最も基本的かつトラブルの多い分野です。特に近年では、時間外労働の上限規制(いわゆる「働き方改革関連法」)が導入され、違反企業は是正勧告や罰則を受ける可能性があります。
法定労働時間:1日8時間、週40時間が上限
36協定の必要性:時間外労働を行わせる場合には労使協定の締結と労基署への届出が必須
割増賃金率:深夜・休日労働、月60時間超の残業には割増率が加重
経営者としては「現場任せ」にせず、勤怠システムを用いた客観的な労働時間管理を徹底することが求められます。
同一労働同一賃金と処遇格差の是正

非正規社員と正社員との待遇差に関する訴訟は近年増加しており、最高裁判例でも「不合理な待遇差の禁止」が確認されています。例えば、賞与や退職金、手当の有無などについて合理的理由が説明できない場合、差別的取り扱いと見なされる可能性があります。
経営者にとって重要なのは、職務内容・責任範囲・配置転換の有無といった客観的基準をもとに、処遇の差を明確に説明できる体制を整えることです。就業規則や賃金規程を再点検し、従業員に納得感のある制度を設計することが、訴訟リスクの回避につながります。
ハラスメント対策義務の強化

パワーハラスメント防止措置が大企業に続き中小企業にも義務化され、セクハラ・マタハラを含む「ハラスメント防止」は企業にとって避けられない課題となりました。
企業が講ずべき具体的措置は以下の通りです。
就業規則や社内規程におけるハラスメント禁止の明記
相談窓口の設置と周知
迅速かつ適正な事実調査と対応
再発防止のための教育・研修
怠れば、損害賠償請求や行政指導だけでなく、採用・取引面での信用失墜にもつながる可能性があります。
副業・兼業の広がりと雇用管理

厚生労働省は副業・兼業を推進する方針を示しており、従業員の希望を尊重しつつ労働時間管理をどう行うかが新たな課題となっています。特に注意すべきは、他社での勤務時間も通算して労基法上の労働時間に含まれる点です。
実務上は、従業員からの申告を前提に、兼業状況を把握する制度を設けることが必要です。また、情報漏洩や競業避止義務とのバランスを取るための契約条項も重要になります。
まとめ:経営者に求められる姿勢

労働法令は「最低基準」を定めるものであり、それを遵守することは経営の前提条件にすぎません。重要なのは、単に法令違反を避けるのではなく、従業員が安心して働ける環境を整備し、企業の持続的成長につなげる視点です。
また、労務問題は、残業代請求やハラスメント訴訟における和解金や弁護士費用といった直接的負担だけでなく、マスコミ、SNS、求人サイトでの拡散によるブランド毀損リスクも伴います。一度「ブラック企業」とレッテルを貼られれば、優秀な人材確保が困難になり、採用コストや教育コストが増大します。結果として、労務リスクを軽視することは、長期的には企業競争力を削ぐ大きな要因となります。
では、経営者はどのような予防策を講じればよいのでしょうか。ポイントは以下の3点に集約されます。
見える化:労働時間や休暇取得状況をデータで把握する
対話:従業員の声を拾い上げる相談体制を整備する
専門家の活用:社会保険労務士や弁護士と連携し、規程や契約書を定期的に見直す
これらを継続的に実行することで、トラブルの芽を早期に摘み、健全な職場環境を育むことができます。労務リスクは、早期に手を打てば最小限に抑えられますので、経営者自らが積極的に関わることが求められるでしょう。労働問題は「知っているか知らないか」で企業の命運を左右する分野です。ぜひこの機会に、自社の労務管理を点検してみてください。
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