
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
M&Aの成否を分けるのは、契約書の文言だけではありません。一定規模以上の統合においてハードルとなるのが公正取引委員会による企業結合審査です。独占禁止法の規制を軽視してしまうと、巨額の過料が課されたり、クロージング直前で計画が白紙に追い込まれたりするおそれもあります。本コラムでは、M&Aにおける独禁法上の手続きから、実務担当者が陥りやすい「ガン・ジャンピング」の罠まで、弁護士の視点で分かりやすく解説いたします。
M&Aに潜む独禁法上の法的問題

企業経営において、M&Aは、時間を買うための有力な戦略といえます。経営者が買収スキームを固め、基本合意に至った際、多くの関心は「買収価格」や「シナジー効果」に向かうかと思います。しかし、実務において、その成功を最後に担保するのは、契約書の文言以上に、「公正取引委員会(公取委)」との折衝といえます。特に、同業他社や関連市場の企業を買収する場合、その背後には常に「公正取引委員会(公取委)」の厳しい目が光っていると考えた方がよいでしょう。
独占禁止法は、特定の企業が市場を独占し、競争を実質的に制限することを禁じています。したがって、経営者が「この買収で市場シェアを圧倒できる」と考えたときには、常に「公取委からストップがかかるリスクがないか」を検討する必要があります。この独禁法上のハードルをどう乗り越えるかが、ディール(取引)の成否を左右するといえます。
独禁法が定める厳格な「企業結合審査」のプロセス

M&Aにおいて公取委が行うチェックを「企業結合審査」と呼びます。これは独占禁止法第10条以下で明確に規定された法的義務です。
独占禁止法第10条第1項によると、会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはならないこととされています。
この規定に基づき、一定の規模(買い手グループの国内売上高合計200億円超、かつ、対象会社の国内売上高50億円超など)を超えるM&Aを行う場合、「事前届出」が義務付けられていることになります。
1. 事前届出と「30日間の禁止期間」
独禁法第10条第2項に基づき、一定規模を超える案件では、実行前に公取委への届出が義務付けられています。
届出を受理してから原則として30日間は、株式取得や合併を実行することができません(独禁法第10条第8項)。この「禁止期間」を無視してクロージングを急ぐことは法律で禁じられており、M&Aのスケジュールを設計する上で最も基礎的な要素となります。
2. 第1次審査と第2次審査
多くの場合、30日以内の「第1次審査」で終了しますが、市場への影響が大きいと判断された場合、追加の資料提出を求められる「第2次審査」へと移行します(独禁法第10条第9項)。こうなると審査はさらに数ヶ月延び、ディールのスピード感は著しく損なわれます。
買収前調査(DD)に潜む罠:「ガン・ジャンピング」とは?

M&Aの成約前に行われる詳細な資産査定を「DD(デューデリジェンス)」と呼びます。買い手にとって、相手企業の隠れた負債や独禁法違反(過去のカルテル関与など)を暴き出すDDは不可欠なプロセスといえます。
しかし、ここで細心の注意が必要なのが「ガン・ジャンピング」です。
「ガン・ジャンピング」とは、陸上競技のフライングになぞらえた呼び名で、審査が終わる前に実質的な経営統合(人事の掌握や機密情報の完全共有など)を進めてしまうことをいいます。これに違反した場合、独禁法第91条の2に基づき、最高で200万円以下の過料が課される可能性があるほか、審査自体が中断されるなどの甚大な実務上の不利益を被ります。
DDでは相手の「秘密」をさらけ出す必要がありますが、買収側と対象会社が競合関係にある場合、DDを通じて詳細な価格データや顧客情報を共有しすぎると、「買収前にカルテルを行っている」とみなされるリスクがあるといえます。
このリスクを回避しつつDDを完遂させるためには、下記のとおり、外部の弁護士のみが機密情報を閲覧する「クリーンチーム」の設置など、高度な実務ノウハウが求められます。
・ クリーンチーム(Clean Team)の設置:
買収側の「営業担当」などは情報を見ず、外部の弁護士や会計士、あるいは統合に関わらない特定メンバーだけが機密情報を閲覧・分析する体制の設置。
・ 段階的な開示: 審査が進むにつれて、より深い情報を開示していく。
まとめ

M&Aにおける独占禁止法は、単なる手続きの枠組みではなく、ディール全体の成否を左右する戦略的要素です。
独禁法第1条には、その目的として「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」と記されています。この目的に適いつつ、企業の成長を止めることのないM&Aを実現するためには、検討の初期段階から専門的な知見を持つ弁護士と連携することが不可欠といえます。
独占禁止法は専門的な法分野だといえますので、お悩みの際には、同法に精通した弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。
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