M&Aを行う場合、デューディリジェンスと言って、買手は売手企業の内容を様々な観点から調査します。今回は売手企業がかかえる訴訟・紛争につき、調査の目的、調査の対象、資料による調査、ヒアリングによる調査、調査結果の分析と留意点について述べてみました。

1 なぜ訴訟・紛争を調査するのか

M&Aにおけるデューディリジェンスでは、売手企業の財務や税務だけでなく、法務面のリスクを把握することも重要です。その中でも、訴訟や紛争に関する調査は、買手企業が将来負担することになる可能性のある法的リスクを把握するために欠かせません。

訴訟が継続している場合には、敗訴による損害賠償や和解金の支払いだけでなく、事業活動への影響や企業の信用低下を招く可能性があります。また、現在は訴訟になっていないクレームであっても、将来訴訟に発展する可能性がある案件も少なくありません。

さらに、過去の訴訟や紛争についても、その内容を確認することには意味があります。同種の紛争が繰り返し発生している場合には、契約管理や労務管理、品質管理など、企業の内部管理体制に問題が存在する可能性があるからです。

したがって、訴訟・紛争の調査は、単に係属事件の有無を確認するだけではなく、売手企業が抱える法的リスクやコンプライアンス上の課題を把握するために行うものと考えるべきです。

2 調査対象(継続中の訴訟、過去の紛争、クレームなど)

まず確認すべきは、裁判所に係属している民事訴訟、行政訴訟、労働審判、保全事件、調停などです。また、仲裁のような裁判外紛争解決手続(ADR)が利用されている場合も対象となります。

次に、過去に終了した訴訟や紛争についても確認します。すでに解決している案件であっても、同様の紛争が再び発生する可能性があるためです。例えば、残業代請求がくり返されている、知的財産権侵害を何度も指摘されている、品質不良に関する紛争が頻発しているといった事情があれば、企業が構造的な問題を抱えていることも考えられます。

また、訴訟、調停に至っていない、交渉案件、クレームも重要な調査対象となります。取引先からの契約違反の指摘、製品の品質不良に関する苦情、顧客からの損害賠償請求、従業員とのトラブルなどは、現時点では小さな問題であっても、将来大きな紛争へ発展する可能性があります。

したがって、「裁判になっている案件」だけではなく、「紛争化している案件」や「紛争の芽となり得る案件」まで視野に入れて調査することが大切です。

3 資料による調査

資料調査では、売手企業に対して訴訟・紛争に関する資料の提出を依頼します。

まず必要となるのは、現在係属中の、あるいはすでに終了した訴訟一覧や紛争一覧です。各案件について、当事者、請求内容、請求金額、訴訟の進行状況、今後の見通しなどが整理されている資料が望まれます。

また、裁判所の決定書、判決書、和解調書などを提出してもらうほか、訴状、答弁書、準備書面なども場合によって確認します。

訴訟に至っていないクレームについては、クレーム管理台帳、顧客対応記録、事故報告書、品質不良報告書、社内稟議書などが参考になります。また、損害賠償請求書や内容証明郵便などが存在する場合には、それらも確認すべき資料です。

重要なのは、提出された資料を個別案件ごとに見るだけでなく、同じ種類の紛争が繰り返されていないかという観点から全体を分析することです。

4 ヒアリングによる調査

資料だけでは把握できない事情については、ヒアリングによって確認します。

対象となるのは、代表者、法務担当者、総務担当者、人事担当者のほか、案件によっては営業責任者や工場責任者など、実際に紛争へ対応した担当者です。

ヒアリングでは、現在進行中の案件だけではなく、資料に記載されていないトラブルの有無についても確認します。「訴訟にはなっていないものの、損害賠償を請求されている案件はないか」「弁護士へ相談している案件はないか」「今後紛争になる可能性がある案件はないか」といった点も質問するとよいと思います。

また、紛争の原因についても確認することが大切です。契約書の整備不足によるものなのか、従業員教育の不足によるものなのか、それとも品質管理体制に問題があるのかによって、買収後に必要となる対応も異なります。

さらに、過去の紛争を踏まえて再発防止策が講じられているかどうかも確認しておくポイントです。同じ問題が何度もくり返されているのであれば、内部統制やコンプライアンス体制に課題が残されている可能性があります。

5 調査結果の分析と留意点

一件の訴訟であっても、数十億円規模の損害賠償請求であれば企業価値へ重大な影響を与えることがあります。一方、多数の小規模なクレームが存在する場合には、企業の業務運営そのものに問題がある可能性もあります。

そのため、個々の案件の金額や勝敗の見込みだけでなく、紛争の発生原因、再発可能性、企業全体への影響を総合的に評価することが重要です。

調査の結果、重大なリスクが判明した場合には、買収価格の見直し、クロージング前の解決の要求、表明保証や補償条項の充実など、契約条件へ反映することも検討すべきです。

6 おわりに

訴訟・紛争に関するデューディリジェンスは、企業がどのような法的リスクを抱えているのか、そのリスクが一時的なものなのか、それとも事業活動や内部管理体制に起因する構造的な問題なのかを見極めることに本来の目的があります。

そのためには、提出資料の確認だけでなく、関係者へのヒアリングや過去の紛争の分析を組み合わせ、多面的な調査を行うことが重要です。そして、判明したリスクを適切に評価し、必要に応じて買収価格や契約条件へ反映させることによって、買手企業は将来の予期せぬ損失を回避しやすくなります。

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この記事を書いた弁護士:代表弁護士 森田 茂夫

M&A

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会会員。早稲田大学法学部卒業。
買手企業、売手企業からの依頼に応じて、M&A仲介業者との仲介契約書、買手企業と売手企業間の基本合意書、株式譲渡契約書などの契約書レビューを行うとともに、契約書、人事労務関係、株式などについてのデューデリジェンスを行っている。迅速かつ正確な対応には定評がある。