廃棄物処理法上、廃棄物の収集・運搬・処分を行うにあたり、生活環境の保全上の支障が生じた・生じるおそれがある、ときには、改善命令や措置命令が出されることがあります。そこで、改善命令や措置命令の内容について解説していきます。
産業廃棄物の適正な処理の実施を確保するための改善命令・措置命令
廃棄物処理法上、産業廃棄物処理業者等は、産業廃棄物処理基準や産業廃棄物保管基準を守って処理業務にあたらなければなりません。そして、産業廃棄物の適正な処理の実施を確保するため、これらの基準に適合しない廃棄物処理により生活保全の支障のおそれがある場合には、改善命令や措置命令が発出される仕組みとなっています。
産業廃棄物処理基準・保管基準
具体的内容は、専門技術的な内容になるため、法律ではなく施行令や施行規則に詳細が規定されています。その内容は多岐にわたるため、主に「生活保全の支障」に直結するものだけ挙げていきます。
廃棄物処理法12条1項
事業者は、自らその産業廃棄物・・・の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(産業廃棄物処理基準)に従わなければならない。
廃棄物処理法12条6項
事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。
この内容として、廃棄物処理法施行令6条で詳細が規定され、生活保全の支障という観点から一般廃棄物の処理基準について定めた廃棄物処理法施行令3条が準用されています。
以下、収集・運搬・保管の基準についてのみ紹介します。
廃棄物の収集・運搬・保管
イ 収集又は運搬は、次のように行うこと。
⑴ 一般廃棄物が飛散し、及び流出しないようにすること。
⑵ 収集又は運搬に伴う悪臭、騒音又は振動によって生活環境の保全上支障が生じないように必要な措置を講ずること。
ロ 一般廃棄物の収集又は運搬のための施設を設置する場合には、生活環境の保全上支障を生ずるおそれのないように必要な措置を講ずること。
ハ 運搬車、運搬容器及び運搬用パイプラインは、一般廃棄物が飛散し、及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのないものであること。
ホ 石綿が含まれている一般廃棄物であつて環境省令で定めるもの(以下「石綿含有一般廃棄物」という。)の収集又は運搬を行う場合には、石綿含有一般廃棄物が、破砕することのないような方法により、かつ、その他の物と混合するおそれのないように他の物と区分して、収集し、又は運搬すること。
ヘ 一般廃棄物の積替えを行う場合には、次によること。
⑴ 積替えは、周囲に囲いが設けられ、かつ、一般廃棄物の積替えの場所であることの表示がされている場所で行うこと。
⑵ 積替えの場所から一般廃棄物が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が発散しないように必要な措置を講ずること。
⑶ 積替えの場所には、ねずみが生息し、及び蚊、はえその他の害虫が発生しないようにすること。
ト 石綿含有一般廃棄物の積替えを行う場合には、積替えの場所には、石綿含有一般廃棄物がその他の物と混合するおそれのないように、仕切りを設ける等必要な措置を講ずること。
チ 一般廃棄物の保管は、一般廃棄物の積替え・・・を行う場合を除き、行つてはならないこと。
リ 一般廃棄物の保管を行う場合には、次によること。
⑴ 保管は、次に掲げる要件を満たす場所で行うこと。
(イ) 周囲に囲い・・・が設けられていること。
(ロ) 環境省令で定めるところにより、見やすい箇所に一般廃棄物の積替えのための保管の場所である旨その他一般廃棄物の保管に関し必要な事項を表示した掲示板が設けられていること。
⑵ 保管の場所から一般廃棄物が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が発散しないように次に掲げる措置を講ずること。
(イ) 一般廃棄物の保管に伴い汚水が生ずるおそれがある場合にあっては、当該汚水による公共の水域及び地下水の汚染を防止するために必要な排水溝その他の設備を設けるとともに、底面を不浸透性の材料で覆うこと。
(ロ) 屋外において一般廃棄物を容器を用いずに保管する場合にあっては、積み上げられた一般廃棄物の高さが環境省令で定める高さを超えないようにすること。
(ハ) その他必要な措置
⑶ 保管の場所には、ねずみが生息し、及び蚊、はえその他の害虫が発生しないようにすること。
改善命令・措置命令
改善命令
まず、廃棄物処理業者が、産業廃棄物処理基準・保管基準に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬または処分が行われた場合には、都道府県知事は当該事業者に対して、処理方法の変更その他必要な処理を命じることができます。
廃棄物処理法19条の3
