美容外科や美容皮膚科、歯科などの自由診療を主軸に置く医療機関にとって、症例写真、いわゆる「ビフォーアフター写真」は、潜在的な患者様が施術の結果を具体的にイメージし、受診を決意するための極めて強力な判断材料となります。

言葉を尽くした説明文よりも、一目で変化を理解させる写真が持つ視覚的なインパクトは計り知れません。

しかし、この症例写真の掲載については、医療法に基づく「医療広告ガイドライン」および「薬機法」によって、実務上極めて緻密かつ厳格なルールが張り巡らされています。

かつては一般的であった掲載手法が、現在では即座に行政指導や処罰の対象となり、クリニックの存続を脅かすリスクさえ孕んでいるのが現状です。

本稿では、法律事務所の視点から、何が法的に「不適切」と断じられるのか、そして実務上どのような点に留意し、いかにして法的なコンプライアンスとマーケティングを両立させるべきかをご案内いたします。

症例写真に対する規制の歴史的経緯と現代的意義

そもそも、なぜ医療における症例写真がこれほどまでに厳しく制限されているのか、その法理的背景を理解しておく必要があります。

その根底にあるのは、医療という行為が「身体に対する不可逆的な侵襲を伴う特殊なサービス」であるという事実です。

一般的な消費財の広告とは決定的に異なり、医療においては、個人の体質、生活習慣、年齢、既往歴、さらには術後の経過管理によって、治療の結果には必ず不可避な個人差が生じます。にもかかわらず、劇的な変化を遂げた一部の成功例のみを強調して掲載することは、医学的な知識を持たない一般の患者様に対して「自分も必ずこの写真のように変われる」という過度な期待や、科学的根拠を欠いた誤認を抱かせ、不適切な受診や衝動的な契約を煽るリスクがあると考えられています。

歴史的な変遷を辿ると、2018年の医療法改正以前は、Webサイト上の症例写真は「広告」ではなく「情報の提供」と解釈され、原則として規制の対象外とされていました。

しかし、この解釈を悪用し、虚偽や誇大な写真を掲載して高額な治療へ誘導するトラブルが美容医療分野を中心に激増したことを受け、厚生労働省は方針を転換しました。

現在はWebサイト上のあらゆる記述を「広告」と定義し、厳格な監視下に置いています。

「虚偽広告」とみなされる画像加工の法的責任とリスク

医療広告ガイドラインにおいて、最も重い違反として位置づけられ、罰の対象にもなりうるのが「虚偽広告」です。

症例写真における虚偽とは、現代のデジタル技術を用いて、実際の結果とは異なる状態に写真を加工・修正することを指します。

例えば、シミ取りレーザーの症例においてアフター写真の肌のトーンを不自然に明るく飛ばしたり、画像編集ソフトでシワやたるみを消去したりする行為、あるいは痩身治療の症例でデジタル的にウエストのラインを削って細く見せるといった行為は、客観的事実に反する情報提供として、アウトの対象となります。

また、作為的な画像加工だけでなく、不作為による不一致も「事実を誤認させる広告」として厳しく糾弾されます。

ビフォー写真は暗い部屋でうつむき加減に撮影し、アフター写真は強力な照明を当ててフルメイクを施し、笑顔で撮影するといった手法は、医学的な施術の効果以外の要素で変化を強調しているため、不適切と判断されます。

裁判例や行政指導の傾向を見ても、カメラの画角、被写体との距離、背景の色調、照明の光量、そして患者様の表情に至るまで、可能な限り同一の条件下で撮影された写真でなければ、法的な信頼性を担保することは不可能です。

こうした「演出」が過ぎる写真は、たとえ加工していなくても、実務上は虚偽広告に準ずる扱いを受ける可能性があることを忘れてはなりません。

限定解除の必須要件:付随情報の欠落が招く法的瑕疵

医療広告ガイドラインにおける最大の難所は、症例写真を掲載する際に、写真単体ではなく、必ず「付随する詳細情報」をセットで、かつ明瞭に表示しなければならないという点です。

これが実務上の「限定解除」の核心です。具体的には、通常必要とされる費用、治療の具体的な内容、そして副作用やリスクという三つの重要事項が、写真と一体不可分な形で、ユーザーが容易に認識できる状態で提供される必要があります。

まず、費用の記載については、自由診療である以上、単に「価格」と記すだけでは不十分であり、消費税を含めた総額表示が求められます。

一部のクリニックで見られる「初回限定価格」や「分割払いの月額」のみを強調し、最終的な支払い総額や追加費用の可能性を注釈レベルの小文字で隠すような記載は、患者様の適切な判断を妨げる不当な表示とみなされかねません。

また、副作用やリスクについても、「個人差があります」といった形式的な免責事項だけでは法的な要件を満たしません。

腫れ、内出血、感染症、一時的な痛みといった一般的な反応から、稀に起こりうる重篤な合併症に至るまで、医学的に想定されるリスクを具体的に明記しなければなりません。

さらに、これらの情報の「視認性」も極めて重要です。

スマートフォンの画面で閲覧した際、写真だけが画面全体を占拠し、重要なリスク情報や費用が「別ページへのリンク先」に配置されていたり、延々とスクロールしなければ到達できない「ページ最下部」に集約されていたりする場合、行政当局からは「適切な情報提供の意図がない」と判断され、限定解除の要件を満たさないものとして指導の対象となりえます。

