
土地賃貸借契約書にある借地期間に矛盾がある場合、どのように考えるべきでしょうか。また、建物を建て替えた場合の借地期間の延長について、旧借地法と借地借家法では内容が異なっていますが、具体的事案においてどちらが適用になると考えるべきでしょうか。
1 はじめに

今回は、当事務所の顧問先からきた借地契約の期間と、建物の滅失(取り壊し)」があった場合の借地期間の延長に関する質問を取り上げてみたいと思います。借地契約にかかわっている担当者には、たまに発生する問題かもしれません。
2 借地期間の計算を間違えた場合

【質問】
堅固な建物(構造上、耐火性・耐久性を備え、長期間存続し得る建物)の所有を目的とする土地賃貸借契約書を1989年2月11日に締結し、賃貸借契約書の借地期間のところが、「契約締結日より2018年2月10日までの30年間とする」となっています。当社は借主です。
契約締結日である1989年2月11から2018年2月10までということだと借地期間は29年になりますが、この契約書では借地期間について、「30年間とする」と記載されています。このような場合、借地期間は29年とみるのでしょうか。それとも30年とみるのでしょうか。
【回答】
このような場合、1年だけの違いのようにも思いますが、借地法上は重要な違いがあります。
旧借地法に代わって、現在の借地借家法が施行されたのは1992年8月1日ですから、それ以前に締結されたこの土地賃貸借契約には、旧借地法の規定が適用されます。、
旧借地法では、堅固な建物については、30年以上の借地期間を決めたときは、この約定がそのまま有効となり、30年に満たない期間を決めたときは、その定めは無効で、堅固な建物の法定存続期間である60年になるとされています。
例えば、30年と定めれば、借地期間は30年になりますが、29年と定めれば、(30年に満たないので)借地期間は60年になってしまいます。
今回の場合、「契約締結日より2018年2月10日まで」という点を捉えれば、決めた期間は29年なので借地期間は60年になります。しかし、「30年とする」という点を捉えれば借地期間は30年になります。どちらと捉えるべきかという問題です。
ところで、契約の内容は当事者の意思によって決まりますので、どちらが当事者の本当の意思なのかという点が問題になります。
今回の場合、あえて期間を29年にして、借地期間を60年にしようとする意思は、貸主にはもちろん、借主である貴社にもなかったと考えられますし、だからこそ、契約期間は「30年間とする」されているのだと思います。「2018年」というのは、貸主、借主の間違いであることは明白であると考えられます。つまり、借地期間は30年とみるべきです。
3 途中で建て替えがあった場合

【質問】
今回の場合、土地所有者である貸主から、2004年8月3日に建物建替えの承諾書をもらい、実際にその後、建替えをしているようです。実際に建て替えをした日は不明です。
建て替えをすると借地期間が延びることがあるようですが、建て替え後の借地期間はどうなるのでしょうか。
【回答】
新しい建物を建てることによって、借地期間は延びるのですが、旧借地法の規定と、現在の借地借家法の規定では少し内容が異なっており、どちらが適用になるのかが問題になります。
借地借家法が施行されたのは、上記のとおり、1992年8月1日ですが、貸主の建て替え承諾は2004年8月3日ですから、当然、建物の建て替えはこれよりも後です。そうすると、借地借家法が施行された後に建物が建て替えられていることになりますが、この場合、旧借地法の規定が適用されることになるのでしょうか、あるいは借地借家法の規定が適用されるのでしょうか。
借地借家法の附則7条では、「この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地上の建物の滅失後の建物築造による借地権の期間の延長については、なお従前の例による」とあり、建物の滅失(取り壊し)、その後の再築が新借地借家法施行後であっても、旧借地法が適用されることになっています。
そして、旧借地法7条では、借地権が消滅する前に建物が滅失した後で、土地の賃貸借契約の期間を超えて存続する建物の築造に対し土地の所有者が異議を述べなかったときには、土地の賃貸借契約の期間を、堅固建物の場合には、建物滅失の時から30年間、非堅固建物の場合には20年延長することを規定しています。

今回の場合、2004年12月24日付の建物の建て替え工事の承諾書があります。したがって、土地所有者は建物の建て替えに異議を述べていないといえます。また、条文の文言より、契約の延長の始期は建物の新築した日や承諾書を交わした日ではなく、建物が滅失した時点となります。
したがって、現在の建物が堅固建物なら滅失の時から30年、借地期間が延長されることになります。
そうすると、滅失したときはいつなのかということが問題になりますが、建物を取り壊した後に滅失登記をしているはずなので、滅失登記がいつされたのかを調べ、その少し前に取り壊されたと考える、固定資産税課税台帳では、取り壊した翌年に課税台帳から外れるはずなので、台帳を確認する、貸主の承諾後、少しして取り壊されたはずである推測するなどの方法をとることになるかと思います。
そして、貸主と借主の間で、上記に基づいて、建物が滅失した日を合意できればそれを覚書という文書にし、(合意によって決めた)滅失した日から新しい借地期間が決まったということでよいと思います。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。