
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
政府主導でスタートアップと大企業の共同開発(オープンイノベーション)が加速する一方、契約段階で「ノウハウの無償開示」や「将来生まれる特許の独占」を迫られるトラブルが増えています。こうした行為は、独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」に該当するおそれがあります。本コラムでは、公正取引委員会のガイドラインに基づき、契約交渉でスタートアップ側が押さえておくべき防衛ラインを弁護士が解説します。
「オープンイノベーション」の掛け声の裏にある落とし穴

近年、政府はスタートアップ支援を強化しており、大企業が新興企業や研究機関と手を組む「オープンイノベーション」型の共同開発が急速に活発化しています。互いの強みを持ち寄る取り組みとして歓迎すべき流れである一方、実務の現場では、契約交渉の入り口で早くも問題が生じているケースが少なくありません。
「まずは技術の詳細を全部見せてもらわないと、提携するかどうか判断できない」、「共同開発である以上、生まれた特許権はすべて弊社に帰属させてほしい」――大企業側の担当者にとっては、社内稟議を通すための「当然の要求」に聞こえるかもしれません。
しかし、資金力や交渉力で圧倒的に劣るスタートアップ側からすれば、これに応じなければ提携そのものが打ち切られかねない、事実上「拒否できない要求」であることが少なくありません。
独禁法はなぜ大企業とスタートアップの契約に介入するのか

独占禁止法第2条第9項第5号は、取引上優越した地位にある事業者が、その地位を利用して取引の相手方に「不当に不利益となるよう取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」を「優越的地位の濫用」として禁じています。
大企業とスタートアップの力関係は、資金力・人材・販路のいずれをとっても対等とはいえないケースがほとんどかと思われます。
公正取引委員会は、こうした実態を踏まえ「スタートアップとの取引に関する公正取引委員会の考え方(ガイドライン)」を公表し、共同研究契約やライセンス契約の場面で独禁法・下請法がどのように適用されるかを具体的に整理しています。
独占禁止法上問題のある要求の具体例

① ノウハウ・技術情報の無償開示強要
提携の検討段階で、契約締結前にもかかわらずスタートアップの核心的な技術情報やノウハウの全面開示を求め、結果的に提携が流れた後も、その情報を自社の開発に活用してしまうケースです。秘密保持契約を締結していても、目的外利用を防ぐ実効性のある条項がなければ、開示した技術がそのまま模倣されるリスクがあるといえます。
② 成果物・特許の無断独占
共同開発によって新たに生まれた発明だけでなく、スタートアップが提携前から保有していた技術やノウハウまで、大企業側に無償で帰属させる契約を一方的に押し付ける行為です。スタートアップにとって既存技術は事業の生命線であり、これを失えば他社との取引や資金調達そのものが困難になりかねません。
③ 秘密保持義務・責任分担の一方的な不均衡
秘密保持義務がスタートアップ側にのみ重く課される一方、大企業側の義務は緩やかに設計されている契約や、開発が中止になった場合の費用負担・在庫処分・違約金をすべてスタートアップ側に押し付ける契約も、優越的地位の濫用として問題視される典型例といえます。
公取委ガイドラインが示す判断基準

公取委のガイドラインでは、①取引の相手方に対して優越的地位にあるか、②その地位を利用して正常な商慣習に照らして不当な不利益を与えているか、という2つの観点から違法性を判断します。
「業界の慣行だから」、「契約書に合意のサインがあるから」という理由だけでは正当化されず、実質的に「拒否すれば今後の取引に悪影響が及ぶ」と相手方が受け止めざるを得ない状況で要求が行われたかどうかが重視されると考えられます。
まとめ

オープンイノベーションは、うまく機能すれば双方にとって大きな成長機会となります。しかし、その入り口となる契約交渉で不利な条件を飲まされてしまえば、スタートアップが持つ最大の資産である技術とノウハウを失いかねません。「大企業との提携だから」と遠慮せず、契約書の一条一句を対等な目線で見極めることが、後悔しない提携の第一歩といえます。
共同開発契約・秘密保持契約のリーガルチェックや、提携交渉における不当な要求への対応でお悩みの際は、ぜひ当事務所へご相談ください。貴社の技術と将来の成長機会を守るための契約戦略を、実務目線でサポートいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書レビューも特定の弁護士が行います。このような専門性により、企業法務において大きな強みを持っています。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。
この記事を書いた弁護士:弁護士 渡邉千晃
独占禁止法
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。法科大学院において、独占禁止法を専攻し知見を深める。令和4年登録後、顧問会社からの独占禁止法に関する多数の相談に応じる。公正取引委員会の指針や審決例を熟知し、優越的地位の濫用や再販売価格維持などといった現場特有のリスクに対し、理論と実務の両面から即効性のある提言を行う。経営戦略と法遵守を両立させる専門家であることを身上とする。