理想的には、写真と同一の視野(ファーストビュー)内にこれらの情報が収まっていることが望ましいとされています。

薬機法と未承認医療機器をめぐる複雑な法規制

美容クリニックの実務において避けて通れないのが、日本国内で薬機法上の承認を得ていない輸入医療機器や医薬品の存在です。

最新のレーザー機器や注入剤など、海外の承認は受けていても国内未承認である機器を用いた症例写真を掲載する場合、医療広告ガイドラインのみならず「薬機法」の網がかかります。

薬機法第66条は、医薬品や医療機器に関する虚偽・誇大広告を厳格に禁じており、その適用範囲は非常に広範です。

未承認の機器について、承認機と比較して「より安全で効果が高い」といった比較優位性を謳ったり、「日本初上陸の革新的技術」といった最上級の表現(最大級表現の禁止)を用いたりすることは、即座に法抵触を招きます。

さらに、ガイドラインでは未承認機を使用する際の情報の透明性を確保するため、五つの具体的項目の明記を義務付けています。

それには、国内未承認であることの明示、入手経路(個人輸入等)の開示、国内に存在する承認済み同種機器との比較情報の提供、諸外国における承認状況や安全性に関する客観的な情報の提示、そして想定される特有のリスクが含まれます。

これらを怠り、症例写真の視覚的効果のみを強調する行為は、未承認医療機器の違法な宣伝活動とみなされる恐れがあり、最悪の場合、多額の課徴金や刑事罰の対象となるリスクさえ孕んでいるのです。

体験談の併記禁止と医療の「品位保持」という概念

症例写真の効果を補強するために、その横に患者様の喜びの声、いわゆる体験談を掲載したいというニーズは非常に高いですが、現在の法制度下ではこれは厳格に解されています。

たとえ、それが捏造ではない真実の感想であっても、医療広告においては掲載すべきではありません。その理由は、体験談が個人の主観に過ぎず、科学的な再現性を担保するものではないため、他の患者様に対して「自分にも同じ効果がある」と誤認させる誘引力が強すぎるためです。

写真と体験談を組み合わせる手法は、現在のネットパトロールにおいて検知されやすい違反形態の一つです。

また、広告全体の「品位」という抽象的な概念も、実務上は重要な判断基準となります。

「今だけモニター価格50%オフ」「先着5名様限定の特別プラン」といったキャンペーン情報を大々的に打ち出し、症例写真と組み合わせて受診を急かす手法は、医療の品位を損なうもの(品位保持細則)として制限されます。

医療は本来、国民の健康を守る公的な性格を帯びたものであり、あまりに露骨な商業主義や購買意欲の扇動は、医療広告としての適格性を欠くとみなされかねません。

歯科、エステ、サロンにおける境界線と法的責任

症例写真の問題は美容外科領域に留まりません。歯科クリニックにおけるインプラントやマウスピース矯正治療のビフォーアフター写真も、同様に厳しいルールの下にあります。

特に矯正治療では、治療期間や痛みの少なさを強調する傾向がありますが、「最短○ヶ月で終了」といった確約的な表現は、個体差による遅延リスクを内包するため不適切とされます。標準的な治療期間と併せて、延長の可能性を十分に説明する文章を添えることが、法的な防衛ラインとなります。

一方、エステサロンや脱毛サロンにおいては、さらに複雑かつ深刻なリスクが存在します。これらは医療機関ではないため、そもそも「治療」や「疾患の改善」を標榜すること自体が医師法や薬機法に抵触する可能性が高いのです。

症例写真を用いて「シミが完全に消える」「小顔に矯正される」「痩身効果が永続する」といった医学的効能を標榜することは、未承認医療機器の広告や、無資格者による医業類似行為とみなされる恐れがあります。

サロン経営においては、医療機関としての症例写真よりも、さらに厳格な「美容・リラクゼーションの範囲内」での表現が求められます。

行政の監視体制の高度化と是正勧告への対応プロセス

現在、厚生労働省は「医療広告ネットパトロール」を外部の専門機関に委託しており、AIを活用したキーワード検索や画像解析による自動検知、さらには競合他社や一般消費者からの通報システムを24時間体制で運用しています。

不適切な症例写真やガイドライン違反が発見されると、まずは自治体や保健所から書面による是正勧告が届きます。

これを軽視して放置したり、場当たり的な修正で済ませたりした場合、中止命令や改善命令、さらにはクリニック名の公表という厳しい行政処分へと発展します。

インターネット上に一度クリニック名が公表されると、その事実はデジタルタトゥーとして永続的に残り、新規患者の獲得のみならず、スタッフの採用や金融機関からの信頼にも甚大な悪影響を及ぼします。

法律事務所の役割は、単に「法的にアウトな箇所を指摘する」ことではありません。行政の動向を先読みし、現在の掲載内容がどの程度のリスクを抱えているかを定量的に評価し、行政との折衝が発生した際には法的根拠を持ってクリニックを守ることにあります。

まとめ

美容医療業界における広告規制は、患者保護の観点から今後さらに巧妙化し、厳格化していくことは間違いありません。

しかし、この規制を単なる「活動を縛る鎖」と捉えるのは早計です。むしろ、法規制を正しく理解し、透明性の高い情報発信を徹底しているクリニックこそが、情報の真偽を見極めるリテラシーの高い現代の患者様から選ばれ、長期的な信頼関係を築くことができると思われます。

症例写真の掲載方法を見直すことは、単なるリスク回避ではなく、患者様に対する誠実な姿勢を可視化する「攻めのブランディング」に他なりません。

もし現在のWebサイトやSNSの運用に少しでも不安を感じられるのであれば、手遅れになる前に、広告法務に精通した弁護士による詳細なリーガルチェックを受けることを強くお勧めいたします。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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