次の各号に掲げる場合において、当該各号に定める者は、当該一般廃棄物又は産業廃棄物の適正な処理の実施を確保するため、当該保管、収集、運搬又は処分を行つた者(事業者、一般廃棄物収集運搬業者、一般廃棄物処分業者、産業廃棄物収集運搬業者、産業廃棄物処分業者、特別管理産業廃棄物収集運搬業者、特別管理産業廃棄物処分業者及び無害化処理認定業者(以下この条において「事業者等」という。)並びに国外廃棄物を輸入した者(事業者等を除く。)に限る。)に対し、期限を定めて、当該廃棄物の保管、収集、運搬又は処分の方法の変更その他必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
・・・
第2号
産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準(・・・)が適用される者により、当該基準に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合(・・・) 都道府県知事
措置命令
次に、廃棄物処理業者が、産業廃棄物処理基準・保管基準に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬または処分が行われた場合であって、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事は当該事業者に対して、支障の除去等の措置を講ずるよう命じることができます。
改善命令は、抽象的な危険を避けるために処理基準に適合するようにその処理方法の変更その他の措置を講じるよう命じるものです。これに対し、措置命令は、現に発生した生活環境の保全上の支障を除去するための措置を講じるように命じ、または支障を生じるおそれという具体的な危険の発生防止のための措置を命じるものです。
廃棄物処理法19条の6
・・・生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあり、かつ、次の各号のいずれにも該当すると認められるときは、都道府県知事は、その事業活動に伴い当該産業廃棄物を生じた事業者に対し、期限を定めて、支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。
生活保全の支障のおそれがある場合に講じた措置の費用負担
措置のためにかかった費用は、措置命令を受けた事情者が負担することになります。
もっとも、措置命令に従わない事業者がいる場合、そのまま放置してしまったのでは生活環境の保全上支障が発生することになってしまいます。そこで、都道府県知事自らが、その支障の除去等の措置の全部または一部を講ずることができることとされています。そして、その費用については、都道府県知事が、当該収集、運搬又は処分を行った処分者や、当該排出事業者等に、負担させることができるものと定めれています。
ここで、「排出事業者」も対象となっている点に注意が必要です。排出事業者等が①当該産業廃棄物の処理に関し適正な対価を負担していないとき、②当該収集、運搬又は処分が行われることを知り、又は知ることができたとき、③その他排出事業者等に支障の除去等の措置を採らせることが適当であるときには、排出事業者も負担しなければならない立場となります(廃棄物処理法19条の6第1項2号)。
費用負担の内容は、廃棄物処理法上は代執行により支障の除去等の措置に要した費用に限られていますが、裁判例上、措置のための「調査費用」も民法697上以下の事務管理の規定により回収できるとの判断がなされています。
名古屋高判平成20年6月4日判時2011号120頁
「本件過剰保管廃棄物について、周囲の生活環境の保全等のためには、もはや被控訴人において速やかに廃棄物の適正処理を確保する必要性が極めて高く、一刻の猶予もならない状況にあったものというべきであり、そのために本来控訴人が行うべきであった本件調査を被控訴人が行ったということができる。そして、本件調査を始めとする被控訴人による廃棄物の適正処理を確保する行為は、本件処分場周辺の生活環境保全等のために高度に有益な行為で、正に社会公共の利益に適合するものであったといえるのである。したがって、このような事情のもとで被控訴人が行った本件調査が、そもそも本件措置命令まで受けている控訴人の意思又は利益に反するものとは直ちには認めがたいものがあり、また、仮に控訴人の意思又は利益に反するものであったとしても、上記説示のとおり本件においてはこれを考慮すべきではなく、事務管理の成立は妨げられないというべきである。この点、控訴人は、控訴人が本件措置命令に沿った対応を執ることができなかったのは、控訴人が本件過剰保管廃棄物を搬出する費用を捻出するために担保として提供する予定であった土地を被控訴人が差し押さえたことによるなどと種々指摘するけれども、上記説示に照らせば、本件措置命令に基づく自己の責任を等閑視した本末転倒な主張であって採用することができない。」
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