「定款に社長が議長と規定されているから、不信任動議は即時却下できる」——この思い込みが、株主総会後の決議取消訴訟を招く可能性があります。東京高裁判例は、定款規定があっても動議は原則として議場に諮るべきと明示しています。本記事では、判例が示す正確な法的立場と、採決後も社長が議長を続行できる実務対応フローを弁護士が解説します。

◆ この記事のポイント(要約チェックリスト)  

  • 定款に「社長が議長」とあっても、不信任動議を即時却下するのはNG
  • 東京高裁判例は「原則として議場に諮る(採決する)べき」と明示
  • 採決しても「定款変更(特別決議)」がなされない限り、議長交代は不要
  • 「動議を無視」するリスクは、将来の決議取消訴訟に直結する

1 はじめに

株主総会シーズンを前に、顧問先の中小企業担当者様から切実な相談を受けました。「敵対的株主から議長不信任動議が出されそうだ。定款には『社長を議長とする』と明記されているから、即座に却下して良いですよね?」という内容です。

一見すると、「定款の定めを根拠に却下して構いません」と回答したくなります。しかし改めて判例を精査したところ、確定した見解ではありませんが、東京高裁で争われた事案について、たとえ定款に定めがあっても「動議を無視してはならない」という厳しい判断を示しているのです。

本稿では、私自身の反省を踏まえ、中小企業が陥りやすい「議長不信任動議」の法的リスクと、正しい実務対応を解説します。

2 「議長不信任動議」とは何か

株主総会における議長には、議事進行や秩序維持に関する広範な権限(会社法第315条)が与えられています。これに対し、株主が「議長の公平性に疑義がある」として交代を求める動議を「議長不信任動議」と呼びます。

多くの企業では定款に「代表取締役社長が議長となる」旨の規定を設けています。そのため「定款があるから却下できる」と考えがちですが、この思い込みが最も危険です。

3 東京高裁判決が示した3つの重要ポイント

実務の指針となるのが、東京高等裁判所平成22年11月24日判決(平成22年(ネ)第5350号・株主総会決議取消等請求控訴事件)です。この判決は会社側の「定款優先論」を真っ向から否定しました。

① 原則として議場に諮る(採決する)必要がある

判決は、不信任動議が「権利の濫用に当たるなどの合理性を欠いたものであることが一見して明白な場合」を除き、「これを議場に諮る必要がある」と明示しました。つまり、動議が提出された以上、原則として採決に付さなければなりません。

② 「明白な濫用」でも「一度は諮ることが望ましい」

判決はさらに「仮に合理性を欠くことが一見して明白であっても、1度は議場に諮ることが望ましい」と踏み込んでいます。「明らかな嫌がらせ」と安易に決めつけることは法的リスクを孕みます。なお判決は「濫用的動議の提出と認めることに慎重なようである」とも注記しており、例外的な却下判断の基準は相当高いといえます。

定款規定による「動議排除」論を明示的に否定

「定款において議長と定められた者について議長としての適格性を欠く事情があるときであっても、定款の定めにより議長不信任の動議が許されないとするのは不合理」と明示されました。定款規定は「動議そのものを封じる盾」にはなりません。

◆ 判例の結論まとめ  
・定款規定は「動議を排除する根拠」にはなりません
・原則として動議は議場に諮り、採決に付す必要があります
・採り上げない例外は「一見して明白な権利の濫用」に限られ、判断は慎重に
・疑わしい場合は採決に付すことを強く推奨します

4 では、定款規定はどこで活きるのか

「定款の規定は何のためにあるのか?」という疑問が生じます。答えは明確です。定款規定が活きるのは「動議の却下」の場面ではなく、「採決後も議長として続行できる」場面です。

定款の変更は特別決議事項(会社法第309条第2項第11号)であり、出席議決権の3分の2以上の賛成が必要です。たとえ普通決議で「不信任」が可決されたとしても、特別決議による定款変更がなされない限り、社長は引き続き議長として議事を続行できます。

敵対的株主が議決権の3分の1以上を単独保有していない場合は、特別決議要件に到底届かないため、採決を経ても社長が議長を続行することに何ら問題はありません。

5 実務対応フロー(段階別)

動議が提出された際の正しいステップは以下のとおりです。

  • ステップ01動議の受理と採決への移行宣言
    即座に却下せず、まずは発言を最後まで聞きます。                     
    議長発言例:  「ただいま株主様より、議長不信任の動議が出されました。  本動議を議場に諮ることといたします。」
  • ステップ02
    挙手等で採決を行い、結果を宣告します。
    議長発言例:  「本動議に賛成の株主様は挙手をお願いします。……採決いたします。」
  • ステップ03定款規定に基づき続行を宣言(仮に可決された場合)
    万一、過半数の賛成が得られた場合でも、毅然と以下のとおり宣言します。                     
    議長発言例:  「本動議は過半数の賛成を得ましたが、当社定款第○条では『社長を議長とする』と定めております。この定款を変更するには特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要ですが、本件はその要件を満たしておりません。したがいまして、引き続き私が議長を務めさせていただきます。」

6 議事録の重要性

不信任動議が出された場合、そのやり取りを株主総会議事録に正確・詳細に記載することが不可欠です。

  • 動議が出された事実
  • 採決を行った事実とその結果
  • 定款規定に基づき続行した理由

以上の3点を明記しておくことで、後に「決議方法が著しく不当である(会社法第831条第1項第1号)」として決議取消訴訟を提起された際の、最強の防御資料となります。

7 まとめ・弁護士へのご相談

「定款があるから大丈夫」という思い込みで動議を無視・却下することは、会社にとって「総会決議の取消」という将来のリスクを抱えることに等しい行為です。専門家であっても判断を誤るほど、株主総会の実務は繊細です。

不穏株主への対応、当日のシナリオ作成、不測の事態への備えは、ぜひ経験豊富な弁護士にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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